Aさんの町では毎日午後6時になると時間を知らせるチャイムが鳴っていた。

夕方になると「キーンコーンカーンコーン」と学校の始業・終業に鳴るようなチャイムが町中に鳴り響く。Aさんは小学生の頃は友達と遊んでいる時にこのチャイムが聞こえると「そろそら帰らないと」と帰宅の合図にしていた。

他の町ではよく童謡などの音楽が流れているという話はよく聞くが、チャイムが鳴るのはちょっと珍しい。ただ小さい頃からずっとチャイムを聞いていたのでAさんはそれが不思議とはあまり思っていなかった。


中学生になった頃の事。
入ったばかりの部活動を終えて家路に着く。中学になって買ってもらったばかりの携帯電話、当時はガラケーが主流だった、そのガラケーを見た。時間はちょうど午後6時。もうこんな時間か、と思った時にふとそのチャイムが鳴っていない事に気が付いた。「もうやめちゃったのかな」と寂しさを感じたそうだ。


翌日、クラスメイト数人と駄弁っている時にチャイムが聞こえなかった事を思い出した。


「そういえば昨日さ、6時のチャイム鳴ってなかったよね。ずっと家に帰る合図にしてたからちょっと困るよね」


クラスメイトはキョトンとしている。


「学校のチャイムって授業終わってから鳴るんだっけ」

「いや学校のチャイムじゃなくて町のチャイムだよ」

「町の?」


話が噛み合っていない事に気付いたAさんはそこで毎日午後6時に町内放送でチャイムが鳴っている話をクラスメイトにした。だが、何故か誰も町のチャイムなど知らないと言う。変な事を言う奴だと思われたくないAさんは適当に誤魔化してその話題を終わらせた。

その日の放課後、クラスメイトのBくんがAさんに話しかけてきた。


「俺もそのチャイム聞こえてたんだ」


Bくんも午後6時に鳴るチャイムを聞いていた。Aさんと同じように昔から聞こえていたのでチャイムが鳴る事に何の違和感も感じていなかった。


「やっぱそうだよチャイム鳴ってたよねーウチらだけ聞こえてたって事なのかなー」

「あれが鳴ったらもう帰らなきゃってなるんだよ」

「そうそう、あれが合図なのよね」


Bくんと同じ話を共有でき仲間ができたような感覚になりAさんはテンションが上がる。


「でもさその後に流れる町内放送が気持ち悪かったよね」

「町内放送?」


Aさんはチャイムしか聞いておらず、町内放送など知らない。その事をBくんに言うと、いつもチャイムの後に女性の音声で町内放送が流れていた事を教えてくれた。

「今日、亡くなられたのは●●丁目●●さん、●●丁目●●さん、●●さん、以上です」

無機質な音声で誰が亡くなったかを読み上げるアナウンス、Bさんはその声がなんとも怖くて小さい頃はその放送が始まるといつも耳を塞いでいたのだという。


「そのアナウンスのあった人って本当に亡くなった人?」

「うん、読み上げられた名前の人が次の日の新聞に載ってたのを見た事がある、間違いないよ」


その日、家に帰って母親にチャイムと町内放送の話をしたが、Bくん以外のクラスメイトと同じように怪訝そうな顔をしたので、それ以降は誰にも言わないでおこうと思ったそうた。

次の日、登校中に何気に電柱を見ていたが町内放送用のスピーカーなど何処にもない事に気付いた。やはりチャイムや町内放送は存在しなかったのだと実感したそうだ。

AさんとBくんが聞いていたチャイム、そしてBくんが聞いた亡くなった人を読み上げる町内放送が何だったのかは未だにわからない。ただ、AさんがBくんと会う度にこの話題になるので、2人が実際に体験したという事だけは事実である。