瞬が家を出てもうすぐ半年になるけれど、
この3ヶ月に至っては、奥さんが留守の時を狙って
生活費を置いてくるだけで、話し合いには程遠かった。
会うと泣いてばかりいる奥さん相手に、話し合うのは
とても大変な事だろう。
何か言うと「じゃあ子供作ればいいんでしょ!」
と言われてしまうので
「そう言う事じゃなくて・・・」とまた説明しなければならず
何度も何度も同じ事を繰り返す事にも疲れるのだろう。
でも、と思う。
瞬は逃げているだけじゃないのか。
会わなかったら何も進まないのに。
せめてお金を渡す時だけでも、話をすべきじゃないのか。
このままではただただ時間だけが過ぎて行くだけなのに。
そして私は不安だった。
もし、瞬が病気になったら、奥さんが病気になったら
一体どうなるのか。
このままの状態が続いたら、瞬が根負けして
「家に戻る」と言い出すのではないか。
更に不安を煽る事に、瞬は自分の気持ちを全く言わない。
「『絶対に戻らない』とは言えない」と言うのだ。
『絶対とは言えない』と言うのは
「戻るかも知れない」と取れなくもない。
そうなった時に備えて、
私は他に好きな人を作った方がいいのだろうかと
思ったりもした。
その私の気持ちが、また瞬を不安にさせていた。
家に帰ってしまうかも知れないと不安に思っている私と
他の男に取られてしまうのではと不安に思っている瞬で
つまらない喧嘩が絶えなくなった。
実際のところ食事をした人もいるけれど、
瞬を裏切る程好きだと思う人などいない。
瞬が私を愛してくれているのは、本当に良くわかっているのだから。
このままではいけないと思った。
いつもは忙しくてゆっくり話し合う時間がない。
年末年始に賭けるしかないと思っていた。
「年末年始キャンペーン」と銘打って
私達は子供のいない3泊4日をただ一緒に過ごした。
私がキャンペーン中に心掛けたのは2つ。
とにかく、くっついている事。
キスをたくさんする事。
生憎生理が始まってしまって、
私の体調はものすごく悪かった。
4日間、ほとんど起き上がれずに横になっていた。
年末でやる事がたくさんあったが、諦めていた。
大掃除は瞬がやってくれた。
文句も言わないで、私を労わってくれた。
もちろんセックスなんてできなかった。
でもセックスができないのが良かった。
精神的なつながりを確認できた様な気がする。
いろんな話をする事ができた。
瞬の『絶対』の意味も聞いた。
「今の状態で法律的にきちんとしていないのに、
『絶対』なんて言葉を使うのはいい加減過ぎる。
俺はきちんとしてから、言いたいんだ」と言う事だった。
「私はもしかしたら戻るかも知れないって意味かと思ってた」
と言ったら、すごく驚いて
「そんな事ある訳ないだろ。バカだなぁ」と言った。
こんなに一緒にいても気持ちなんて言わないとわからないものなのだ。
「俺は本当にのんのと結婚したいと思っているよ。
のんのに俺の子を生んで欲しいんだ。
でも歳も歳だから、そんなに時間がないよね。
だから焦っているんだ。
どうするのが(離婚するのに)一番いい方法なのか
今それを考えてるよ」と。
なかなか話してくれない瞬の気持を聞けて嬉しかった。
また二人で頑張って行こうと思える時間だった。