知り合いのアイカさん(仮)には霊感が強いユリさん(仮)という友達がいる。

彼女が言うには、幽霊は基本的に何処にでもいて、屋外や屋内関係なく、彼女には幽霊は見えるのだそうだ。

よく、霊感がある人は見えている事を幽霊に気付かれないようにする、と言うが、ユリさんレベルになると幽霊が見えていて当たり前らしく、歩いていても普通に目が合ったりもするし、人間と間違って喋りかけてしまったりもするそうだ。

なので、ユリさんは逆にそれが人なのか幽霊なのか気付かないのだという。


そんなユリさんが、アイカさんともう1人共通の友達と3人で旅行に行っていた時の事。

とある渓谷を紅葉を観ながら歩いていると、ユリさんが足を止める。


「あそこ、ちょっと無理かも」


ユリさんが渓谷にかかる橋に指をさす。この渓谷の有名な観光スポットである。


「どう無理なの?何か変な物でもいる?」


ユリさんの霊感の事を知っていたのでアイカさんは聞いたが「わからない」と首を振る。

でもせっかく来たんだからせめて近くまで行こうという事になり、橋の前まで行く。すると突然ユリさんが座り込んだ。見ると小刻みに震えている。


「近くまで来てやっとわかった…」

「何がわかったの?」

「橋の上に、何もいないの」


ユリさんが言うには渓谷や川には幽霊が無数に見えるのに、橋の上には幽霊が全く見えないのだ。それが不穏で異様な空気感を醸しているのだそうだ。無の空気感、そこにいるとまるで吸い込まれるようだという。

さすがにこの状態では橋は渡れないだろうとなって、3人は歩いてきた渓谷を逆戻りして帰ったそうだ。


後日、アイカさんがその橋について調べてみると、戦前からしばしばその橋から飛び込んで命を落とす人がいたらしい。

飛び込みが多い事とユリさんが橋の上で幽霊を見えなかった事が、何か繋がりはあるのだろうか。