第二話 -陰の中で-
彼の唇から言葉が紡がれてから何分が経過したのだろうか。
否、自分がそう思うだけで実際はそれほどの時間ではないのかもしれない。
言葉を聞き取れていなかった渚は、既に光が消え見えなくなってしまった目の前の相手へと視線を向ける。
「ごめん。…今、なんて?」
カタカタと小さく震えた唇から問いかける声が零れ落ちた。
そう、いつだって怖い。緊張しかしていない。
…特に最近は、安らげることなどなくなってしまった。
目の前の「彼」は------赤羽業は、変わってしまっていたから。
渚はいつからか、業の視線が友好的なものでないことに気が付くようになっていた。
其の瞳が、視線が、自分を「友人」としてみているものではないことに気が付いていた。
自分の質問にもう一度目の前の彼は応えるのだろうか。
それとも彼は……
考えるべきではないとわかっていながらもやはり考えてしまう。
想像出来うる限りの「最悪の事態」を。
ちらりと相手の様子をうかがっては大丈夫だと自分に言い聞かせる。
唯、自分にとって彼はあくまで友達だと、そう自分に思い込ませてきた。
そう言い聞かせて、思い込むしかなかったのだ。
彼にとっての自分は友達だといえるのだろうか。
「なんでもないよ、…それよりさ、今日も――」
何を思ったのだろうか、彼は突然にそんなことを言い出した。
……僕の質問を無視したのは”同じことは言わない”ということなのだろうか。
そして今突きつけられた要求はおそらく、「いつものコト」。
こくり。小さく頷いて笑みを顔に貼り付ければ立ち上がる。
”この微笑みが偽物だということに気づきませんように”
そんなことを考え乍歩みを進めて相手の胸の中へと納まれば僕は何もしなくていい。
ただ単純に、目の前の「彼」に身体を委ねればいい。
そうすれば、僕たちは今迄通りの「友達」でいられるから。
―――僕たちの此の関係は、この闇が、影が。すべて覆い隠して消し去ってくれるから。
<続く>