瞬には子供がいなかった。

私と瞬は出会う前に結婚していた。

ちょうど同じ頃だった。

 瞬と奥さんは当初からあまり上手く行ってない様だった。

奥さんは非常に嫉妬深く、携帯や手紙を勝手にチェックしていた。

何もないのに疑われているのが耐えられないと言っていた。

結局そんな行為が瞬を追い込んで、奥さんの恐れている浮気に

繋がって行ったのかも知れない。


 私の妊娠で別れた後、瞬は暖かい家庭を築こうと努力をしたらしい。

子供も欲しかった。

でも奥さんが遊びたいから嫌だと言って、作るのを拒否していた。

最初は共働きだったのに、奥さんは仕事を止めて家にいた。

専業主婦でも構わないけれど、もっと自分自身を高める努力をして欲しいと思っていた。


 毎日テレビとネットに明け暮れて、明け方に寝るので

瞬の出勤には起きて来ない。

毎朝一人で起きて支度をして、玄関にあるゴミを持って行く。

言い様のない虚しさが込みあげて来た。


 子供が欲しいと言った時、奥さんはこんな狭い家で子育てはできないと言った。

そこで瞬は家を買えば何かが変わるのかと思って、

マンションを購入する事にした。

庭の付いた3LDK。ファミリー向けの物件だった。


 でも奥さんは変わらなかった。

相変わらず遊び放題で、ネットで知り合った友人と

好きな歌手のコンサートツアーに行ったり、海外まで追い掛けたりしていた。

もちろんそんな楽しい生活で子供なんか生むつもりはない。

瞬の気持ちはどんどん冷めて行った。


 家を買ったのは子供を育てる為でもあったけれど、

自分の親や親戚、友達を招待したいと言う気持ちもあった。

でも奥さんはお客が嫌いで、友人を呼ぶ事も許さなかった。

ある日友達を呼んだ時に、奥さんは怒って一度も顔を出さなかった。

友人は恐縮して、2度と家には来なくなった。


 奥さんと何度も話し合った。

その度に奥さんは泣き、これから気を付ける、直すと言った。

でも全然直らなかった。


 そんな時に私と再会して、恋愛関係になった。

2人共結婚していたし、私には子供もいた。

私は遊びのつもりだったが、瞬は最初から結婚を考えていた。


 奥さんもそんな瞬の様子に何か気付いたのだろう。

子供を作ろうと迫る様になった。

瞬は私とセックスをした後、1度だけ奥さんを抱いた事がある。

私も瞬とセックスをしていてもダンナとしていたので、

あまり関係なくそんな話をしていた。

でも、愛がないセックスは虚しさだけが残ったと。

奥さんも自分も終わった後に泣いてしまったと言った。

それからもう抱けなくなったと。


 奥さんは何度も迫るのに断られるのだ。

その屈辱感は相当な物だと思う。


 ある日、また迫って来たのを断った。

奥さんは怒って、瞬に噛み付いた。


 その話を聞いてビックリした。

子供ならともかく大人が噛むなんて考えた事もなかった。

でもその位奥さんも追い詰められているのだ。


 もうそろそろちゃんとするのがお互いの為ではないのか。

私とは関係なくそう思う様になった。