GIRLS' INVASION」のブックレットの写真撮影が行われた培材(ベジェ)学堂歴史博物館

 

教育機関の校舎として1916年に建設されて1984年まで実際に使用されたのち、改装されて2008年から博物館として一般公開されている。

ソウル地下鉄市庁駅のそばにあるので、コロナ禍が落ち着いたら訪れてみると良いだろう。

 

LOVELYZのデビューアルバム「GIRLS' INVASION」は2014年11月17日にリリースされた。

作曲家チームOnePieceが手掛けた前半の5曲に加え、LOVELYZとしてデビューする前に各メンバーがリリースしていた4曲が後半に収録されている。

  1. Introducing The Candy
  2. Candy Jelly Love
  3. 어제처럼 굿나잇
  4. 이별 Chapter 1
  5. 비밀여행
  6. 남보다 못한 사이 feat. 휘성 (BabySoul Solo)
  7. 그녀는 바람둥이야 feat. 동우 of 인피니트 (BabySoul & Kei)
  8. Delight (Jiae Solo)
  9. 너만 없다 (JIN Solo)
最も古い曲は当時19歳(!)のBabySoulが歌う[6]で、2011年11月23日にデジタルシングルとしてリリースされた。
2011年と言えばwoollim entertainment(以下ウリム)にとって初の試みとなるガールズグループ(通称ウリムガールズ)の計画を始動させた時期であるが、その方向性を決定付けたのは当時JYPからウリムに移籍してきた敏腕A&RのJaden Jeong氏に違いない。
 
同氏はのちにLOONAを手掛けることになるわけであるが、2012年当時からすでにガールズグループをデビューさせる前に一人一人のメンバーをシングル曲で披露していくという、まさにLOONAのデビュー過程そのままの構想を持っていたらしい。
その後[6]に続いて翌2012年1月に[7]、2013年4月に[8]、そして同年11月に[9]が公開されたわけであるが、そういう観点で本アルバムを[6]-[9]、[1]-[5]の順番で聴いてみると感慨深いものがある。
 
ちなみに[9]が発表された直後の2013年12月27に放送された歌謡大祭典には、BabySoul、Jiae、Jinに加えてJisoo、Mijoo、Kei、Sujeongの7名がウリムの先輩グループであるINFINITEのステージにダンサーとして参加した。
そこにYeinが加わってLOVELYZとしてデビューするまでさらに11ヶ月かかるわけであるが、今となってはその準備期間の長さよりもむしろ、当時のウリムがLOVELYZのデビューに慎重かつ綿密な計画を練っていたことに驚かされる。
今のウリムだったら年明け、いや遅くとも旧正月明けにはLOVELYZをデビューさせていたことだろう。
 

さて、本作の要と言えばやはりタイトル曲の「Candy Jelly Love」に尽きる。

 

この曲の魅力を語りだすとキリがないが、楽曲のポイントとして何と言ってもヴォーカルトラックの「息継ぎ音」を消さずにメロディーの一部として聴かせている点を挙げたい。

息継ぎ音が聴こえることで、歌い手とリスナーの距離がぐっと縮まったような錯覚さえ覚える。

この曲のイメージを牽引しているのがSujeongであることは言うまでもないが、彼女のハスキーな声を基準にして編曲を進めた結果こうなったのかもしれない。

 

冒頭のSujeongの歌詞が

 

구슬처럼 귀에서 자꾸 맴돌아요 달콤한 그 말

(ビー玉みたいに 耳元で転がり続ける 甘いその言葉)

 

のように聴覚に直結しているのは、決して偶然ではないだろう。

 

耳元で転がり続けると言えば、曲全体を通して鳴り続ける電子音のアンサンブルも非常に心地が良い。

まるでVince Clarkeが奏でるアナログシンセのように暖かみのあるサウンドは、絶妙なリヴァーブ処理も相俟ってヘッドフォンで聴くと癖になる。

 

LOVELYZの楽曲のインストバージョンのみを納めたアルバム「Muse On Music」で聴くと、この曲が良質なエレポップとしても聴き応えがあることが分かる。

OnePieceの中心人物であるYoonSang氏はDuran DuranのJohn Taylorに憧れて音楽を始めたという世代なので、'80年代の英国エレポップはリアルタイムで当然耳にしていたはずである。

 

楽曲の構成という観点では、比較的ゆったりとしたメロディのAメロ~Bメロと急展開するサビとの対比も興味深い。

Jiaeパートのブレイクで転調して始まるサビは、サウンドは多幸感で弾けているように聴こえるが、歌詞から読み取れる心境はむしろ真逆であるという事実にこの曲の深みを感じる。

 

「괜찮아요 (平気よ)」、「햇살도 부럽지 않아요 (太陽の光も羨ましくない)などと強がりを言っていたのに、サビに入った途端に「힘들다(つらい)」「슬프다(悲しい)」「외롭다(寂しい)」などと言った言葉が飛び出すのは、こらえきれずに爆発した本心に他ならない。

 

サビの中でもことさらせつない最後の8小節、「얘기」(話、物語)という言葉で畳み掛けるくだりは、この曲のハイライトである。

サビの高揚感の真意を知ったあとでは、このくだりを単なる脚韻として聞き流すことはできないだろう。

 

우리 둘이 한 얘기 (私たち二人でした話)

간질간질한 얘기(くすぐったい話)

나만 아는 그 얘기 (私だけが知っているその話)

우리 둘이 못 다한 끝나지 않은 얘기(私たちが語りつくせなかった話)

 

そして、永遠に続くかに思えた電子音のシーケンスは残響だけを残して突然止まる。

MVで言うと、ちょうどJiaeの缶ケースから最後の一粒のキャンディーがこぼれ落ちるシーンだ。

 

LOVELYZが活動を終える2021年11月16日を目前にして、今はまさにあのラストシーンのように茫然と残響の余韻に浸っている。

余韻に浸りながらさまざまな話、そして「語りつくせなかった話」について思いを巡らせている。

 


7年間を総括するつもりだったのに結局1stアルバムのレビューになってしまったが、タイムリミットが迫っているので無理やりまとめに入る。

 

デビュー後、LOVELYZを取り巻く制作環境は次第に変容していった。

Jaden Jeong氏はデビュー翌年にはウリムを離れてしまったし、OnePiece+Digipediという未曽有の黄金タッグも、2017年リリースの「지금, 우리」を最後としてLOVELYZのアルバムに再び関わる機会はとうとう戻ってこなかった。

 

それでも、あの時期にデビューしてJaden Jeong氏やOnePiece、そしてDigipediといった超一流どころのクリエイター達と仕事をして素晴らしい作品群を残せたことは、LOVELYZにとってもファンにとっても幸せなことだったと思う。

だって、今のウリムだったら有り得ないじゃん(笑)。

 

7年前にリリースされた1stアルバムを聴き返してもこんなに文章を書けるし、まだまだ書き足りないくらいだし、いまだに新しい発見があったりする。

メンバー達はもちろんのこと、LOVELYZの作品に携わった全てのクリエイター達にもありがとうと言いたい。