人間でいうと顔の輪郭

それが時計のラグ形状です。(と私は思っています)つまり見た目の美しさに非常に大きな影響を与えるわけです。

特にラウンドケースの時計のラグは実に様々なパターンが存在しており、ダイアルデザインはいいのにラグが気に食わんという事で、購入候補から外れる時計も少なくありません。

男性用腕時計の直径は概ね33-45mmとかなり差がありますが、ベルト幅はほとんどの場合17-22mmに収まりますので、そのギャップを利用してラグ形状は様々に発展します。

では実際どんな種類があるか整理して見ていきましょう。

1. ウェッジ型
<Date Just 36 / ROLEX>

ロレックスが採用している事もあり、おそらく最もメジャーなのがウェッジ(楔)のラグです。その名の通りV字型のラグの総称です。(※名称は勝手に付けてますが、著作権は放棄します笑 以下同じ)

しかし一口にウェッジ型といっても様々なパターンがあります。ロレックスでは、ラグがケースを包み込む様に外側にセットされているパターンが多いです。

デイトジャスト36のラグはそこまで太くなく、やや長めで上品なシルエットになっています。それでもラグにひ弱さはなく、一定の堅牢さも感じさせます。


<Submariner Date / ROLEX>

一方これが現行サブマリーナになると、ラグはずっと太く短くなります。これによって与える印象はガラリと変わって、スポーティで力強いものになるのです。

<Constellation Globemaster 39mm / OMEGA>

グローブマスターもウェッジ型の代表例ですが、大ぶりでふっくらした形状が時計のシルエットを決定付ける重要な役割を果たしています。

2. インナーウェッジ型
ウェッジ型の派生系で、ケースから牙が生えてきたようにやや内側にアタッチされているウェッジ型ラグを指します。ラグの太さや長さというより取付位置による類型です。

このタイプも非常に多いですね。

<Simplicity / PHILIPPE DUFOUR>


最高の例はフィリップ・デュフォーシンプリシティです。これが私が最も好きなタイプのラグです。ラウンドケースそのものの存在感を湛えつつ、細長いラグが腕元でエレガントなシルエットを演出する様は思わず惚れ惚れしてしまいます。

<Heritage Flagship / LONGINES>


ロンジンのヘリテージ・フラッグシップもインナーウェッジ型の好例です。クラシックで洗練された雰囲気を醸し出していますね。


<Vintage Sixties / GLASHÜTTE ORIGINAL>


出典:www.glashuette-original.com

やや太くて丸いですが、このシックスティーズ(というかグラスヒュッテ・オリジナル全般)のラグもMinority’s Choice 的にはインナーウェッジの一種です。

3. ツイスト・ウェッジ型
ウェッジ型のラグをひねる事で表情を付けた派生形です。シルエットはウェッジ型ですが、実物は立体感が出てかなり印象が異なります。

<Seamaster Aqua Terra 150M / OMEGA>

このタイプはほぼアクアテラ専用にも思えますが、見ての通りデザイン上のプレゼンスが相当大きいです。

ラグだけ見てモデルを特定出来るなんて中々出来る技ではありません。

4. ファセット・ウェッジ型
これもウェッジ型の派生で、ケースとの接合部分にファセット(切子)がついているパターンです。スムースなウェッジ型にアクセントを加える表現として多用されています。

<Classic Manufacture / ULYSSE NARDIN>


ユリスナルダンのクラシックコレクションではこのタイプのラグが採用されています。根元がカットされた小さめのウェッジ型ラグにするだけで、シルエットの印象は大きく変わります。

