デリバー!2018(CM) | Fragment

Fragment

ホミンを色んな仕事させながら恋愛させてます。
食べてるホミンちゃん書いてるのが趣味です。
未成年者のお客様の閲覧はご遠慮ください。

この仕事をしていて、働くこととや、家族というものを考えるようになったと思う。
働いていて、新しい家族が出来た。
全員他人という関係だけれど、そこには確実に暖かいものが存在している。

FAMILY

そう呼べる人達が、この街でたくさん出来た。

僕を生んでくれた家族は、都心部で暮らしている。
会社の真ん中にいて、会社全体を動かしている。
いつかは僕もその中に入っていくのだろう。
その時は、ユンホを連れて行くんだ。
漠然とだけど、そう思って今に至る。
祖父も父も健在だから僕の出番は遠いかもしれない。
けれど、なんとなくだけれど、その時は必ず来るんじゃないかとも思うんだよね。

その時は、きっと、僕は家族の意思を継いで生きるんだろう。
働くんだろう。

でも、その前に。

僕はまだしなくてはいけないことがたくさんあると思っている。
まだまだ未完成の自分だから。
僕にはまだ、この暖かい街で学ぶことが必要なんだ。

愛されて育った、この街で。

何度目かの夏が来る。

毎年変わらない青さを見せてくれるこの街が、僕はとても好きなんだ。





育児休暇中のあの子とユンホが事務所から出ていくと、入れ違いのように彼女の旦那が帰ってきた。
あの頃よりもまたずっと引き締まった顔つきになった、二の腕がポッキー色の彼だ。

『おかえりなさい、アイスあるよ。』

『いただきます。』

相変わらずひとつひとつが律儀で真面目な彼は、必ず出世するだろう。
僕だったら、側に置いておきたいタイプのひとりだと思う。
だからね、思うんだ。
僕はこんな部下を大切にしたい。
まだまだ部下に育てられる上司だけれど。
僕はユンホに教えて貰った大切なことを、この会社に広めたい。
この業界に広めたい。
僕はユンホと培った全てを、この業界で働く人達に伝えたい。
この仕事をしていて本当によかったと思える瞬間は、きっと従事している人それぞれだ。
そういう瞬間を得られることに意味があることそのものを、知ってもらいたいと思う。
目の前にいる優秀な部下は、きっとその瞬間に早くに立ち会えたのだろう。
だから今ここにいる。
その事実が、僕の励みになるんだ。



男ふたりで並び、事務所のソファに座る。
カップアイスの蓋をとる。

『これ、奥さんが持ってきてくれたんだよ。』

『え、来たんですか、』

『うん。この前見た時より、赤ちゃんも大きくなったね、まだまだ小さいけど。』

そう言うと、彼は少し照れたようにアイスに視線を落とした。

『久しぶりにすごく賑やかな事務所になったよ、ふふ。』

『なんだか、すみません、』

『どうして謝るの、みんな喜んでたよ。』

シャイなこの彼は、黙ってアイスクリームを口に運び続けた。
無口なわけではないけれど、基本的にシャイな部分が大きくて、弄りがはとてもある。
それはそれで奥さんになった彼女ととてもいいバランスだとも思うけれど。

『所長、』

『なんですか、』

ユンホがストロベリー味を好きなことはみんな解っているから、必然的に差し入れにいちご味だのストロベリー味だのと書かれたものが含まれる。
そしてその味のものは、ユンホのために皆手をつけない。
シャイな彼が食べているのはほうじ茶味という渋めのチョイス。
僕はカシスベリー味というものだ。
バニラの濃厚な甘さと一緒にカシスベリーの爽やかな酸っぱさが絶妙に合う。
選んで正解だね。
自分で自分の選択を褒めてみる。

『所長はいつ頃、本社に行くんですか。』

『、』

それは僕も知りたい。

『どうかな、僕の前に父もいるかね。』

『そうでなくても、本社の主力にはいつでもなれるじゃないですか。』

主力。
どうだろう。
僕は結局のところここの営業所と、この街のことしか知らない。
「先」に行くには早い気もするし、早く行かなければ成長出来ないような気もするし、自分でも迷うまではいかないけれどわからないでいるのだった。

