ユアマイン2(U) | Fragment

Fragment

ホミンを色んな仕事させながら恋愛させてます。
食べてるホミンちゃん書いてるのが趣味です。
未成年者のお客様の閲覧はご遠慮ください。

月曜日の話。

ああ、もう、ネ。
わかっていたけど、わかってるからこそ、耳につくというか目につくというか。
ひっきりなしに誰かに捕まる気がする。
いつものことなんだけどサ。

貴重な昼休みすら、俺とチャンミンの時間は引き裂かれるというネ。

昼休みは食って休みたまえ、生徒諸君!

チャンミンは機嫌が良かった。
すれ違っても、束の間の昼休みも、例えお邪魔虫に割り込まれても、別なところで見かけた時も、常に上機嫌な唇をしていた。

なにから来る余裕だったのか。

俺の心配を他所に、唇も足取りも勝ち気な明るさを保っていた。

腹が立ったのは俺の方だったのかもしれない。
言いたいことがあるなら言え、と、いつもなら言うかもしれない。
けれどこの件については何をどう言われても、どうしようもないことなんだ。
俺とチャンミンの関係をどうこう言いたい顔をしている。
それについて何かを言われても、俺とチャンミンの関係がどうなることもない。

ありえない。

他人からの言葉で今更どうこうなるものでもない。

ありえない。

ありえないって解ってるくせに、普段なら俺の方が気にならないことを、チャンミンより俺の方が気になっている。
と、思う。


昨日、そんなわけで復縁したけどさ、夜は盛り上がったし、朝もめちゃくちゃトロトロしてたチャンミンだった。
昼間でも目元がまだ赤くて、色気も駄々漏れている。
だからだろうか、機嫌がいいのは。
なんにせよ、外野の声を我慢しているにしても、一人でいて笑えている姿を目撃できたのだ。
一安心といえば、そうなのか。



彼氏と彼氏になれたから、
こんどは、
その次の段階の準備ってこと。

チャンミンを本当に本当に、俺にくださいって、チャンミンに伝える準備。

今は彼氏と彼氏。

付き合っていることを楽しみたい気持ちもある。

いいかな、それくらい。

愛してるのを言えるその瞬間に向かってなら、
楽しんでもいいよネ。
仕事だけど旅行だろ、引っ越しだろ、目の前にこんなに共同作業が待っている。
忙しくて死にそうになるなら、チャンミンの膝の上に頭を投げてぶっ倒れたい。
待たせるなら連れていけばいい。
待たせて泣かせるなら、連れていって泣かせなければいい。

ダメかな。

チャンミン、怒る?

でもさ、

今日みたいに二人きりの時間がないのなら、
常に二人でいるくらいのことはしたい。

互いの視界に互いの姿を収めていたい。

ダメかな。

チャンミン、俺、ウザい?

考えながら、今日も視察旅行に必要な書類に判を押す。
ハンコ、ハンコ、ハンコ。
なんだってハンコ作業が多いんだ、まったく。
引っ越しもネ、ライフラインの手続きだとか保険だとかなんだとかがまだまだ待っている。
夏休みになると多分俺もチャンミンも部活と出張で居なくなる。
あのネ、センセーって、夏休みの方が忙しい人がけっこういるんだよネ。
多分、俺がそのタイプ。
チャンミンは一年目だからいろいろと研修が入るんじゃないだろうか。
部活も持ってるし。
だから、引っ越しは夏前に済ませようってことになっている。
部屋が入れる期間になったらどんどんマイカー往復させて荷物をぶちこむことになっている。
お互いに借りている部屋も引き払わなくてはいけない。
被ってる家電の始末もある。
もう必要がないベッドとかネ。
でっかいのが、もう、あるから。
チャンミンが気に入ったらしい、でっかいベッド。
滅菌するって呟いていた、あのベッド。
俺は風呂が広くなったことが嬉しい。
二人で入ればそりゃ狭いけど。
彼氏と彼氏でも風呂は一緒に入らない人たちの方が多いんだろうけど。
なんだかんだ一緒に入る回数が多い俺たちは、悪い気はしないで一緒に入ってるってことなんだ。
嫌がらないことは気に入っているんだと、勝手に解釈している。
ああ、早く帰りたい。


ハンコを押す手が止まってた。

悪い気分じゃなかったから。
楽しかったから。
考えることに夢中になってた。

チャンミンの顔が、見たくなった。

スマホの画面をタップして、待受画面を明るくさせる。
二人で撮った、写真。
学校では見せない、チャンミンの笑顔を見るんだ。

俺の心の浄化方法。





ノックの音。

『ユノ先生、』

ボスだった。
立ち上がって、会釈をする。
同時に、スマホを引き出しにしまう。

『実習生の顔つきが急に変わったのは、なんなんだ?』
苦笑しながら書類をデスクに置いて疲れた様子で椅子に座った。

実習生のあの僕ちゃんは、チャンミンにフラれて(俺が宣言したのだが)人が変わったように働くようになった。
なんていうか、初めて顔を合わせた時みたいなシャキシャキした感じになったっていうかサ。
こいつも吹っ切れたんだろうか。
まあ、大事な就職がかかってるんだから、シャキッとしなさいよっていうのはあるけどサ。

