ラブアンドシーフ28(CM) | Fragment

Fragment

ホミンを色んな仕事させながら恋愛させてます。
食べてるホミンちゃん書いてるのが趣味です。
未成年者のお客様の閲覧はご遠慮ください。

動きがあったのは夜明け前。
シウォンとキュヒョンが最初の荷物を運んで戻ってきた。
ふたりとも無事だったことに安堵した。
ふたりはすぐに荷物を積んだ馬車を倉庫に移した。
僕も一緒になって倉庫に荷物を下ろす。

『みんな無事なの?』

運びながらふたりに聞いたんだ。

『部隊が別だからわからないけど、何かあったらうちの子が知らせてくれる。』

キュヒョンが言ったうちの子というのは、僕と男の子を助けてくれたハヤブサのことだ。
上空から旋回して、そして間近で見つめて互いの危険や安否を知らせてくれているようだ。

『チャンミン、俺は直ぐに戻るよ、ヒチョル兄さんのところに戻る。』

『シウォン、ひとりで?ヒニムは無事かな、』

『大丈夫、俺がヒチョル兄さんの元に戻るまでユンホ兄さんがそばに居る。』

それを聞いて物凄く安心してしまった。
シウォンは直ぐに馬に跨った。

『あげる。』

キュヒョンがシウォンに何かを渡した。

『助かる、キュヒョニ、チャンミンをよろしく。』

『うん、』

シウォンは受け取ったものを口にした。
そして直ぐに森の中へ消えていった。

『眠気覚ましと、まあ、その他の栄養剤ってところかな。』

僕が聞く前にキュヒョンは答えてくれた。
見えなくなったシウォンの背中をまだ見つめているような目で。
飄々として、でも口数は多くないキュヒョン。
彼は彼で仲間を、兄弟を思っていることを、闇夜を見つめるその目から知った気がした。









キュヒョンに温かい飲み物を入れる。
男の子は眠っていた。
犬も猫も。

『君は寝てないの?』

『うん、眠れそうにないし、』

『誰も怒んないって、寝てても、』

『ふふ、ありがとう。』

キュヒョンの話によると間もなくイトゥクが荷物を積んで戻るという。
今回は、僕がいたあの家より荷物そのものは少ないようだ。
一番のお宝はあの工場そのものだ。
従業員の解放。
権利の「譲渡」。
そしてその権利の引き継ぎ。
悪い金の浄化。

そして苦しんだ人達への分配。

動きが俊敏なテミンとミンホ、ドンへとウニョクが見張りや従業員の動きを封じ、
ヒチョルとシウォンが悪の親玉と対面をする。
ユンホは総指揮をとる。

イトゥクとキュヒョンは普段から前線に出るというよりは、子供の精神面を見ていたり裏方の処理をしているようだった。
この館の中でも各々の特技で役割があるようだ。


『キュヒョン、』

『うん?』

夜明けは直ぐに見ることができない。
深い森の中にこの館はあるから。
外はまだ闇に染まっている。

『君はどうしてここに来たのか、聞いてもいい?』

キュヒョンは白い頬の動きをその刹那止めた。
けれど直ぐに笑みを浮かべて僕を見た。

『オレはみんなと違って両親もいる。家族もいる。けどね、まあ、気質っていうのかな、ここでこうして働いてることが性にあってるのかもしんない。』

キュヒョンは続けた。

『きっかけはヒチョルとイトゥクだったよ。遊びで作ってた薬に目をつけられてさ。』

こんなに優しそうな青年が、どんな状況でヒチョル達と出会ったのか。
興味と謎は尽きないな。

『譲ってくれって言われて、使い道を聞いたら「世直し」とか言われて、』

キュヒョンは笑った。
楽しげに頬に赤みを差して。

『それからユンホに会って、テミンとミンホ
会って、オレが作った薬を売ってるうちに楽しくなってきて。だからオレもシウォンの次に新参者なんだよね。』

シウォンよりも、少しだけ先にここに来ていた。
そうだったのか。

『オレは悪いことするヤツはやっぱり嫌いだよ。オレは幸いにしてここのみんなや子供達のようにひもじい思いも辛い思いもしてこなかった。だからこそ、自分の趣味で世直しに繋がるなら楽しいかもなって。』

