「第4世代ガールズグループ」という言葉がある。

2018年頃から現在に至る期間にデビューしたK-POPガールズグループ勢を包括的にそう呼ぶらしい。

具体的には(G)-IDLEが'18年デビュー、ITZYが'19年デビューであるから、彼女達と同期かそれ以降のデビュー組は第4世代ということになるわけだ。

 

所詮は年表上で時代を分類するに便利な言葉に過ぎないから別にその定義に拘るつもりはないのだが、最近少なくともサウンドに関しては第4世代の中でも指向がはっきりと分かれてきたように感じている。

端的に言うと2010年代の延長上にあるのか、それとも2020年代の到来を感じさせるかと言うことに尽きる。

 

その違いがはっきりと分かる瞬間というのが自宅やイベント会場で音楽にのめり込んでいる最中ではなく、日常生活の中でBGMとして触れたとき、例えば休日に近所のショッピングセンターで買い物をしている最中だったりする。

そのとき流れてくるのが'10年代然としたEDM系の曲だと良くも悪くも「あっK-POPだ」と身構えさせられてしまうのだが、例えばIVEの楽曲などは何の違和感もなく日常の風景に溶け込んでいるのに場の雰囲気は華やかに一変するのだ。

 

 

そのような瞬間に居合わせると、コロナウイルスの流行によって出鼻をくじかれていた'20年代がようやく訪れたことを感じる。

実際K-POP界の商業的な戦略としても、ゴリ押しの異形感を剥き出しにすることで存在感を知らしめてきた'10年代を経て、さらに裾野を広げようと狙っているのかも知れない。

 

他に'20年代を感じさせる第4世代グループとして、個人的にはLE SSERAFIMNewJeansも挙げておきたい。

楽曲紹介は次の機会とするが、いずれもHYBEの系列レーベルからデビューしているのがポイントである。

これらのグループと較べるとSMEやJYP辺りの新人が'10年代の延長線上に感じられてしまう辺り、HYBE強ぇーなと唸ってしまう。

ちなみに前述のIVEが所属しているSTARSHIP ENTERTAINMENTも、元を辿ればHYBEの前身であるBig Hit Entertainment出身者が設立した事務所だったりする。

 

そんな強豪勢と較べて中小事務所に所属するグループの最近の情勢はどうかと言うと、売り上げも作品のクオリティも強豪事務所との格差がますます広がっている気がする。

 

作品のクオリティを維持するためにはそれを支えるスタッフのサスティナビリティが必要であり、スタッフのサスティナビリティには金銭のサスティナビリティが必要であり、詰まるところ事務所の財力のサスティナビリティが作品のクオリティに直結している。

IVEやLE SSERAFIMのコンセプトからアウトプットまで完璧に練り上げられた作品群を目の当たりにするとそれを痛感するし、中小事務所が同等の投資をつぎ込むことは困難だろう。

 

大きな事務所に所属している人気グループの公式サイトをのぞいてみると、メンバーの顔写真が印刷された「うちわ」が1枚1,000円くらいで販売されていたりする。

それ自体は別にべらぼうな価格ではないのだが、1枚1,000円と言えばCDシングル1枚と同じくらいの金額なわけだ。

うちわ1枚とCD1枚の制作費用を考えてみたらその差は歴然なわけで、ファンミーティングやコンサートのたびにうちわを売り出せるほどの人気ともなればそりゃぁ儲かるだろう。

 

つまり、グッズという副産物で儲けられる(ほど人気のある、そして人気を維持できる)グループとそうでないグループとの差は明らかであり、つくづくアイドル業界はモンキービジネスであると実感させられる。

 

という訳で中小事務所所属のガールズグループには'20年代を見出せていないのが正直なところだが、唯一の例外がMODHAUStripleSだ。

 

MODHAUSはかつてLOVELYZやLOONAを手掛けたJaden Jeong氏が昨年設立した事務所である。

総勢24名(!)とも噂されるtripleSはまだ8名のメンバーだけが公開されている状態で、そのうちの4名によるユニットAcid Angel from Asiaが11月にデビューを迎える。

 

という訳で現時点では完全体デビュー前のLOONA以上に謎だらけの存在ではあるが、音楽的な可能性も然ることながら、Jaden氏がビジネスをどう展開していくのかにも興味がある。

 

楠みちはる氏著「湾岸ミッドナイト C1ランナー」の第9巻には以下のような台詞が登場する。
(自動車の)チューニングはモンキービジネス

まともにやれば絶対成立しない

だから利益を生む後ろ盾がいる

 

Jaden氏はアイドル業界がモンキービジネスであることを承知しているのかもしれない。

LOONAをBlockBerry Creativeからデビューさせる際にスポンサーを募って資金を準備したのは、つまりそういうことなのだろう。

 

その後同氏がBlockBerryと決別したりBlockBerryがスポンサー企業から告訴されたりとかして結果的に成功したビジネスモデルとは言えないが、それでも興味深い試みだったと思う。

 

中小の芸能事務所が'20年代をどう生き抜いていくのか、それを占う意味でもtripleSの動きには注目していきたい。