Aさんが幼い頃の話。
Aさんの実家の近所にいわゆるゴミ屋敷があり、そこに柏木さん(仮)というおじいさんが住んでいた。
ゴミ屋敷の住人というと気難しいというイメージをしてしまいがちだが柏木さんはそんな事はなく、普段から町内の行事に参加したりみどりのおじさんをしたりと近所の子供達も優しいおじいさんとして知られていた。昔は腕の良い大工だったらしく、集落の家の半分くらいは柏木さんが作ったのだそうだ。そんな事もあって町の人との関係も悪くなかった。
そんな柏木さんがゴミを溜めるようになったのは数年前、長年連れ添った奥さんが亡くなってから。
時折、ゴミを片付けて欲しいと市や隣近所の人に注意されていたが、それを哀しそうな顔で聞いている柏木さんを見て子供ながらに何か片付けられない事情があるんだろうなとAさんは思っていた。
そんな柏木さんが亡くなったのはAさんが中学生の頃だ。
柏木さんには子供はおらず、柏木さんの親戚や近所の人によってお通夜・葬式はつつがなく執り行われた。ひと通り終わったあと、残されたゴミ屋敷をどうにかしないといけないとなり、柏木さんの親戚の人が業者に頼んで片付けしてもらう事になったそうだ。
数週間後、ゴミ屋敷に業者がやってきた。
ゴミが片付けられていくのをAさんは自宅からボンヤリ見ていた。建物から次々に運び出される大量のゴミ。しばらくするとあらかた片付いたようで、巨大な木槌を持った人が家に入っていく。
すると、ドン!ドン!ドン!と何かを叩く音が聞こえた。木槌で壁を壊しているようだった。ドン!ドン!ドン!しばらくその音が続き、それからバキバキっと音がした。何か道具を使って床を剥がしているのだろう。
「うわっ!!何だこれ!?」
突然、建物の中から声が響いた。
何があったのだろうか、Aさんは気になってゴミ屋敷の方に向かった。
ゴミ屋敷に着いて中を覗くと業者の人数人と柏木さんの親戚が床にあいた穴の周りに集まっている。
近付いて穴の中を見たAさんはギョッとした。
人の形をした木の板が大量にあったのだ。
手のひらくらいの大きさの人型の板がパッと見た感じ100から200枚ほど床下にある。それだけでも気持ち悪いが、よく見るとその板は手彫りのようで、その全てに墨で「ひとし」と書いてあった。
「これ…何なんですか?」
業者さんに聞いたが、床をめくったら大量に出てきたそうで、柏木さんの親戚も何かはわからないのだという。ただ「ひとし」という文字の筆跡は全て柏木さんのものだったそうだ。
何か呪いのようなものだろうか。ただ、集落には「ひとし」という名の人はおらず、柏木さんの親戚も心当たりはないそうだ。
その後、気持ち悪いので持っていたくないがそのまま捨てると祟られるのではと思った柏木さんの親戚は、その人型の板を神社でお祓いをしてもらいそのまま預けたのだそうだ。
柏木さんが何を思ってこの人型の板を作ったのかはわからないが、これがゴミを片付けられない理由だったんだろう、Aさんはそう思っている。