ネバーセイネバー(side Si 3) | Fragment

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ホミンを色んな仕事させながら恋愛させてます。
食べてるホミンちゃん書いてるのが趣味です。
未成年者のお客様の閲覧はご遠慮ください。

先にこちらのお話をお読みください。
never say never 3(side Ky)












皮肉なものだ。
引っ越しも慣れたものだった。

【美味しいものが食べたいじゃん?】

その一言で、実行することになった。





一番寒い時期なのだが、春が見えそうな時期だ。
この時期は引っ越しのシーズンでもある。
新社会人や学生が越す中で、大きな大人二人の引っ越しになった。
なにかと割高な気もしたが、実行しないほうが後々自分の負担になる気がしてきた。

待つとか、待たせるだとか、しばらくはしたくない。

好きだと言い合って今に至るわけだが、付き合ってくれと互いに言ったわけではなかった。
好きだと伝えたことが、イコールになるのかは人それぞれの解釈で変わるだろう。
自分の場合はどうか、日々キュヒョンと向き合って考える。

まだ、親友なのか。
もう、恋人なのか。

目の前の相手を見つめて過ごして、考えていた。

キスはしたけど、しているけれど、
同棲する前も、どちらかのベッドで添い寝もしたし雑魚寝もした。
けれど、セックスはしていない。

キュヒョンは、親友と恋人と、どちらと居たいのだろうか。
キス以上のものをしてしまえば、自分自身がもう、親友だけとしては見られなくなるだろう。

自分達の自然体は、如何なるものなのか。

そして過去の恋人にしてきたことを反省するべきなのか、否か。

それもどうかと、思い直していた。

それまでの恋人と、このキュヒョンという男は心も体もまったく別のものなのだ。
これまでの自分を変える必要も、あまりないと思えてきた。

そもそも、わりと自由で自然なままでいられるから互いに親友と認めて過ごしてきたのだろう。
今さら気負ってこの男に対する自分を変える必要もないのかもしれない。

だから、こうなった。
大人になってからのキュヒョンの食生活はなかなかに片寄っていた。
だからなのか、キュヒョンから食事の誘いや、誘うように仕向けるようなやりとりが意外なことに自分が誘うよりも多かった。

だから尋ねてみたのだ。

「夜、暇なの?」
「人並みだよ、残業だってあるし、」

そう尋ねたのも、一緒に食事をしている時だった。

「俺に会いたいって?」
「いや、」

瞬間的な否定に皿をひっくリ返しそうになるくらい笑ったものだった。

「だって、」

「うん、」





「美味しいものが食べたいじゃん?」

そんなふうに言って貰える幸福感を、久しぶりに感じた気がした。
だからこの男と、より近い存在になりたいと思えた。

「一緒に住まないか。」

そのまま勢いで、口にしていた言葉だった。

「いいね、」

と、あっさりと返してくれたその後に、しっかり肩を竦めてはにかんでいたのを見逃してはいなかった。

これも互いの、自然な運びだっただけなのだろう。



だから、改めて考えた。
付き合ってくれと、言うか、否か。

考えているうちに、考えついた。

それこそ考える必要もないのだろうなと、考えが行き着く。
今こうして、引っ越しの当日に新しい荷物を入れるキュヒョンの姿を目にしながら。


「シウォナ、コンパクトだね。」
「まあね、」

短期間に引っ越しをしていると、持っていくべきものと、絶対不必要なものが見えてくる。
これもまた皮肉なものの結果なのだ。
家具家電付きにして、その他は現地調達が合っているらしい。

恋人同士でよくある約束事。
シカトしなけりゃ、なんて軽い約束事を交わしたが、それ以後もとくに約束事を作ったわけでもない。
同棲するにあたって何をどう当番制にするだとか、なんだとか、とくに決めてもいない。

キュヒョンはあまり自分の内なるものを話す方でもない。
それを話せとも思わない。
話しては欲しい。
してやれることがあるなら、なんだってしてやりたいと思うのが、約三十年生きてきた自分の個性やら性分というものなのだろう。

