キング・オブ・フリーガー

そう個人的に思っているのがIWCマークシリーズです。大袈裟ですが。

ベーシックなフリーガー(パイロット)ウォッチのデザインを下敷きに、IWCらしい堅牢な作りと美しい文字盤が醸し出す存在感は、名門ブランドのオーラを感じさせる名作であります。

Pilot’s Watch Mark XVIII Edition “Petit Prince” / IWC
出典:www.iwc.com

Ref:IW327016
ケース径:40.0mm
ケース厚:11.0mm
重量:-
ケース素材:ステンレス・スティール
風防:サファイア・クリスタル
裏蓋:ステンレス・スティール
ベルト素材:ステンレス・スティール
バックル:三つ折式Dバックル
防水性:6気圧(60m)
価格:595,000円(税抜)

歴史あるマークシリーズの現行機がマーク18です。数あるバリエーションの中からなぜ星の王子様エディションをピックしたのかというと、この美しいミッドナイトブルーの文字盤ゆえです。

ダイアルデザインはベーシックなフリーガーのそれであり、特徴的な12時のトライアングル・インデックスや、視認性に優れるアラビアン・インデックス、大きなロザンジュ針などの典型的特徴を有しています。

ケースのシルエットに目を転じても、ホーン型のラグはお手本とも言える曲線美を見せつけ、ケースのサテン仕上げがミリタリーの面影を残しています。

5連ブレスは肌馴染みが良いことは間違いありません。6気圧の防水性と合わせ真夏でも問題なく着用できるのも嬉しいポイント。さらには耐磁インナーケースも採用しており実用性は高いです。

ダイアルカラーを除くと、シルバーとホワイトの実に味気ないカラーリングですが、このサンレイ仕上げのミッドナイトブルーの美しさによって一気に印象を変えています。

出典:www.iwc.com

40 x 11mmというサイズも取り回しに優れ、広く受け容れられる絶妙な大きさです。

ダイアルデザインで唯一の注文は日付窓の位置です。汎用ムーブメントを採用しているため、ベゼルを薄くして開口部を広げたダイナミックなダイアルに対して、日付窓が中心に寄りすぎてバランスが崩れています。

さらにはインデックスに対してデイトが小さすぎるという問題も指摘しなければなりません。個人的にはデイトなんて不要なんじゃないかと思っています。

それを除けば、スマートでマニッシュなIWCらしい格好良さに溢れたルックスの時計です。

奇抜なファッション性とは無縁でありながら、しっかりお洒落な感じがあるというのがIWCの魅力ですね。


型番:Cal 35111
ベース:SELLITA SW 300-1
巻上方式:自動巻
直径:25.6mm
厚さ:3.60mm
振動:28,800vhp
石数:25石
機能:センター3針デイト
精度:日差 0/+7秒
PR: 42時間

搭載するのはセリタSW 300-1ベースのCal 35111です。IWCと言えばハイエンドにはインハウスのグランドコンプリケーションすら擁する名門マニファクチュールですが、エントリークラスには汎用ムーブメントをカスタムして使っています。

マーク12ではジャガールクルト(JLC)889/2マーク15ではETA 2892-A2をベースにしていたと聞けば、何となく今は質が低下していると思ってしまうかも知れません。

スウォッチグループ最大のライバルであるリシュモングループに所属するIWCですから、所謂2010年問題によってETAが使えなくなり、セリタベースの機械への変更を余儀なくされたという訳です。

往年のファンを少なからず失望させたのは想像に難くない訳ですが、Cal 35111はIWCの細かな指示の下、ベースキャリバーを大幅にブラッシュアップした別物と理解するべきです。

一般には非公表ですが、その精度は日差 0/+7秒に調整されていると言います。これはCOSC認定基準(日差 -4/+6秒)を上回るレベルです。

仕上げも施されているようですが、ソリッドバックのためその姿を見ることはできません。

<通常盤マーク18 / 革ベルト>
出典:www.iwc.com

シンプルなフリーガーでありながら、洗練された佇まいを見せるマーク18は、IWCのエントリー的位置付けでありながら、ブランドを象徴するモデルの一つでもあります。

機械が汎用ムーブメントベースとはいえ、そのお陰で手の届きやすい価格帯でこのクオリティの時計が手に入るというのは、消費者としては素直に嬉しい事でしょう。

そういう意味では機械式時計業界の裾野拡大にも大きな貢献を果たす非常に重要なモデルであるとさえ言えます。

誰が見ても格好いいですし、好事家からも評価されること請け合いのIWCマークシリーズは問答無用の名作なのです。

そんな名作に敢えて対抗するなら何が良いかと思案していましたが、広い業界を探せば負けず劣らずの作品が隠れています。


856.Flieger / SINN SPEZIALUHREN 

Ref:-
ケース径:40.0mm
ケース厚:11.0mm
重量:88g
ケース素材:ステンレス・スティール
風防:サファイア・クリスタル
裏蓋:ステンレス・スティール
ベルト素材:インテグレーションカウレザー
バックル:ピンバックル
防水性:20気圧(200m)
価格:330,000円(税抜)