『ユノ先生の教育の成果がでたかな。』
『あははっ、だといいんですけど、』

あと数日。
今週で実習も終わる。

『聞いたよ、』
『なにがですか、』

なにがって、聞かなくてもすぐにわかったけど。

『なんていうか、うまくかけてやれる言葉がなくてかたじけない。』

独身会以外の教師陣にも、もう知れ渡っている。
金曜日のうちに一斉に広まったかもしれない。

『いえ、』

俺もそれ以上の言葉が出てこなかった。
目上の者の前でこういうことはしたくないが、俺はしまったスマホを引き出しから出した。
触って、また画面のなかのチャンミンを見るんだ。

『それを君たちが選んだなら、それでいいんだろう。』

画面のなかのチャンミンも、そんなふうに思っているみたいな、笑顔だった。

自分達が選んだから、幸せなんだと。

『どちらかが勝手に投げ出してはいけないことだ、同性でも、そうでなくても、』

そう、なんです。
俺が勝手にダメだって思って終わりにしちゃいけない関係になったんだ。
付き合ってるんだ。
もう、元カレ同士じゃない。
お互いが大切な関係だと、きちんと形にして認めあったんだ。

『はい、』

チャンミンがここにいたら、きっと俺より早く返事をしていただろう。

チャンミンに、会いたいな。

『なかなか味方らしい味方でいてやれないかもしれない。』

立場上、かばうことご難しいと思います。
わかります、大丈夫ですヨ、ボス。

『けどね、二人にはここでもっと、生徒たちと積みかせねていってほしいんだ。』

拒絶されなかっただけで、どんなに救われるか。
例え仕事のことで励まされたとしても、だからこそどんなに報われるか。

話さなくとも、声を出さなくとも、変わらない視線でいてくれるだけで生きた心地を得られるんだ。

俺はね、そういう人たち以外からぶつけられる痛みを、できるだけチャンミンには与えたくない。
俺があんなふうにチャンミンの存在と関係をぶちまかしてしまったクセにって、笑われるかもしれないけど。
俺が撒いてしまった痛みは、全部全部、俺に向かってくればいい。

俺も、怖いけどサ。

無敵モードじゃない時のケアを、俺が。

俺が。

画面のなかの笑っている唇にタップする。
今にも動き出しそうな顔をしている。

チャンミンに、会いたい。

『ありがとう、ございます。』

今も無敵モードだろうか。
本当はトイレでこっそり腹を立てていないだろうか。

『あいつのこと、昔から知ってるんですけど、』
『うん、』

『自分より大事なやつだったって、ようやく気づいたんですよ、』
『…そう、』

『ええ、だから、はい、そういうことなんです、』
『わかった、』

ボスがどうわかってくれたのかは、わからない。
けれど、大人だから、彼も家庭をもった人だから、似たような気持ちを感じてくれたかもしれない。

それだけで、十分だった。







ノックの音。

『失礼します、』

『いらっしゃい、』

チャンミンだった。
ボスに挨拶をして、俺の後ろに立つ。

『今ね、二人の話をしてたんだ、』
『僕たちの?』

大丈夫、大丈夫、この人は、チャンミンを傷つけない。
だから安心して聞いていられる。


『俺も昔ね、君たち二人と同じ歳ぐらいの時に同じようなことを思ったもんだって、懐かしくなってね、』


それは、初耳です、ボス。


『同じ?』
話を飲み込めないチャンミンが俺の顔をみて、そしてボスの顔をみた。

『そう、うん、うちの嫁さんを貰った時のことを思い出したんだ、』

チャンミンはまだ首を傾げている。
俺は十分すぎるくらい、わかってしまった。




『二人で選んだことを、一人で終わらせてはいけないということだよ。』









喉が乾いたというボスに、チャンミンは慌てて冷蔵庫から水分を用意していた。

気が利かなくて、ゴメンナサイ。

手渡す際の声。

『ありがとう、』

『こちらこそ、ありがとうございます、』

そして振り向いたチャンミンの顔は、笑顔で強く光っていた。





大丈夫、もう、大丈夫って、そんな顔。







だからいつか、ボスが奥さんに伝えられたように、

俺も自分より大事な存在のこの男に、

きちんとすべてを、伝えることができますように。















曜日のユノ編でした(*´-`)
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