FAMILY

上司である僕の家族は、僕のことをどんなふうに見ているのだろう。
僕は僕の家族と仕事がしたいのだろうか。
僕の家族は、僕と仕事がしたいのだろうか。

僕はどこで何をしたいのだろう。

そんなこと、決まっている。

少なくとも、場所は。

『リーダーと、必ず主力になる日が来ますよね。』

そうなのだ。
僕がいる場所は、ユンホのいるところだ。

どこに行ってもやっていけるとは思わない。
けれど、ユンホと一緒だったら可能なものが大きく広くなるんだ。
物理的にも、精神的にも。
それは彼を全てにしてしまっているようで、あまりいいことではないのかもしれない。
それでも僕には彼が必要で、彼が抱える世界観がとても好きなのだ。

この青をどこまでも遠くへ広げてくれるような人だから。

遠くても、近くても、等しく届けるように。
清々しい青を持った人。

『ずっとここにいて欲しいとは思います。』

『、』

お互いのスプーンを持つ手が止まる。
目が合う。

『俺だって、ここで働いていたいです。』

『うん。』

『でも、そうもいかない日はきっと来るんですよね。』

『そうかもしれないね。』

カップの淵からアイスクリームが柔らかくなる。

『でも、俺は思います。もっとふたりと近いところで働きたい。』

『、』

近いところ。
今が一番近いのではないだろうか。
違うのかな。

『少しでも、ふたりと同じ世界を見たいと思うんです。』

今日は彼にしては珍しくよく話す。

『ふたりが上に行くのなら、俺もついていける様に、なりたいんです。』

そうなると、ここの小さな営業所は誰が守るのかな。
僕とユンホがいなくなる時、ここを任せられる人は彼の他にいないと思っているくらいなのに。

僕は正直、少し驚いた。

『…、すみません、急に変な事言って。』

『ううん、光栄だよ、ありがとう。』

じわじわと胸が熱くなってきた気がする。
返してあげられる適切な言葉はなんだろう。
僕は考えながら溶けたアイスクリーム
掬って口に運ぶ。
カシスベリーの上品な酸味が僕を苛める。

『そうだね、…、まだ僕自身がどこでどう働いたらベストなのだろうって考えてしまうこともあるんだ。』

『はい、』

『つまり、僕がそこに行くって言いきれなければ、無責任に君を連れていくなんて、言えない。』

『はい、』

そこまで言って僕は思ったんだ。

明確な答えを持つ僕は、一体どれほど自分の中にいるものなのだろう。

『ここにいるかもしれない、本社に行くかもしれない、僕だけが本社に行くかもしれない…、まだそんな段階だ。だから、じゃあ一緒に、なんて一言も君には言ってあげられない。』

『はい。』

聞き分けがいいんだよね。
この子も。
多分、納得がいかなくてもそう返事はするだろう。
だから僕は、多分ユンホもそうだけれど、その聞き分けの良さを間違った方向に成長して欲しくなかった。
そして間違った導きをしないようにすることで、従業員に育てられている僕もいるのだ。