収まるべきところに収まる関係だったとしたら、なんでも話せといわなくても、互いのことを感知しあえたり、話すと思って話すのではなく、自然に言葉を交わしたりするものなのかもしれない。
これまでの恋人との差をあえてキュヒョンとつけるとしたら、そう思うことぐらいだろうか。


「腹減った、ここまでにしようよ、」

一通りなにかの配線を終えたらしい親友もとい恋人らしき男が腹の虫を鳴かせた。

不便ではないところを選んで住むことにした。
それなりに食べるところがある場所。
遅い昼飯を求めて外に出る。

一件一件覗いてあれやこれやと言い合って、結局入ったところは中華だった。

「回らないけど、いっか。」

「回るところは奢ってもらうからまたでいい、」

なにも変わらなかった。
本当にまた、あの頃に戻ったようだった。
気負わない、在るべきものを隣にしているこの感覚。
懐かしくも感じて、目眩がしそうだった。

やはり、自分にはこんなふうに傍で寄り添って戯れてくれる存在が不可欠なのだ。







「貰いっ」

最後のエビチリを奪われた。

「キュヒョナ、小籠包とシュウマイ、どっちがいい?」

キュヒョンは四つあったうちの最後のひとつの小籠包が乗ったレンゲを手にした。

「小籠包、かなぁ」

親友というシュウマイをとるか、

恋人という小籠包をとるか。

なんて、しょうもないことを頭に過らせながら。


「ああやっぱりシュウマイもいいな、」

手にしながらも迷うあたり、やはりこの男は自分と通ずるものがあるのだなと変に感心してしまう。

優柔不断とかではなくて、
なにかを感じる時のタイミングが重なったりだとか。

そんなふうに迷われては、自分の取り分が食べられない。

【親友、かなぁ、】

【ああ、やっぱり恋人もいいな、】

置き換えてみても、ぴったりと当てはまってしまう。


冷める前に考えてみようか。

恋人になることを諦めたら、親友は続けられるのか。
おそらく、続くだろう。
キュヒョンは好きだと言ってくれた。
恋人にならない好きなのなら、親友として添えばいいのだろう。

親友止まりだとしても、

この男という存在を諦めることは決してできないのだから。

恋人を取ったとしても、


恋人を取ったとしたら、


「シウォナ、」


親友ではなくなると、誰が決めたのだろう。


「食べないなら、貰いっ。」


箸を持った自分の手が固まっている。
皿にあるシュウマイは食べられ、
次いでレンゲも口に運ばれると肉の塊たちはあの唇のなかへと消えていったのだった。


親友も、
恋人も、
どっちも取ったというような、
そんな潔さ。


「あのさ、キュヒョナ、」






「なに、もう返せないよ、」

空になった蒸籠を見ていたら、自然と笑ってしまうものがある。


「俺たち付き合おうか。」

「え?」


そしてウェイターを呼び寄せる。

「小籠包とシュウマイ、ひとつずつ。」

考えても、仕方ないことだ。

このオーダーも、告白も、なにかを無理したわけでもない。
この口が勝手に言ったことだ。
今一番言うべきだから、自然に声になっただけだ。

【どちらも食いたい】と。


「親友兼、恋人。」

入ってしまえば、同じ蒸籠でも意外になんの不自由もないかもしれない。

「どうかな、」

「いいね、」

ほらね。
こんなものだ。

この男相手に気負っても、無駄なのだ。

「とりあえず、帰ったらキスしようか。」

「いいね、歯磨いてからね、」

「ああ、歯ブラシあったかなぁ、」

「買って帰ろ、俺洗顔フォーム欲しい。」

「ああ、」

食べ終わってからしばらく目を合わせてくれなかったのは、どんな意味があったのか。

これは考えなくても、察しはついたけれど。





親友から恋人になったのではない。

親友であり恋人でもあるのだ。

どちらも、今となっては選べない。

なにより、この男の存在を諦められないのだ。

決して。



言ってから気づいたこともある。

つきあいたいと思うのなら、

自分から申し出たい。

それが自分なりの、誠意なのかもしれない。






結果オーライということか。

諦めなければ、ね。
























終わり。

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