久々に登場のジン特殊時計です。この日本限定の856フリーガーの格好良さは半端ではありません。

時計好きでもなければマーク18と殆ど一緒やんけ!と思われるかも知れませんが、私のような飼いならされた犬訓練された猛者の目には、洗練されて小洒落たIWCとは異なり、エンジニア魂溢れるツールウォッチに見えるから不思議です。

何がどう違うか見てみましょう。

まずサイズは全く同じです。しかしケースの質感やシルエットが異なります。テギメント加工されたステンレスはチタンのような鈍い輝きを放っています。

やや細身のラグはベゼル幅とのバランスも良く、リューズガードと合わせてスッキリとしたシルエットを見せてくれます。


文字盤に目を移すと、12時のトライアングル・インデックスが通常とは上下逆さになっています。フリーガーウォッチの象徴的な意匠でもある12時のインデックスが他と違うというのは何か理由があるんでしょうか?

アラビアン・インデックスは細字で小ぶりです。視認性を重視するフリーガーウォッチの文法をやや外していますが、コントラストが明瞭なので可読性は十分。それ以上にデザインとしてスタイリッシュにまとまっています。

マット仕上げの黒文字盤にホワイトのペンシルハンズは視認性に優れ、秒針は剣先のみホワイトで時分針との判別が容易です。

6時位置のFLIEGERロゴの下には、ジンが誇るArドライテクノロジーマグネティックフィールド・プロテクションテギメント加工、の特殊技術を示すアイコンがツヤありブラックで印字されています。

このケースに、クッション性のあるインテグレーションカウレザーを合わせていますが、このベルトも白いステッチと、折り返しが特徴的な面白いストラップになっています。




型番:SELLITA SW 300-1
ベース:-
巻上方式:自動巻
直径:25.6mm
厚さ:3.60mm
振動:28,800vhp
石数:25石
機能:センター3針デイト
精度:-
PR: 42時間

ジンは比較的ETA(スウォッチG)と上手くやっているメーカーという認識ですが、最近はセリタのムーブメントも使っています。

856 フリーガーでは、マーク18のベースキャリバーでもあるSW 300-1を採用しています。ちゃんとその旨を公表している辺りも好感が持てるポイントですね。

エボーシュの中では上位機種にあたる薄型キャリバーですから、機械の性能や信頼性に関しては問題ありません。

さらにArドライテクノロジーによってケース内は無水状態が保たれており、ムーブメントの大敵である湿気から保護されています。

裏蓋はソリッドなのでムーブメントを鑑賞することは出来ませんが、特別の仕上げをしている訳ではありませんから、潔く諦めましょう。


レザーストラップではありますが、ケースはセラミック並の硬度を持ち、80,000A/m(約1,000ガウス)の耐磁性を有し、20気圧(200m)の防水性を備え、ケース内の湿気対策まで講じられているという事で、実用性は極めて高いモデルです。

デザインは基本的にはフリーガーですが、全体的に細身でスタイリッシュ。色使いも都会的ですが、あくまでツールウォッチとしての無駄のないシンプルさが魅力です。

この856 フリーガーは2018年11月に日本限定50本で発売されたレアモデルです。

これだけイケメンかつジンの誇る特殊技術も搭載されているので50本なんて瞬殺かと思っていたのですが、意外にまだ在庫を見かけます。

一部に熱すぎるファンがいるものの、一般的な知名度がなさすぎるという事でしょうか。

ジン税抜33万円というと二の足を踏みたくなる気持ちも分かりますが、この856に関しては希少性という価値も加わって、全く割高だとは思いません。


Aviator 8 Automatic 41 / BREITLING 

Ref:-
ケース径:41.0mm
ケース厚:10.7mm
重量:73g
ケース素材:ステンレス・スティール
風防:サファイア・クリスタル
裏蓋:ステンレス・スティール
ベルト素材:カーフレザー
バックル:三つ折式Dバックル
防水性:100m
価格:440,000円(税抜)

