ボリュームゾーン
そう言えるのがこの価格帯(20-50万円)ではないでしょうか。普通に考えれば相当な高額ですが、機械式時計ではまだまだ中の下といった所です。
これまで紹介した時計もかなりの数がここに含まれます。過去は顧みず、どんどん行きましょう!
SARA015 / SEIKO PRESAGE
セイコーの回し者かと言われそうですが、これは本当にお勧めなんです。グランドセイコー(GS)ではなくプレザージュからお手頃価格で実に素晴らしいモデルが出ています。
まず目を引くのは和紙のようなパターンのダイアルです。型押しですが、光沢が美しく、何より日本的な美を感じさせてくれます。
まるで面白みのないデザインのマジメ時計を量産するセイコーですが、SARA015に関してはこの和紙ダイアルが素晴らしい個性を添えてくれています。
そしてインデックスと針の出来栄えは流石セイコーといった仕上がりで文句なく素晴らしいです。針に関してはGSほどの多面カットではありませんが、鋭さ・長さ・磨きいずれも申し分ありません。
しかし何と言ってもこのSARA015の見所はそのサイズ感です。ケース径40.7mmはやや大きいですが、厚さが9.8mmに抑えられています。セイコーの機械式がアンダー10mmなんて夢でもみているようです。
このモデルは1881本限定のスペシャルモデルであり、様々な点において通常のプレザージュの仕様を大きく上回っています。
秒針は青焼き(プレザージュは通常青塗りです)、ベゼルはステップベゼル(実際はねじ込みベゼルという作り)、ケースはザラツ研磨、リューズの仕上げも凝ったものになっているなど、GSですか?というレベル。
ムーブメントは新開発の6L35を搭載しています。この薄型キャリバーが美しいプロポーションを可能にしているのです。センター3針デイトで秒針停止機能、手巻付きの自動巻ムーブメントでパワーリザーブは45時間となっています。
パワーリザーブがもう少しあればなと思うもののその他文句はありません。精度は日差 -10/+15秒なのでGSには劣りますが、プレザージュでは出色です。ファン待望の薄型キャリバーに歓喜(世界的には全く薄くないですが)。
そして裏スケ。装飾も石も割とちゃんとしてる。どうしたんだセイコー。どうしてこんな非の打ち所がない時計を突然作ったんだ。いつものあの垢抜けない感じはどこに置いて来たんだ?と心配になります。
因みに防水性も10気圧(100m)防水なので、日常使いにおいては細々した着脱は不要です。
価格はこれだけ揃って定価24万円(税抜)。
これは良いですよ。限定とはいえ1,881本(国内は1,000本)もあるのでしばらく入手に困る事はないでしょう。レギュラーにすればベストセラーになるのでは?と思わせる出来の良さです。
欲を言えばケース径38-39mmだったら完璧でしたね。でも十分素晴らしいです。個人的にはバリューを考慮すれば前回デイトジャストの対抗としても良かったくらいです。
Tangent Neomatik 39 for Arzte Ohne Grenzen Deutschland (Ref: 140.S2) / NOMOS GLASHÜTTE
さてお次はノモスです。全体的に白で統一されたカラーリングは時計では珍しいですね。それもそのはずこれは国境なき医師団モデルなのです。
ドクターの白衣と赤十字をモチーフにしたデザインはちょっと背筋が伸びる気分になりますし、なんというか神々しさすら感じます。自分の様な煩悩の塊が着けて良いものかという葛藤が。
しかし心配無用です。むしろそんな人ほど買ってください。これはドネーション(寄付)付きのモデルで一本あたり250ユーロが寄付される仕組みです。
さて、購入のハードルが下がったところで時計を見てみましょう。ノモスの代表作であるタンジェント・コレクションの一員である140.S2はやはりその端正なフェイスに惹かれます。
バウハウスに範を取ったミニマルなダイアルデザイン、ケース径38.5mm、厚さ僅かに7.2mmという取り回しに優れたサイズ感と、非常に洗練された時計作りです。
まあこれは全てのノモスに言える事です。一方でこの時計ではノモス初の試みがなされています。それがステンレス・ブレスレットです。
現物を見れていないのでなんとも質感が分かりませんが、コマをピンなどで連結する通常のブレスレットとは明らかに違います。
見た目からは伸縮性のあるメタルバンドのように見えます。このベルトの実際の質感はかなり気になりますし、購入上のポイントになりそうです。
ムーブメントは自社製キャリバーDUW 3001を搭載。ノモスはここ5年ほどで急速にマニファクチュール化を推進し、ヘアスプリングさえ自社製造する完全マニファクチュールへの道を歩んでいます。
エボーシュを使いながらお洒落なデザインを手頃な価格で提供するという従来のスタイルから一歩踏み出したので、オールドファンの中には今の高価格化を歓迎しない人もいるかもしれません。
