これは良いものです 

ここ数年における高級腕時計市場の大きなトレンドがラグジュアリー・スポーツの隆盛である事に異論の余地はないでしょう。

1972年オーデマ・ピゲが発表したロイヤルオークを起源に持つラグスポですが、長らくハイエンドメゾンの傍流コレクションに過ぎなかったこの一派が、ここ5年ほどで一気にメインストリームに成長してきました。

ロレックスのプロフェッショナルモデル(いわゆるスポロレ)の人気がスピルオーバーしたとか、世のニューリッチ層はドレスウォッチをしない人が多いとか、その要因には様々な議論があります。

いずれにせよ、現状高級腕時計市場においてかなりのプレゼンスを見せているのは間違いなく、多くのメーカーがラグスポ市場を強く意識したモデルを投入しています。

このブログでもいくつもラグスポ(風)モデルをご紹介してきましたが、今回はドイツから中々素晴らしいモデルをご紹介したいと思います。

Iron Walker Automatic 40mm / WEMPE GLASHÜTTE 

RefWI100006
ケース径:40.0mm
ケース厚:9.75mm
重量:-
ケース素材:ステンレス・スティール
風防:サファイア・クリスタル
裏蓋:ステンレス・スティール
ベルト素材:ステンレス・スティール
バックル:三つ折式Dバックル
防水性:10気圧(100m)
価格:$2,750.- 

ドイツの雄、ヴェンペから今年5月に発表されたアイアンウォーカーです。

なんかやたらと名前が格好いいですが、ラグレスケースにリューズガードを備えながら、ドレッシーな表情を見せるデザインは間違いなくラグスポの文法に沿ったものです。

ぱっと見のデザインはかつてのオイスタークオーツ(ロレックス)オメガジュネーヴを連想させるものですね。正直目新しさはないですが、そもそもこのデザインは非常に格好いいです。

40mm径に10mmを切る厚さは、現代的なサイズ感であり、使い勝手も良さそうです。きっちり10気圧防水を確保している点を含めスポーティなパッケージです。


ダイアルデザインはバー・インデックスにペンシルハンズを合わせたオーソドックスなデザインで、サンレイ仕上げを含めてデイトジャストを彷彿とさせるドレッシーな雰囲気を持っています。

その一方で見返しにはすり鉢状の傾斜をつけてそこにミニッツマーカーを配しているあたりはスポーティさも垣間見えますね。

ベゼルはポリッシュ、ケースはサテン仕上げというコントラストも効いており、シンプルながら存在感のあるフェイスに仕上がっています。

2連リンクのブレスレットもサテンとポリッシュ織り交ぜた仕上げでメリハリがあり、僅かにテーパードシルエットになっている点がエレガントです。

一方でクラスプはダイバーズ・エクステンション機構がついており、やたらと実用性が高い仕様になっています。

ややチグハグに思えるかもしれませんが、使う側としては間違いなく便利ですね。


型番:ETA 2892-A2
ベース:-
巻上方式:自動巻
直径:25.6mm
厚さ:3.60mm
振動:28,800vph
石数:21石
機能:センター3針デイト
精度:独クロノメーター(日差 -4/+6秒)
PR:50時間

搭載するのはドイツクロノメーター認定を取得しているETA 2892-A2

どうやらリテーラーとしても力のあるヴェンペは変わらずETAからのムーブメント供給を受ける事ができるようですね。

裏蓋には天文台のレリーフが誇らしげに彫刻されています。

現在では旧式化しているとはいえ、かつては薄型3針の上位ムーブメントとして多くの名門ブランドで採用され、信頼性と整備性にも優れる機械です。

さらには独クロノメーターも取得しているという付加価値もあるので、下に見られるような機械ではありません。


このモデルが$2,750(約30万円)というのはお得です。最大のライバルはモーリスラクロアアイコン・オートマティックだと思いますが、独クロノメーター・キャリバーがあれば十分に対抗しうるのではないでしょうか。

デザインはエッジの効いたアイコンに対して、アイアンウォーカーはかなりオーソドックスなので、シンプルなデザインを欲する人にはむしろこちらの方がフィットするでしょう。

アイコンがロイヤルオーク系とするなら、アイアンウォーカーはオーバーシーズ系と言えるキャラの違いがあると思います。

それにかなり人気の出てきたアイコンよりはニッチなヴェンペが良いという私のような偏屈な人間も幾らかはいるはずです。


バリエーション展開も飛ばしており、シンプルな3針デイトの他に、クロノグラフと300m防水のダイバーズがラインナップされています。

他の二つはいずれも42mm径なので、Minority’s Choice にとってはやや大きく、また厚みもあるので選択肢にはなりませんが、様子見もせずに3モデル同時投入というのは中々の気合いの入れようです。

ヴェンペはグラスヒュッテ様式の自社ムーブを擁する高級ラインと、汎用ムーブを使う普及ラインの二段構えのプロダクト構成で、アイアンウォーカーは普及ラインで投入されています。

これが当たれば高級ラインでもラグスポを投入してくるかもしれないと思うとそちらも非常に魅力的です(完全に妄想ですが)。

ただしアイアンウォーカーを日本の代理店(シェルマンなど)が取り扱うのかは不明です。仮に代理店を挟むともう少し価格は上がるでしょうから、そこも気になる点です。

(追記)シェルマンでの取り扱いが決まったようです!2020年10月発売で国内定価は税抜36万円のようです。


デザインやスペックだけを見るとかなり良さそうなので、試着して装着感などを確かめたいと思う一本ですね。

日本ではかなり地味なブランドなので、ヒット商品になるという事はあまり想像出来ませんが、ドイツ時計らしい質実剛健とした佳作であることが期待されます。

そもそも冒頭に述べたオイスタークオーツジュネーヴのデザインがかなり好みの私としては、発表当初からかなり気になっているモデルです。

38mm以下であれば文句なしだったのですが、数字よりは小さく見えるデザインな気もしますので、何はともあれ現物を見たいですね。

シェルマンさん、ぜひ取り扱って下さい。

(追記)Womenと書いてますが36mmの自動巻バリエーションもありました。個人的には絶対こっちのがいいと思います。8月にサンプルが東京に来るようなので、見に行きたい!!