今年のブライトリングの新作でRef ナンバーも不明ですが、シンプルなパイロットウォッチです。

ナビタイマーに代表される複雑な計算尺付きのアビエーションウォッチで有名なブライトリングですが、こうしたクラシックなフェイスのパイロットウォッチもラインナップしています。

ジョージ・カーン率いる新生ブライトリングで復活したBロゴを採用し、レイルウェイ・トラックとアラビアン・インデックスを持つヴィンテージルックなデザインです。

昨年まではナビタイマー8コレクションとして展開されていた自動巻3針モデルですが、今年からアビエイター8コレクションとして再編されています。

マットブラックの文字盤にインデックスと針は薄いベージュ、秒針の針先と12時位置のミニッツマーカーに赤を挿し色として配したダイアルはクラシックな面持ちです。

両方向回転ベゼルを計算尺として持っている辺りはブライトリングらしさがある部分ですね。

<昨年までのナビタイマー8版>

カーン体制の下でコレクションの幅を広げることに注力しているブライトリングは、従来のナビタイマークロノマットのようなゴリゴリのスポーツモデルと一味違う、革ベルトが似合うクラシックタッチのコレクションを拡充させてきました。

このアビエイター8オートマティック41もその一つであり、私のようなお上品時計が興味の対象である好事家の興味を惹いているのです。

ゴリゴリ好きのオールドファンによる受け止めは様々な様ですが、別に従来のコレクションを棄てる訳ではないので、方向性としては悪くないと個人的には評価しています。

企業って成長しなければならないと宿命付けられていますから、継続的に何か新しい事をしないといけないんですよね。

現状維持というのは緩やかな自殺行為なんです。経営者や株主にとっては常識ですが、それが分からない人からは余計なことすんなって批判が出てしまうんですね。



型番:Cal 17
ベース:ETA 2824-2
巻上方式:自動巻
直径:25.6mm
厚さ:4.60mm
振動:28,800vph
石数:25石
機能:センター3針デイト
精k度:COSC認定 (日差 -4/+6秒)
PR:40時間

話を時計に戻しましょう。搭載するムーブメントはキャリバー17という名のETA 2824-2(改)です。ETAの汎用ムーブメントとしては最も広く普及している機械ですね。

ご存知の通りブライトリングは全モデルCOSCを取得するポリシーを貫くブランドですから、このCal 17もCOSC認定キャリバーです。

エントリーモデル向けと言えど、信頼と実績の2824をベースにCOSC精度を備えるCal 17が優れた機械である事に疑いの余地はありません。

しかし残念ながらソリッドバックなのでムーブメントの姿を鑑賞することは叶いません。

<SWISS limited edition>

このアビエイター8オートマティック41はブライトリングの新たな一面を象徴する普及機としての活躍が期待されます。

すでに限定モデルが展開されるなど積極的なアプローチが取られている本作は、1930-1940年代の古き良きブライトリングの作風を再現した部分もあり、後世にも伝えていきたい普遍性のあるデザインです。

歴史あるブランドは過去のアーカイブを持っています。これは非常に大きな武器であり、新興ブランドと決定的な差別化要因になります。

クルマなんかではメーカーによる復刻って殆どないと思いますが機械式時計の世界では復刻時計のジャンルは大きなマーケットですからね。

このアビエイター8オートマティック41は完全な復刻ではなく過去作にインスピレーションを受けた作品といった所ですが、味わい深いオールドファッションな時計に仕上がっています。

<SWISS limited edition>


税抜44万円(Dバックル版)という価格はブライトリングの中ではエントリーに近いレベルです。エボーシュ採用モデルですが、精度と信頼性の高さは文句ありません。

41mmというサイズもベゼル幅のあるデザインなのでさほど大きくは感じないでしょう。マーク18よりも武骨なルックスが好みに合えば、魅力的な一本だと思います。


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こうしてみるとやはりIWCマークシリーズの存在感は頭一つ抜けている気がします。あえて取り上げませんでしたが、正面から対抗し得るモデルはゼニスパイロット(#26参照)しかないでしょう。

この二つは本当に甲乙付けがたいです。

Minority’s Choice 的にはマークシリーズはメジャー過ぎるので見送りです。というかそれを抜きにしてもジン856がベストですね。

単純にデザインが最も格好いいと思います。あと変態的特殊技術もやっぱり好き笑