東京証券取引所は2013年7月8日に「MBO等に関する適時開示内容の充実等について」(東証上会第752号)を上場会社宛てに通知しました。
当該通知(以下、通知)により2013年10月1日から、一定の場合に上場会社はバリュエーションの前提等について開示が求められることとなりました。
EYは、通知の概要と通知に基づくバリュエーションの前提の開示事例を紹介しています。
<バリュエーションの前提等の開示が求められる場合>
上場会社がMBO等に関する意見表明を行う場合や上場会社が支配株主等と組織再編を行う場合にはバリュエーションの前提等の開示が求められます。
なお、MBO等に関する意見表明とは、上場会社がMBOまたは支配株主等による公開買付けの対象となった場合に、当該公開買付けの対象となる上場会社が公開買付けに対する意見表明を行う場合を指します。
<開示内容>
市場株価法、類似会社比較法およびディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法(DCF法)が例示されていますが、その他の算定方法を用いた場合には、重要な前提条件を記載することが求められます。
上場会社が支配株主等と組織再編を行う場合は、MBO等に関する意見表明を行う場合に準じた記載が求められます。
<バリュエーションの前提の開示事例>
以下で、類似会社比較法およびDCF法に関する開示事例を紹介します。
いずれも非常に具体的な記載となっています。
1.類似会社比較法
●比較対象として選択した類似会社の名称および当該会社を選択した理由
●マルチプルとして用いた指標
「当社の主要事業であるLPガスの販売・小売業を営んでいる国内上場会社のうち、当社との事業モデルの類似性を基準として、株式会社トーエル、株式会社ミツウロコグループホールディングス、日本瓦斯株式会社、岩谷産業株式会社、シナネン株式会社、株式会社TOKAIホールディングス、大丸エナウィン株式会社及び伊藤忠エネクス株式会社の計8社を類似会社として抽出した上、EV/EBIT倍率及びEV/EBITDA倍率を用いて分析を行い、...。」(クレックス プレスリリース)
「国内上場会社のうち、当社の主要事業であるシューズ販売(卸売)事業との類似性を考慮して、株式会社リーガルコーポレーション、東邦レマック株式会社及び株式会社アマガサを類似会社として抽出し、EBITDAマルチプルを用いて...。」(アシックス商事 プレスリリース)
2.DCF法
●算定の前提とした財務予測の出所
「当社の事業計画をもとに、平成25年6月末日を基準日として、直近までの業績の動向、一般に公開された情報等の諸要素を踏まえて試算した平成26年3月期(9ヶ月)から平成28年3月期までの3期分の当社の財務予測に基づき、...。」(クレックス プレスリリース)
「当社の事業計画、当社とのマネジメント・インタビュー、直近までの業績の動向、一般に公開された情報等の諸要素を考慮し、平成25年9月末日を基準日として、平成26年3月期から平成28年3月期までの3期分(ただし、平成26年3月期は平成25年10月から平成26年3月の6ヶ月分)の当社の将来収益予想に基づき、...。」(日立メディコ プレスリリース)
●割引率の具体的な数値
●継続価値の算定手法および算定に用いたパラメータの具体的数値
「割引率は、4.403%を採用しており、継続価値の算定にあたっては永久成長率法を採用し、永久成長率は0%として算定...。」(クレックス プレスリリース)
「割引率は、6.37%~7.57%を採用しており、継続価値の算定にあたっては定率成長モデルを採用し、永久成長率は0.00%~0.50%として算定...。」(日立メディコ プレスリリース)
「割引率は7.51%~9.86%を採用しており、継続価値の算定にあたっては定率成長モデルを採用し、永久成長率を0.0%として算定...。」(アシックス商事 プレスリリース)
今般の通知により、一定の場合に限られるものの、詳細なバリュエーションの前提(類似会社の名称、割引率および永久成長率等)が開示されることになりました。
上場会社においては、MBO等に関する意見表明を行う場合や支配株主等と組織再編を行う場合には開示の要否について留意が必要と考えられます。
また、通知による開示実務が今後の通常の買収・組織再編時の開示・説明に与える影響にも注視が必要と考えられます。
バリュエーション業務をしている僕としては、
●比較対象として選択した類似会社の名称および当該会社を選択した理由
●マルチプルとして用いた指標
●算定の前提とした財務予測の出所
●割引率の具体的な数値
●継続価値の算定手法および算定に用いたパラメータの具体的数値
などが開示されることは、参考になり非常にありがたいですね。
個人的には、有価証券報告書なども、例えば、非現金支出費用を一覧表にするなど、外部から分析しやすいような開示にして欲しいと思っています。
バリュエーションはブラックボックス的なところがありますので、利用者にとっても非常に有益でしょうね。
MBO等に関する適時開示内容の充実等について、どう思われましたか?