子どもの頃…と言うと、もう60数年も前の話になる。
私には懐かしい想い出だが若い人には理解し難い事も沢山あろうか。
時代劇の水戸黄門を観ていたら五右衛門風呂が出てきて八兵衛が丸い板を敷いて入ろうとしたら外してしまい、「あちち!」と言って飛び出すシーン。
ああ、想い出した。子どもの頃のうちのお風呂も五右衛門風呂で同じ様な経験をした事がある。下に敷く板は毎年、大工さんに頼み、作り替えていたが新しい板の香りが気持ち良かった。しかも風呂を沸かす前には大きな手押し棒を使って井戸水を張らねばならなかった。
あの頃、頭にハチマキをした古鉄買いのおじいさんが回って来た。風呂の灰から磁石で釘を拾い集めて売るとお金になった時代だ。5円玉を握りしめ、近所の悪ガキ連中と、よく駄菓子屋に行ったが古鉄が売れて大きな菊の花の付いた50円玉を手にすると大名気分で連中に奢った。
色のついた赤いお菓子で舌まで染まると「ぼん、そんなんこうたら、ごりょうはんに叱られまっせ。」とお菓子屋のおばちゃんに注意されたが子どもには難しかった。
そんな悪ガキの1人の家に遊びに行くと庭先に三ツ矢サイダーの空き瓶が沢山転がっていた。当時、サイダーは瓶でしか無く40円か50円と高価だったが、瓶代5円を含んでいた。我々は両手いっぱいに瓶を抱え、お菓子屋に持ち込んだ。瓶と交換にそれぞれ数十円を手にし、サイダーと交換してその場で初めて1本を1人で飲んだ満足感を味わった。そいつの家に行く度に庭に転がっていないか瓶を探したものだった。
そんな友も癌で抗がん剤治療を受けていると言うので先日、実家の近所にまだある家を訪ねたら昔の家から建て直され、瓶を探した庭は無くなっていた。玄関口まで出て来た彼は、これまで数年にわたり受けた治療の数々を自慢気に話した。「まあ、頑張れよ。」としか言えずに帰ってきた。
知らぬ間に60歳後半、いや70近くになり、何故か昔の事がよく夢に出てくる。大の大人になってもサイダー瓶を探す夢を観たなんて癌の友人に言ったら、どんな顔をするだろう。
(2024.10.31)