Aさんが昔住んでいた部屋に、女性の幽霊が出たそうだ。
黒いロングの髪で薄い水色のワンピースを着ている女性の幽霊で、夜、電気を消すと現れる。
ただ、何かするわけでなく、Aさんの耳元まで顔を近付けると
「……はぁ……………はぁ……………」
と吐息をつくだけなのだそうだ。妙に艶めかしいが、大した事じゃないと、Aさんは放っておいたそうだ。
ある日のこと。
そろそろ寝ようと電気を消し、しばらくすると、いつものように、女性の幽霊が現れた。
ただ、その日はいつもと様子が違った。
「…はぁ………はぁ……」
耳元で吐息をつくと、ガバッとAさんに覆い被さってきたのだ。そのままAさんは女性の幽霊に襲われ、事を致してしまった。
その時、初めて近くで女性の幽霊の顔を見た。艶かしく息をつくその顔は美しく、頬にある黒子が印象的だったという。
ただ、この出来事の後、怖さや気恥ずかしさや罪悪感などもあり、Aさんは別の場所に引っ越してしまった。
数年後、そんな出来事があった事も忘れた頃の事。
同じ趣味の関係で仲良くなったBさんと食事をしていた時に「実は、部屋に幽霊が出る」と相談されたそうだ。
夜、電気を消すと黒い髪で水色のワンピースを着た女が布団の横に立っているそうだ。何をするわけでもなく、ただただ立っている。時々、髪をかき上げると頬にある黒子が見え、妙に艶めかしいという。
それを聞いてAさんは、以前に見た幽霊の事を思い出した。特徴が全く同じなのだ。
「もしかして、Bさんが住んでるのって●●ってアパートの103号室?」
「え、よくわかったね」
「俺も前にそこに住んでて、同じ幽霊を見た事あるんだ」
「すごい偶然」
その女の霊と致してしまった事は恥ずかしかったので言わなかったが、同じ幽霊を見たという共通の話題ができBさんと盛り上がった。だが、Aさんの話と違う所もあった。その女が現れると、一緒に子どもの笑い声が聞こえるのだそうだ。
キャハハハハ………
声が聞こえる方を見ると2〜3歳くらいの子どもの幽霊が遊んでいる。特に何をするわけでもなく、部屋にあるものを触っては笑っている。
女はというと、その子どもを愛おしく見つめているのだという。多分、その女の子どもなのだろう。
その事を聞き、幽霊に子どもができる事もあるのか、とAさんは少し笑ってしまった。
すると「あ」とBさんが声を上げる。「どうかしたか?」と聞くとBさんは答えた。
「そういえばその子どもの笑顔、何となくAさんの笑った顔に似てましたね」
「似てる?もしかして俺の子か?」Aさんは気恥ずかしい思いでいっぱいになったそうだ。
それから数年経ったがBさんはまだその部屋に住んでいる。女と子どもの霊は今もそこに出るらしく、子どもは順調に育っているそうだ。
その話を聞いたAさんは、いつか子どもを連れてその女が姿を見せるのではないか、と戦々恐々としている。