しかし、ビジネス的にはこの試みは成功しているように見えます。バウハウス系のメーカーで高価格帯の競合がいない事も手伝って、今やバウハウス系メーカーの盟主といってよい存在ではないでしょうか。
ムーブメント開発のコンセプトも、薄く、正確にというのが明確で、今のところコンプリケーションに手を出す気配はありません。そのうち出すんでしょうけど。
<DUW 3001 / NOMOS GLASHUTTE>
DUW 3001はスモセコ3針と非常にシンプルな機構ですが、径28.8mm、厚さ僅か3.2mmという薄型自動巻キャリバーです。
仕上げも実に美しく、前出のセイコー6L35が霞んでしまいます。グラスヒュッテ・ストライプ、ペルラージュ、青焼きネジなど魅せるムーブメントになっています。
能力的には43時間パワーリザーブ(やや短い)に精度はクロノメーター級を謳っており、大きな文句はありません。
その他の仕様は、SSケース/ブレスレット、サファイア風防、サファイア・シースルーバック、5気圧(50m)防水と、普段使いに適した作りです。
価格は43万円(税抜)です。以前のノモスと比較すると高額ですが、その要因である機械の質は高く、決して割高だとは思いません。
むしろバウハウス・デザインが好きだけど、デザインだけでなく機械式時計としての品質も高いモデルを探している方にはうってつけではないかと考えます。
こちらは限定250本という事なので、超レアとまではいきませんが、のんびりしている売り切れるかもしれません。
Premier Automatic Day & Date 40 / BREITLING
最後は随分毛色が変わりますが、ブライトリングのドレス(風)ウォッチです。ブライトリングとドレスウォッチなんて両立し得ない単語かと思っていましたが、経営体制を刷新した新生ブライトリングを率いるジョージ・カーン氏肝いりのコレクションであるプレミエの3針デイデイト・モデルです。
ブライトリングといえば羽根の生えたロゴに独特の計算尺を持つナビタイマーがフラッグシップ・コレクションでしたが、現在新作からはロゴの羽根はなくなり、ナビタイマーからは計算尺がなくなりました(計算尺付きモデルも存続してます)。
経営体制が変わるというはそういう事です。以前の体制に何かしら問題があっての刷新なのですから、新CEOがこれまでと違う手法に活路を見出すのはある意味で当然です。
ただしそうするとオールドファンは取り残されるのです。前述の変更も私の知る限りオールドファンにはあまり好意的に受け止められてはいないようです。
一方で私のようにそれまで同社に見向きもしなかった層を惹きつけることもあるのです。ブライトリングと言えばドレスラインなど皆無のひたすらハードボイルドなスポーツウォッチ・メーカーのイメージでした。
大きく強面のイメージが前面に出過ぎて、どうにも近寄りがたい印象を持っていたのです。
それが急に変わる事はありませんが、最近のコレクションが新規客層の開拓を目指している事は明らかですし、プレミエはブライトリングにしか出せない雰囲気を持ったちょいワル・ドレスウォッチをうまく演出しているなと思います。
サンレイ仕上げのブラックダイアルにゴールドハンズ/インデックスの組合せはゴージャスで、12時位置に鎮座するフルスペルの曜日表示もインパクトがあります。
さらにステップベゼルが少しの高級感をプラスしてケースサイドの彫刻がアグレッシブな印象を与えています。
随所にブライトリングだなと思わせる力強さを湛えつつ、あくまで品良くデザインを纏めていると思います。例えるなら屈強なラグビー選手がブラックタイをピシッと着こなしている感じ。
中身はというと、搭載するキャリバーB45はETA 2834-2ベースのセンター3針フルスペルデイ&デイトの機械です。38時間パワーリザーブの自動巻で、パワーリザーブが物足りないですが、COSC認定キャリバーなので精度は確かです。
ブライトリングも近年マニファクチュール化を進めており、自社製キャリバーが誕生していますが、このモデルはエボーシュ改でコストを抑えています。
ケース径40mmはブライトリングとしては小ぶりで、厚さは11.4mmなので、シャツの袖口にも収まります。裏スケでないのが残念ですが、100m防水なので実用性は高いです。
オールドファンの間では賛否両論あるようですが、このプレミエ・コレクションは全くの新作ではなく、1940年代のアーカイブから引っ張ってきたデザインを下敷きにしてるので、同社の歴史を全否定するような問題作という訳でないのです。
価格はクロコダイル・ストラップ + Dバックルモデルで定価ジャスト50万円(税抜)です。
100万円を超えるモデルも多いブライトリングの中ではかなり手の出やすい部類ではないでしょうか。とは言えCOSC認定キャリバーに新機軸のデザインを擁して見所は十分です。
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やはりこの価格帯はかなり優れたモデルが多いです。とても一度では紹介しきれないので、また折を見てピックアップしたいと思います。