政治家の日記は基本的に自分の都合の悪いことは書かないし、本当に重大なことが起こった時はその部分を白紙にして何も書かないことがあるということを私は鳥居民さんの一連の本を読んで学びました。

だから未来の研究者は政治家の日記を読む際には、書かれたことを「実証」するだけでは不十分で、何が書かれなかったのかを他の資料と付き合わせて「想像力」を働かせなければならないと鳥居さんは主張したのです。

私はこの鳥居民さんの提言は永遠の真理だと思っていますが、その方法に限界があるとも思っていました。やはり、マス・メディアの発達した明治維新以後に限るのだろうと考えていたのです。

しかしこの度明智憲三郎氏が書いた『本能寺の変 431年目の真実』を読んで認識が変わりました。明智氏は鳥居民さんと同じような手法を用いて本能寺の変の真実を明らかにされたのです。

細かい部分は直接本を読んで確認して欲しいのですが、結論は簡単にいうと次のようなものです。

信長は本能寺において光秀に命じて家康を殺させるつもりだったのですが、逆に光秀は信長を殺してしまうのです。

こうなった背景には政策の対立があったと明智さんは主張しています。

当時の日本を取り囲む情勢は「大航海時代」です。宣教師からの情報で世界がどのように動いているか戦国武将達ははっきりとした認識を持ち、それにどう対処するかで別れていくのです。

光秀は信長の考えに危機感を持ちます。

「長宗我部征伐から始まり、遠国への移封が続き、そして最後は中国大陸へ。この流れを何としても止めねばならなかったのである」

イギリスの歴史家E H カーは「歴史は現在と過去の対話である」と言っています。明智さんの分析が説得力を持つのは現在の日本が光秀の時代と同じような課題を抱えているからです。

それは「グローバリズム」を巡る問題と一緒なのです。

グローバリズムに賛成 信長、秀吉

グローバリズムに反対 光秀、家康

このように置き換えると、400年前も現在も日本は同じような国内闘争を経験しているのです。

少し例をあげてみます。明智さんは光秀が山崎の合戦で敗れた理由を次のように指摘しています。

「秀吉の中国大返しが光秀に敗戦をもたらしたが、突き詰めると摂津勢が秀吉に味方して光秀に敵対したことが光秀にとって最大の敗因になったのだ。オルガンティーノが高山右近に『何があっても光秀には味方するな』と書状を出したのが光秀の敗北を決定したのだ」

現在でも欧米のマスコミはグローバリズムを推進した小泉政権をやたらと持ち上げて、ドメスティック派の政治家が大嫌いなのは400年前から何も変わっていないみたいです。

私は現在の経済問題がエマニュエル・トッドが主張するように「肥大したグローバリズム」に問題があると思っているので、この本を読んで光秀に同情的になってしまいました。

いずれにせよ大変面白い本なので読んでみてください。