「おかえり。お疲れさま」
「ただいま。遅くなってごめんね」
「ううん」
「結果から言うと、結論は出てないけれど、
少しだけ進展があったよ」
「そうなの?」
「うん。でも実は今日はあまり話せなかったんだ」
「え?」
「家に行ったら、あいつの友達が来ててさ」
「え?話があるからって呼ばれたんだよね?」
「うん。多分友達が来るから、普通の家庭だって
見せたかったんだと思うよ」
「この状況なのに友達を呼んでたの?」
「毎年遊びに来てる友達なんだよ。
きっとまだ別居してるって誰にも言ってないんだと思う」
「それで?」
「友達来てるのに、そんな話できないから、
帰るまで和やかに話したよ」
「それは疲れるねぇ」
「疲れたよ。10時頃にやっと帰ってさ。
俺がそのまま帰る訳に行かないから
そこから話始めて。
結局2時間位しか話せなかったんだ」
「そうだったのかぁ。だからこんなに遅かったんだね」
「うん。心配してるだろうなぁって思ってたんだけど
連絡できなくて、ごめんね」
「そんなことはいいよ」
「で、あいつはずっと泣いてて、やっぱり戻って来て欲しいって」
「そうだろうね」
「でも俺が『でももう無理だろ』って言ったら、
『それ(離婚)も考えてる』って」
「そうなんだ」
「今までは、『絶対に別れない』って言ってたから、
考えてるって言葉が出たのは進歩だと思うんだ」
「うん」
「だからまだまだ時間は掛かると思うけど、
そう言う方向でまた話合ってみるよ」
「そうだね」
「俺、金だけ置いて来てて、全然会ってなかったでしょ」
「うん」
「それはやっぱりダメだなって思ったよ」
「私もそう思うよ」
「だから少し頻繁に会いに行って話し合うよ」
「そうだね。せっかく「離婚」って言葉が出て来たんだから
後は条件とか聞いて、できる限りの事をしてあげた方がいいよ」
「そうだよね」
「奥さんもこれからの生活とか不安だろうから、
せめて金銭的な面でも先が見えれば違うだろうし」
「久しぶりに会って、やっぱり愛はないなぁって思ったよ。
もちろん情はあるよ。でもそれだけじゃやって行けないんだなって。
あいつも多分もう俺に愛情はないと思うよ。
そんな顔してたよ」
「そうかぁ。ちょっとホッとしたんでしょ?」
「うん、すごくした」


 いつもすごく疲れて帰って来る瞬にしては
珍しく晴れ晴れとした顔をしていた。
少し自分の思いを伝えられた事と
奥さんの気持ちが変化している事に安心したのかも知れない。


 私はそんなに甘く考えてはいない。
離婚を考えている人が正月に友達なんて呼ばない。
毎年来てるって言ったって、断る理由なんていくらでもある。
友達を呼ぶ事で、和やかな雰囲気にして
瞬に「帰って来ようかな」と思わせたかったのだと思う。
まだまだ時間は掛かりそうだけれど、
私は黙って待っているしかないのだ。