余談ですが、私はこのファセット・ウェッジ型のラグが好きではありません。

それがなければこのグランフー・エナメル文字盤を格安で提供するクラシック・マニファクチュールは非常に魅力的な一本なんですが。。

<T-Complication Squelette / TISSOT>

このタイプは探せば結構出てきます。ティソはあらゆるタイプの時計をラインナップしているので、当然ファセット・ウェッジ型のラグを持つモデルもあります。

Tコンプリカシオン・スケレッテは、ラグ以前にフェイスが独特すぎて私には理解不能。。

<GMT / Cuervo y Sobrinos>

クエルボ・イ・ソブリスはこのラグを多用します。まあ彼らの時計は色々とぶっ飛んだデザインなので、かなり大胆なこのラグもさほど気になりません。

しかこのカリビアンな美的感覚は、私のような若輩には全く理解できません。。

5. ホーン型
続いてその数ではウェッジ型と双璧を成すホーン型。その名の通り牛の角のように内側にくびれる曲線とともに先細っていく形状の一対のラグです。

ウェッジ型との境界は正直微妙ですが、直線的なV時より少し内側にくびれがあるものをホーン型とします。

<Calatrava 5196 / PATEK PHILIPPE>
出典:www.patek.com

ホーン型ラグのお手本の一つはカラトラバでしょう。細身のラグで、ケースを包むというよりは、ケースに沿うように自然に取り付けられたラグです。

ケース外周の曲線(外に凸)とラグの曲線(内に凸)を絶妙につなげており、細身のラグと相まって非常にエレガントなシルエットです。

このように ドレスウォッチには細身のラグが合わされることが多いですが、エレガントさを表現する重要な要素になっている事が分かります。

私が思うに、ケースは小さく、ラグは細く長くというのが、優雅さを演出するポイントです。

<Mark XVIII / IWC>

IWC マーク18もホーン型の典型例です。まさにお手本といえるような滑らかな曲線美を堪能する事ができる、素晴らしいモデルです。

<Master Ultra Thin Small Second / JEAGER LECOULTRE>
ジャガールクルトマスター・コレクションもホーン型ラグを持つ時計の代表格です。38.5mm径のモデルでは短めのラグがセットされ、柔らかいイメージです。

このバランスも独特の趣があっていいですね。

6. ツイスト・ホーン型
ウェッジ型でもあった派生形ですが、角をひねったような形状のラグで、やはりオメガが多用するタイプです。

<Speedmaster Moonwatch Professional Chronograph / OMEGA>

ひねりを加える事で立体感が増し、陰影が独特の表情を見せてくれます。オメガではスピードマスターのほか、シーマスターでもほぼ全てのモデルにこのタイプのラグを採用しています。

筋肉質な印象を与える特徴的な表現ですね。オメガのスポーツラインとのマッチングがバッチリです。

<Heritage 1948 / TISSOT>

オメガの専売特許かと思いきや、ティソにもありました。しかしオメガの方が上手くやってますね。

フェイスはヴィンテージルックで悪くないんですが、アラザン(洋菓子に使われる銀の砂糖の粒)みたいなアワーマーカーと4時半位置のデイトとこのラグに改善の余地があります。

6. ファセット・ホーン型
これもホーン型の派生ですが、ウェッジ型と同様にケースとの接合部分にファセット(切子)がついています。ケースと滑らかにつながるシンプルなホーン型に変化を付けるテクニックですね。

<Royale Saphir / PEQUIGNET>

私が真っ先に思いつくのはペキニエです。フランスらしい独特の美的感覚(先進的すぎて誰もついていけない)が存分に発揮される同社のコレクションでは、ラグもありきたりのものではありません。

7. ストレート型
これも代表的な形状の一つです。このブログではラダー(ハシゴ)型と言って来ましたが、どうやらストレートラグという表現が一般的っぽいのでそれに倣います。

<Classique 5157 / BREGUET>
出典:https://www.breguet.com

代表例はやはりブレゲ・クラシックでしょう。細身のストレート型ラグは、ラウンドケースのシルエットを最もよく伝える古典的な表現です。

ローマンインデックスを持つクラシックな時計に合わせられる事が多いですね。というか、クラシックを表現する技法としてよく用いられるといった方が正確でしょう。

<Ludwig 201 / NOMOS GLASHÜTTE>
ノモスで最もクラシックなラドウィグもストレート型のラグを採用しています。フェイスデザインは全く異なりますが、一見した印象はブレゲと驚くほど似ています。

時計の第一印象においてラグの果たす役割がいかに大きいかが分かりますね。

<GBAQ 977 / CREDOR>

最近気になるクレドールはブレゲよりはやや太めのストレートラグ。やはりフォーマルウォッチにはこの手のラグがマッチしています。

シンプルすぎて面白味には欠けますが、コレクションにはなくてはならないタイプの時計です。

8. ワイヤー型
細いワイヤー状のラグによりベルトを保持するタイプです。これもかなりメジャーな形状であり、保持力という意味では心許ないかも知れませんが、デザイン性が高く、多くの現行機でも採用されています。

<Radiomir Base Logo 45mm / PANERAI>



ワイヤー型の代表例はラジオミールでしょう。最近はラジオミールにも短めのストレートラグを合わせているモデルも多いですが、やっぱりラジオミールといえばワイヤー型のイメージです。

クラシックな雰囲気を演出するのに、このラグは大きな役割をに担っています。

<Metro Date Power Reserve / NOMOS GLASHÜTTE>


ノモスメトロもワイヤー型ラグを採用する時計の代表例です。モダンでスタイリッシュなデザインに細身のワイヤーラグがマッチしています。

この時計、ニューヨークの現代美術館(MoMA)に併設されているショップで販売されていました。デザイン、色使いなどアーティスティックなタイムピースですね。

<Arceau Automatic / HERMES>

やや太めですが、エルメス・アルソーもワイヤー型の一種といえるでしょう。馬具をモチーフとした上下非対称のラグデザインはファッション・ブランドならではの表現力です。

アルソーは36mmくらいなら本当に魅力的なんですが、現行は40mm径とやや大きめなのが個人的には残念です。

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パート1はオーソドックスなラグを見てきました。時計のデザインに置いて、如何にラグが重要な役割を果たしているかお分り頂けたと思います。

しかしこんなのは序ノ口で、ここからいよいよディープな世界に突入します。

それらはパート2で見てみる事にしましょう。