スイスの平均年収は日本の3.6倍、物価は日本の2.5倍程度です。マクドナルドで見れば、従業員の時給は約4400円、ビッグマックは約1200円です。日本のマクドナルドの時給は約1000円、ビッグマックは450円で時給は4.4倍、物価は2.67倍です。全体的に時給は韓国にも抜かれ、岸田首相が全国加重平均1000円の最低賃金を目指すと言っており、最低賃金の地域間格差もあり、日本の最低賃金の低さは大きな問題になっています。

 他国の最低賃金が上がっても日本はデフレを理由に何もしてこなかったのが実態で、金利差拡大による円安でインフレが進行する中、若者がワーキングホリデーを使って海外へ流出していき、国際的な人材獲得競争が起こり、対策が急務となっています。春闘で妥結された大企業の賃金上昇が大きいと言われていますが、消費者物価上昇率を引いた実質賃金はマイナスのままでは個人消費は冷え込んだままです。

 OECDの雇用見通しにもありましたが、ポーランドのようにインフレ率に応じて自動的に賃金が上がるようなシステムが日本にはないため、今後もインフレに賃金の上昇が追い付かない可能性は高いです。政府が複雑な最低賃金制度を維持して、最低賃金を押さえつけ続ければ、日本の実質賃金は一向に上がらないでしょう。フランスやポーランドのように物価上昇と最低賃金上昇率が連動し、欧州のように最低賃金は平均賃金の60%を目指すように制度設計がなされなければ政府と労働者の信頼関係は深まらないし、グローバルスタンダードとは程遠いです。

 正規雇用と非正規雇用の取り返しのつかない格差も原因のひとつです。時給で1.8倍の格差があり、これが賃金上昇に結びつかない土壌となっています。正規雇用に対する非正規雇用の時間当たり賃金の比率ですが、日本は64.8%しかありません。国際比較では、イギリスは85.1%、フランスは81.1%、イタリアは78.8%、ドイツは73.6%です。

 男女間格差も深刻な問題です。OECDの男女間格差をみると、日本の男性賃金の中央値を100とした場合の女性賃金の中央値は77.5しかありません。OECDの平均が88.4、ニュージーランドやノルウェー、デンマークといった90を超えている国と比較すると、日本の男女間賃金格差は大きな問題です。ジェンダーの問題は、議員や役員に女性を50%目標で増やすべきですが、これも消極的で社会の活力を削いでいると言えます。

 労働組合の形骸化も問題で、日本の労働組合の推定加入率は16.5%。以前は全労働者の8割超が労働組合に加入していたと考えれば、労働者の権利が守られているとは言えず、労働組合は企業に忖度してしまい、いつまでも賃金が上がらない仕組みが出来上がってしまっています。欧米のように業種別の組合組織にしていくべきなのですが、日本では大企業に勤める労働組合も、自分の地位を守ることで精いっぱいともいえます。

日本企業の業績が良いといっても通貨安を背景にしており、円安に依存しなくてもいいグローバル企業が日本には少ないという問題もあります。高い法人税、借金大国、英語が不得意な人種ではグローバル企業は拠点を日本に置きたがりません。日本企業の国際競争力を考えると、やはり、最低賃金の制度設計から考え直さなければならないと思います。原油高、円安がこのまま続くことを考えれば、消費者物価指数の上昇率が鈍化するとは考えにくいです。時給も加重平均1000円もいかない状況では、たとえ時給が1500円になっても業種によっては人が集まらない状況が出てくるでしょう。人手不足は今後もますます深刻化していきます。従業員99人以下の企業の賃金や非正規労働者の平均時給をインフレ率より上回るような最低賃金の制度設計を早急に考えなさなければならないです。