楽しい、か。
強い気持ちがないと、楽しいとは思えないんじゃないかな。
辛い目にあった子供達を目にするのだから。

『今何考えてるか、当ててあげよっか、』

『え?』

キュヒョンがニヤリと笑った。

『楽しいなんて、なんて不届き者なんだ。だろ?』

『ううん、違うよ、思ってない、』

『はははっ、』

キュヒョンの笑い声に、犬と猫が起きた。
あの子はまだ眠っている。

『いいんだ、多分当たってるだろうし。』

キュヒョンは足を投げ出した。
ソファに深く体を沈める。

『オレは同じ目にあってない分、その人たちの気持ちなんか理解できないってわかってる。』

それは僕もなんとなくわかる。
いや、とてもわかる。

『だから、オレは自分が作った薬とかオモチャで結果的に成功することに喜びを感じるわけ。』

『ああ、うん、』

『全人類が目の前にした人の痛みとか苦しみが理解できれば、こんなことになってない。この館はなかった。みんなが出逢わなかった。』

『そうだね、うん、そうなんだよね、』

僕は二度、三度と頷いてしまった。
キュヒョンがそんなふうに考えていたことを初めて知ってなんだか嬉しかった。

『わからない、理解できないなりに、心を寄せられる態度を見せるっていうのが、今のオレの作戦の参加の仕方かな。』

心を寄せられる態度。

ドキドキした。
それなら、僕にも僕なりの態度が何かしらあるんじゃないかなって思えるから。

ドキドキしている。

『オレは趣味みたいな感覚でここにいるけどね、それで兄貴達が満足ならそれでいいやって思う。』

『うん、』

キュヒョンはキュヒョンで、自分の中心に置いているものが、彼が言う兄貴達というここの仲間なのだろう。
その仲間が熱い気持ちで結果を生み出すことに、楽しんで力を貸す。
結果的に仲間が喜んでくれるなら、自分も嬉しいし楽しい。
そういうことなのか。

そして「世直し」へ歩みを続けているのが、ここの盗賊団なんだ。

『だから、何かしなくちゃここに居られないとかあんまり力入れて考えない方がいいよ
、』

『、』

『そっちの方が多分、みんな心配するんじゃないかなあ。』

本当に、本当に、自分が思っていることと、周りが思っていることって違うんだなって思ったんだ。
こんな発見は、独りではわからなかっただろう。
あの家にいても、分からないままだっただろう。

『うちのお頭を信じて、兄貴達を信じて、世の中をここで見つめられればいいんじゃないかな。』

世の中を見つめる。
僕がしてこなかったことのひとつだ。
世の中から逃げてきたのだから。

『世の中を捨てたら、ここにいる子供達の行き場所を諦めることになるからね。』

『うん、』

そうだね。
ここの子供達を幸せな場所に還すことがユンホのもう一つの目的でもあるのだから。

『自分の居場所って、自分で見つけても、与えて貰っても、なんだっていいんじゃないのかな。』

『え?』

キュヒョンが笑って僕を見た。

『結局のところは、どれだけ自分のものにできるかが大事でしょ、』

自分のもの。

ここが、僕のものになる?

ここが、僕の居場所になる?

なれるのかな。
そう思っても、いいのかな。




馬の蹄の音がした。
また一人戻ってきたようだ。
イトゥクだった。
僕とキュヒョンは外に出た。
彼は愛馬に荷物を目一杯載せていた。
それらをまた僕達は手分けして下ろす。

『兄さん、おかえり、』

運びながらキュヒョンがイトゥクに言った。

『ただいま、お前もうまくいってよかった、』

『みんなは?』

『無事だ、テミンとミンホの見張りは最高だな、』

イトゥクが運んで来たのは貴金属や現金だった。
これらは館の中に運ぶ。
詰められた箱のなかを見ると、流石に目眩がしそうだった。

『お前が作ってくれた薬を従業員に使わずに済んだよ。』

『え?』

僕とキュヒョンは声を揃えてイトゥクの方へ振り返った。

『無条件降伏ってやつ。出来るだけ顔は隠してたけど、俺たちを見るなり手を上げて静かにしててくれた。』

『そう、その人たちは解放できたの?』

『ユノが酷使された分の稼ぎをちゃんと渡して解放したよ。』


ユンホ。
無事なんだろうけれど、やっぱりそばに居たいな。
そう思ってしまう。
どんな顔をして金を渡したのだろう。
きっと気持ちがいいものではないはずだ。
目の前の人達は、それ以上に苦しんでいたのだろうから。
そんな人たちを前にして、金をばら撒くことを気持ちいいことだとは決して思わないだろう。
でも、払う。
手渡す。
それが彼だ。

そしてきっと抵抗しなかったことに感謝して、全員が工場から出ていくのを見届けたのだろう。


このまま、このまま、現場に残っているみんなが無事で戻ってきてくれますように。

僕は白くなり始めた森の上にある空を見上げた。


『ユンホ、』

あなたが無事に帰ってきたら、僕はどんな顔をしてあの子を届けたらいいのかな。

ユンホ。

あなたに話すべきだろうか。

シウォン。

あなたにも力を貸してもらうかもしれない。



思わぬところで生まれたこのドキドキ。

子供の言う事だ。

されど、子供のいう事だ。

真実を言葉にできる子供が言った事だ。



『チャンミン、手伝って、』

キュヒョンが呼んだ。

『今行く、』

僕は館の中へ駆けた。



ユンホ。


あなたの顔を見て、自分がどうしたらいいのかを探したいよ。














ええじゃないか\(¬ω¬)┐ええじゃないか
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