エンジニアに捧ぐ時計

トランプ大統領はしきりに自国を賛美する芸風で知られています。確かに米国には優れた物は沢山ありますが、機械式時計に関しては全くといって良いほど地位がありません。

かつてはその工業力を活かして大衆向け腕時計で一大勢力を築いていましたが、それもセイコーのクオーツの登場により、ほぼ滅亡しました。

そもそも大半の米国人は大雑把で、デカくてパワーがあれば良いという思考回路なので、繊細で美しい嗜好品としての機械式時計製造が根付く土壌はないのでしょう。

ただ一部の上流階級がしこたまお金を持ってるので、買い手としてのマーケットでの存在感はあります。

しかし、あれだけの大国です。探せばあるんですよ、中々素晴らしいメーカーが。


801-COE “Corps of Engineers” / RGM WATCHES 

Ref:801-COE
ケース径:42.0mm
ケース厚:10.5mm
重量:-
ケース素材:ステンレス・スティール
風防:サファイア・クリスタル
裏蓋:サファイア・クリスタル
ベルト素材:レザー
バックル:ピンバックル
防水性:5気圧(50m)
価格:$9,700.- 

RGM Watches 1992年創業の新興ブランドですが、米国の時計製造史をリスペクトした素晴らしいマニファクチュールです。

日本国内に代理店はないですし、SNSでも持っている人を見た事がありませんが、なんでこんな良い時計を誰も持ち込もうとしないのか不思議です。

何か理由でもあるのかな?

様々なタイプのモデルをラインナップするRGMの中でも私が一番好きなのがこの801-COEです。工兵部隊という如何にもアメリカ人が好きそうなネーミングですが私も好きです笑

この名はモチーフとなった第一次世界大戦時に実在した米国陸軍工兵部隊用の時計に由来します。


しかし名前など序ノ口で、何より素晴らしいのはやはりデザインです。

パイロットウォッチ風のアラビアン・インデックスにレイルウェイ・トラック、青焼のカテドラル・ハンズ、そして位置が完璧なスモセコと私を仕留めるための武器が満載です。

しかもこのダイアル、グランフー・エナメルです。その温かみのある文字盤に、クリーム色のインデックスの塗りもたっぷりと厚塗りで、風情あふれる表情に仕上がっています。

スモセコで潰された5、7のインデックスもきっちり仕上げており、元々そこには完璧な5、6、7時があったんだろうなと妄想させる仕事をしています。


ケースはサテン仕上げでオーソドックスなホーン型ラグが合わされ、大ぶりなリューズなど含めて確かにミリタリーな雰囲気も持っています。

でありながら、やはりエナメル文字盤が醸し出す独特の雰囲気がこの時計のキャラクターを決定づけています。

戦場にありながら、爆音など何処吹く風と悠然と構える将軍の雰囲気とでも言いましょうか(いや、工兵部隊なんだけどね…)。

ともかく実物を手にしたら何時間でも見ていられそうな気がします。

しかし801-COEの魅力は外装にとどまりません。


型番:Cal 801
ベース:UNITAS 6497-1
巻上方式:手巻き
直径:36.6mm (ベースキャリバー)
厚さ:4.50mm (ベースキャリバー)
振動:18,000vph
石数:19石
機能:スモセコ3針
精度:-
PR:44時間

搭載するのはユニタスベースですが、アメリカ製のインハウス・キャリバーを標榜するCal 801

インハウスを名乗っていることからして、ETAからユニタスを仕入れて改造しているのではなく、基本設計を共有しつつも自社で開発したムーブメントという事でしょう。

また、かつての米国メーカーであるIllinois Watch Company が採用していた巻き上げ機構(Winding Click)を復活させるなど、手の込んだディテールを有しています。

また気合の入った仕上げも見所です。

ダイナミックなブリッジのパーティングとくどいくらいの青ネジ、むき出しの歯車やチラねじテンプなどはジュネーヴともグラスヒュッテとも違った面持ち。

44時間パワーリザーブにトリオビスっぽい緩急装置など性能面は平凡ですが、ランカスター ペンシルベニア U.S.Aの刻印も誇らしい見ていてワクワクする機械です。


完全無欠に思える時計ですが、二つ難点が。

一つはお察しの通りサイズです。ユニタス系の機械だと考えれば42 x 10.5mmなんてのは至って普通ですが、私は手首が細いのです。これは間違いなく持て余すサイズでしょう。

しかし冒頭述べた通りデカくて強いのが正義というメリケン時計ですから、小径でお上品な時計など望むべくもありません。

手首周り18cmとかなら全く問題ないでしょう。

もう一つもお察しの通り価格です。約100万円というのは、中々豪儀ですよね。

似たようなので良ければ40万円も出せば素晴らしい物が買えます。というか100万円あれば巷で話題の新型ポルトギーゼだって余裕で買えるじゃないですか。


しかし、それでもなお私はこの時計なら100万円出しても良いかなと思えます。

こんなにシンプルなのにキャラが立った時計ってそうそうないですよ。まあ主に米国製というロマンに集約されますが笑

ブレスレットモデルもあるので、夏場を考えれば取り敢えずこっちを買って、秋冬はお召替えを楽しむということが出来ます。

オプションでムーブメントの装飾をカスタム出来たりもするので、自分だけの一本を手に入れられるというのも魅力ですね。

いやあ、これは実物見たいです。

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