従業員の教育。
これは僕がこの仕事をしている間は終わることない目標と悩みになるだろう。
大切な人達なら、尚更。
家族のような人達なら、尚更。

そう、家族であるならば、尚更ーーー。



『おかえりなさい。』

彼の声に僕は顔を上げた。

『あ、アイス食べてる、』

『おかえりなさい、ユンホの分もちゃんとありますよ。』

グローブを外して手を洗った彼は、思い出したようにトラックに戻った。
ふたりでユンホの様子を観察してアイスを食べ終える。
ユンホは何かを持って戻ってきた。

『メロン!』

『はい?』

こういう時の彼は、子供の時から変わっていないのではないかと思う。
満面の笑みでメロンの入った袋を突き出してきた。

『どうしたんですか、これ。』

『母さんに貰った!みんなで食えって、』

高そうなマスクメロンだ。
贈答用のいいものだろう。
いい香りがする。

『早速分けましょう、夕方で上がる人も食べられるように。』

ユンホはやはりストロベリー味のアイスを選んで食べ始まった。
食べながら僕がメロンを切るところを覗いている。

『戸棚の大きなお皿、取ってくれる?』

ポッキー色の腕の彼にお願いすると、きちんと水で洗って拭いてくれた。
皮を除き、一口で食べられるような大きさにカットする。
爪楊枝を何本か刺して終わり。
高級感は無くなってしまったけれど、強い香りと甘みは十分に感じられる。
僕は戸棚から小さなタッパーを取り出した。切ったメロンを数切れ入れる。
蓋をして、さらにビニール袋に入れる。

『ねえ、これ、奥さんに持って行ってあげて。少しだけど、おすそ分け。』

『いいんですか、』

『もちろんだろ、』

ユンホが親指を立てた。
青いユニフォームを着ていると、爽やかさは5割増だね。

今度は男3人でソファとパイプ椅子に座ってメロンを食べる。
そこでまたポッキー色の彼が話を始めた。

『上に行く時は、俺も連れていって欲しいです。』

僕とユンホは彼の顔を見た。

僕に話し、更にユンホの前でも話すということは、彼なりに仕事への欲が出てきた時期ということなのだろう。

『上って?本社?』

ユンホが彼に聞き返した。
彼は真剣な顔で頷いた。
すると、ユンホの顔がふっと微笑んだ。

『可笑しいな、俺は今さっき、ここの看板娘にどこにも行くなって言われてきたんだけど。』

『、』

看板娘とは、若奥様のことだろう。

『そう言われて俺も考えながら走ってたんだけどさ、』

ユンホはアイスクリームを食べながら続けた。

『上に行かなくちゃ変えられないのか、上に行かなくちゃ本当に大切なものを届けることは出来ないのか、考えていた。』

『、』

胸をトンと、叩かれたような感じがした。
僕の背中は傾いていた。

『俺、今嬉しいことを言われたんだ、こっちの母さんに。』

メロンをくれた本人だ。

『俺達は、素敵なものを届けられる事実を作れるから、どこに行っても大丈夫だって、言われたんだ。』

『、』

ユンホが僕を見た。
白い歯が眩しい笑い方だった。

『どこに行っても大丈夫、俺はチャンミンとならその通りだって思うよ。』

『ユノ、』

溶けたアイスクリームを口に運ぶ。

『でもさ、だったら、ここにいてどこまで届けられるのか挑戦してみてもいいのかなって思ったわけ。』

『、』

僕と隣合って座っている若旦那は、揃って瞬きをした。
ユンホの言葉にはいつも驚かされるけれど、今日もまたすこぶる気持ちのいい驚きを与えられたものだ。

『ここで作ってきた繋がりを、どこまで遠くに届けられるのかなって。』

青い繋がり。
絆。

『あったかい繋がりとか、熱い繋がりが従業員ともできたし、街にもそれが届いてるのかなって思えるようになってきたから。』

僕の胸に、青空が広がった瞬間だった。

『ここにいて、チャンミンとどこまで広く強く生きることが出来るのかな。』

『、』

言葉なんてすぐに出てきてくれない。
メロンの香りが3人の間を縫っていく。

『ここで見つけた大事なものを、俺達の手で遠く広いところに届けられたらいいなって、思ったんだよネ。』

さっきまで、今後の居場所について何も言えないだなんて言っていた自分が恥ずかしかなってきた。
ユンホはいつだって僕に答えを与えてくれているというのに。
いつも。
今までも。
この瞬間だってそう。
さっきまでの自分がとても恥ずかしい。

