アメリカ下院では13日、TikTokの中国親会社が米国のTikTok事業を売却しない限り、米国内でTikTokを禁止する法案が可決されました。2月末、連邦政府職員の公用端末での「TikTok」の使用が禁止されたことに続き、さらに規制をかける構えです。

中国政府は自国民にX、インスタグラム、フェイスブック、グーグルにアクセスする権利も与えていません。中国ではメディアはあくまでも共産党の宣伝媒体でしかないからです。

 にもかかわらず、中国政府の高官がXを使って米国を批判しているのは、この上もなく皮肉なことだと米国の駐中国大使であるバーンズ氏は、ブルームバーグのインタビューで述べました。

 ご存じのとおり、米国は中国に対して先端半導体の規制をかけています。バーンズ氏によればTikTokと先端半導体は米中対立の中心にあり、これらの技術は軍事技術に転用されると考えられています。

 匿名のTikTokの元従業員からの情報では「TikTokおよび中国に拠点を置く親会社のバイトダンスの従業員は、中国と米国それぞれのデータへのアクセスを簡単に切り替えられる」「中国在住のエンジニアが他国のユーザーのデータを定期的にバックアップし、収集・分析しているのを目撃した」といった内容の書簡を上院議員がイエレン財務長官に宛てたそうです。

 米国に続き、EU、カナダでもほぼ同時期に政府職員が使用する端末でのTikTokの使用禁止が命じられており、日本でも公用端末においてTikTokの利用が禁止されているようです。

 中国の国家情報法は、同国の企業や民間人に対し、安全保障や治安維持のために中国政府の情報収集活動に協力することを義務付けています。中国政府は企業などが持つデータをいつでも要求でき、日本をはじめ外国企業も当然対象となっています。これが、西側諸国を驚かせ、米国を本気にさせてしまったのです。

 実際、TikTokは、2022年12月にフォーブスが報じたところでは、米国のTikTokおよび中国親会社バイトダンスの数人の従業員が2人のジャーナリストを含む売国市民のユーザーデータに不正アクセスし、その事実をTikTok側も認めています。

 TikTokが自動収集するデータは、ユーザーの基本情報や趣味嗜好情報に加え、ユーザーの声紋や顔情報、身体的特徴といった生体情報、トーク内容といったものがあり、こうして入手したあなたの顔画像や身体画像、声のデータを用いてディープフェイク動画を作成、勝手に他のSNS等で偽アカウントを作って他国民とつながってさらに情報収集や操作を行えるのです。

 フェイスブックではすでにそれらしき日本人の名前を使った中国人がつながり申請をしているのが散見されます。中国当局にとってTikTokは、他国の世論を操作するなどの情報戦できわめて有効な手段になるかもしれないと考えている節があります。動画のランキングを操作して反中的な投稿をランキング外にする、中国に有効的な世論を形成することは可能となっているからです。

 中国には、「五毛党」といった情報工作集団があり、情報戦の感度は非常に高いです。こうした手段を使って、軍事侵攻という大きなリスクを冒さずとも緩やかに台湾統一を目指すことも当然ありえます。

 検索履歴はかなり重要な個人情報です。TikTok経由で収集された検索履歴を、個々のユーザー情報と紐づけされた形で中国当局が入手できれば、在外反体制派中国人の追跡や連れ戻し、他国の反中的言論人の把握や監視にきわめて有効なツールとなります。

 反中国共産党的な考えをもつ日本在住の中国人留学生をハニートラップで帰国させたりする事例があります。中国人でなくとも、中国当局があなたのスマホから有用な情報を入手できれば、意図せずに彼らのスパイ活動に貢献することにもなりかねません。

 最近、香港の民主活動家の周庭さんが、カナダ留学にあたり、スパイ活動を強要されていたというニュースがありました。中国当局はどんな自国民でも政治工作や諜報活動を強いられる可能性すらあることを示す例だと思いました。

 中国当局の関与が疑われるのはTikTokだけではなく、12億人を超えるユーザーを抱えるメッセージアプリWeChatも、香港問題や天安門事件に言及する、中国のゼロコロナ政策に異を唱える投稿やアカウントを意図的に削除することで有名です。さらにファーウェイやZTEといった中国メーカー製のネットワーク機器や携帯電話基地局設備は米国政府などからたびたびバックドアの存在を指摘されています。

 中国は非常にしたたかです。過去から通常戦、外交戦、国家テロ戦、諜報戦、ネットワーク戦、法律戦、心理戦、メディア戦など非常に多数の手法を使って戦争をしています。現にすでに脅威となっているSNSを使った工作も時代に合わせた手段として一翼を担っています。身近なSNSでも、つながり申請してくる外国人には気を付けたほうがいいでしょう。先に行われた中国共産党の全人代で新設された「国家データ局」で情報操作が今後ますます運用強化されていくのは間違いないと思います。