Aさんが中学生だった頃の話だ。
普段、Aさんが通学で使っていた道で不思議な事があったという。
Aさんの通学路は自宅のある住宅地を通り抜け田畑が広がる田舎道を通る。その先に川があり、そこにかかった橋の向こうの町の中に中学校があるというものだった。
ある朝の事。その日は梅雨の晴れ間という感じで天気が良い日だった。
その青い空に気持ち良さを感じながらAさんは徒歩で学校に向かっていた。住宅地を抜け田んぼの脇道を通り橋が見えてきた所で、天気の良さから更に少しハイになってきた。そして何故か「今すぐ川の方へ行かないと」という気分になったそうだ。
おーい
自分を呼ぶ声が聞こえた。Aさんは嬉しくなって小走りで川へ向かった。
そこから記憶がない。
「冷たっ!!」
突然冷たさを感じ正気に戻る。周りを見ると川の中、腰まで水に浸かっていた。
「え?なんだ?」
慌てて川から出ると、河川敷で座り込む。どうして川の中にいたのかわからなかったAさんは怖くなってそのまま家に帰った。
学校に向かったはずのAさんが帰ってきた事にAさんのお母さんは驚いたが、べしょ濡れで呆然とする息子の様子を見て、その日は学校を休ませたそうだ。
結局、その後Aさんの身に何かあったわけではないそうだ。
「おーい」と呼ばれた事が気になったAさんはその川で事故があったのでは?と思ったそうだが、図書館で地元の新聞を調べてもそれらしい事故の記録は見当たらなかった。
「おーい」と呼んだのは誰だったのか。Aさんは何に誘われたのだろうか。