日本経済新聞によると、会計監査の業界で「ビッグ4」と呼ばれる大手監査法人が、新規株式公開(IPO)の業務を回避する傾向が顕著になってきました。
2020年1~6月のIPO企業のうち大手が監査をしたのは65%と、過去最低ペースです。
水面下では、スタートアップ企業がIPOに必要なサービスを受けられない「監査難民」問題が広がっているようです。
IPO監査はかつてEY新日本監査法人、監査法人トーマツ、あずさ監査法人、PwCあらた監査法人のビッグ4が、大半を担っていました。
ところが、会計士の人手不足やIPO監査の収益性の低さから、近年は大手のシェアが下がっているのです。
2019年は78%と前の年から9ポイント下がり、大手法人の再編が一巡した2010年以降の最低を更新していました。
2020年はこれをさらに下回る可能性が大きくなってきました。
今のところ大手が手がけなくなった分は準大手が受け皿です。
金融庁によると、IPOに向けた監査の新規契約数では太陽監査法人など準大手5法人がすでに大手を上回っています。
2019年の新規契約は大手が前年比17%減の191件だったのに対し、準大手は同24%増の210件でした。
しかしながら、監査業界では「いずれ準大手だけではカバーしきれなくなる」との見方が多いようです。
監査法人に所属する公認会計士の約8割はビッグ4に集中しており、準大手のマンパワーにはおのずと限界があるからです。
大手がIPO監査を回避するのは、2014~2015年に上場直後の会計不正や業績下方修正が相次いでから、厳格な監査が求められている影響が大きいようです。
不正会計がないか、利益計画が楽観的すぎないかなど「より慎重なリスク分析や検討によって監査の工数が増えた」(EY新日本の善方正義シニアパートナー)とのことで、働き方改革で会計士の労働時間は増やせず、受託余力が乏しくなったのです。
提携先である世界の会計事務所が収益性の低い業務を抑えるよう求めているとの見方もあるようです。
IPO監査は当初見積もりより業務量が膨らんでも「報酬の増額交渉は難しい」(準大手のIPO担当者)とされ、大企業の監査に比べて実入りが少ないのです。
IPOするには、上場企業にふさわしい内部管理体制を整えたうえで、監査証明を受けた2期分の有価証券報告書をそろえる必要があります。
IPOを目指しているにもかかわらず、大手とも準大手とも契約を結べない「監査難民」になると、資金調達が滞り、成長力が陰りかねません。
金融庁は監査難民の問題を重くみて、2019年末にIPO関係者の協議会を設置しました。
2020年3月の報告書では、大手監査法人に組織体制や人員配置のあり方の見直しを求めています。
EY新日本は2020年7月、IPO監査の人材認定制度を始めました。
2021年6月までに約4,100人いる会計士のうち1,000人の認定を目指しています。
トーマツは6月にIPO監査の体制を見直しました。
ノウハウを持つ会計士を各部署に置いて人材の裾野を広げるそうです。
もっとも、IPO監査をめぐっては「ビジネスが旬のうちに早く上場したいという企業は多いですが、内部統制システムが未整備だと契約は難しい」(大手監査法人のIPO担当者)と温度差を指摘する声も多いようです。
スタートアップは監査法人の業務の繁閑に合わせて決算月をずらすなどしているようですが、監査契約のハードルはなお高いようです。
『監査難民』の問題は、数年前と比べると時代が変わったなぁと思うところですね。
数年前までは、クライアント数を増やすためにIPOに大手も注力していたのだと思いますが、会計業界だけではない人手不足、働き方改革、IPO直後の粉飾発覚、IPOまでは赤字でもIPOに回収すれば良いと思っていたのがいつ監査法人を変更されるか分からない時代、日本を代表するような大企業が監査法人を変更するケースが増加など、大手は手間がかかり、報酬があまり取れないIPOを避けるのは分かるような気はしますが、大手の都合で、IPOをしたくてもできない会社が増えるのは、日本にとってマイナスだと思います。
日本公認会計士協会や金融庁で改善策を是非とも考えて欲しいですね。
4大監査法人のIPO業務回避が顕著で「監査難民」解消が見えないことについて、どう思われましたか?