『この手で守ってきたものを、ここで守りながら、大きくなる。』

ユンホはスプーンを咥えて、手のひらを僕に見せてきた。

ああ、吸い寄せられる。

僕はその手のひらに、自分の手のひらを重ねていた。
僕よりも長くて綺麗な指をした手だ。

この手を見つめるもうひとりの従業員の顔が見えないけれど、とてもよく解る気がした。
驚いて、そして「またか」という顔をするんだよね。
小さく笑って。
伊達にアルバイト少年が大人になる瞬間を見てないよ。

『ふふ、』

『ふぁんだよ、』

『ふふふ、あなたにはいつも驚かされる。』

手のひらは、合わせたまま。
スプーンを咥えさせたままでごめんね。

『ここを離れなければいけない日があることに、囚われていましたね。』

そうじゃないんだって、今やっと気付いたんだ。
気付かせてもらったんだ。

『僕はこの街という組織の中で、社会の中で、あなたと、あなた達と成長したい、そう思います。』

思いました。
気付かされました。
あなたに、ユンホ。

『僕は、僕とあなたを必要としてくれるこの街で、世界に向けて届ける気持ちを発信したい。』

ユンホがスプーンを咥えたままの口で微笑む。
スプーンを取って、カップを置いて、僕達をふたりを見ていた彼の手を掴んだ。
引き寄せて、3人の手が重なる。
円陣を組むみたいに。

『この仕事を繋いでいくのは、こういうことでもあるんじゃないかな。』

ユンホがポッキー色の手を見つめながら言った。

『誰かを置いていく成長があれば、誰かと共に見届ける成長もある。そして、誰かと最後まで走り抜ける成長もある、俺は今日、そう思ったよ。』

僕は僕の家族という社会組織に、囚われていたのかもしれない。
考え方そのものをね。

『「一番上」がここにいても、いいんじゃないのかな。』

ユンホが言った。
それはどうかな。
ううん、その咄嗟の反応がいけないんだ。
ユンホがくれる大きな光を疑う癖がついているのではないか。

『いろんな成長の仕方がある。個人も、チームも、会社も。』

ユンホが言うと、それが全て魔法の言葉のように思えてしまう。
なんでも叶ってしまうような、なんでも可能になってしまいような、そんな力があるんだ。

『俺はチャンミンの成長していく姿をずっと見ていたいな。』

合わせていた手のひらを握られる。
そのまま唇に運ばれて、僕の指は彼の唇に触れていた。
従業員が一緒にいるというのに。

もう。

『だめ?』

もう。

今この若くて有能な部下を前に言い切ることができなかったと言うのに。
ここで言い切ることを迫ってくるなんて。

ずるい。

『俺も、ふたりと一緒に働いていたいです。ふたりの下で、成長したいんです。』

聞き分けのいい部下の熱い眼差しを受ける。

じわじわと、ドキドキしてくる。

トイレに行きたいかもって、思うくらいに。

『チャンミン、』

言うよ、言うから。
ますますドキドキしちゃうじゃない。

『僕は、』

ふたりの視線が注がれる。

『この街で、一番幸せな、宅配便屋さんを、していたい。』

顔が熱い。

『生まれ変わっても、ここで、この街で、ユンホと、みんなと、働いていたいと思うよ。』

新しい家族が出来て、家族のような人達に恵まれて、僕はこの店でたくさんの幸せを感じることが出来た。

FAMILY

この街そのものをそう呼べるように、僕は成長したい。


『冬だって暖かい、この街で。』


もうすぐ夏がやってくる。

このユニフォームのように、青い夏が。

充実と幸福と多忙をたくさん含んだ夏がくる。


『世界一幸せなお届け物屋さんでいたいんだ。』


ユンホの手と、日々成長をする日焼けした手が重なる。
そして小さくても元気いっぱいのあの娘の手も、ぱちんと音を立てて乗っかってきた気がしたんだ。

蝉はまだ鳴かない。

梅雨入りはきっともうすぐ。

そして僕達は常に青い。

すでに幸福な、青に包まれている。

その幸せな青を越えて、青く染めていく仕事をしたいと思うんだ。













終わり。
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