デリバー!83(U) | Fragment

Fragment

ホミンを色んな仕事させながら恋愛させてます。
食べてるホミンちゃん書いてるのが趣味です。
未成年者のお客様の閲覧はご遠慮ください。

どうやら王子の部屋に虫君を置いて来たらしい。
俺達の朝は早いからな。
なんで来たのか、居座ってるのか、聞くこともなく一日を始めた。

今度こそコンビニに寄ってエネルギーになるものを腹に押し込んできた。
朝から考えることはたくさんある。
改めて二人で全員のポジションと交代のタイミングを把握する。

大丈夫、ボールペンも印鑑も握れる。

何より、不意打ちのキスが一番速効性あった気がする。
あれはマジで、効いた。
心臓に届いた。
血が通う感じがした。

朝のミーティングの時点でバイトカップルの気合いはなかなかのもので、だいぶ頼もしかった。
とりあえず一番荷分けが多い朝はそっちに回ってもらう。
事務所の電話の子機をポケットに突っ込んだ王子は支店が開店するまでせわしく走り回っていた。

『子機の電波大丈夫なんですかー?』
『え、大丈夫じゃないの?』
『しょちょー別な電波はめっちゃ出てますけどね!』
『なにそれ!それはユノでしょっ』
『たしかにーーーっ』

しょうもないやりとりが朝から支店を賑やかにさせる。
裏方に回るとポッキーと二人で大型の荷物をそれぞれのトラックへ運ぶ。

『悪いな、朝入ってもらえんの、マジで助かったよ。』
厳重に梱包された新品の冷蔵庫を積み込む。
『もう部活もないですから。今バイトが一番楽しいし。』
タイプは違うけど、似てるなって思った。
王子とポッキーの二人が。
『早く夏休みにならないかなって、』
掛け声を揃わせて同じタイミングで運んでいく。
足や腰を痛めないように、骨も筋肉を使って。


『ユンホさん、なんかありました?』
この時間からすでに額に浮かぶ汗を拭うポッキーに静かに聞かれる。
高校生に気づかれるほど俺は表に出していたのか。
まずいな。

『いや、まあ、薄情するとちょっと夏バテはしてる。』
内緒な、と常温のサイダーの缶を賄賂にして渡す。

『所長も夏バテっすか?』
『え?』
『所長も悩んでません?』
『ああ、んー、』

高校生に話すわけもいかず、押し黙ってしまった、俺。

『まあ、なんとかなるから。』

情けない返事だ。
それからすぐにドライバーのメンバーで話をするとそれぞれのエリアに走り出した。

忘れていられた。
午前も昼飯も、午後の配達も。
煩わしいことを忘れられて、支店のやつらと話してたりお客様と話していると、楽しかった。


実は、そんな日が数日続いた。
虫が、王子の部屋に住み着いている。

俺たち二人は、別居状態だ。

一週間は、大目に見てやろうと思った。
それから次第に別居が慣れてきたことにも気づく。
飯も食えるようになった。
こんなものか。
体力的にしんどいことが幸いして、怒る気力もない。

居座っていることにどんな訳があるのかは知らないが、知りたくもないが、見事出ていった暁には、王子をどうしてくれようか。

意外にもなんにもできなかったりしてな。

嬉しすぎて。





ドライバーの人数がフルだった日があったんだ。

三時間ばかり、俺は時間休を貰った。
ユニフォームから私服に着替える。

『ユノ、ごめん、グランパによろしく言っておいて?』
『おー、ヨーコに告られたら、その時は……チャンミナ、すまない、』
『勝手にして、』

ヨーコの元気がないらしい。
王子にジジイから連絡が入ったのがついさっき。
俺も王子も次の休みが明後日だ。
それまでに病気だったりしたら手遅れになりかねない。
ただの散歩不足なのか、具合が悪いのか様子を見に行くことにしたのだ。

いい気分転換かもしれない。
本当はその気分転換を王子がすべきだったのだが。
この数日、一人でいるときの王子の表情が一層暗い。



だからこそ散歩させてやりたかった。
だがこれもタイミング悪く、本社との外せないやりとりがあって今日は抜けられないらしい。



ジジイの家に着くと庭に入る。
ヨーコのいる檻を覗くと元気に立ち上がった。
目もちゃんと光っている。
散歩不足なようだ。
『ちわーーっす』
挨拶をすると足腰痛むジジイの顔を見に上がり込む。
『すみません、あいつが来られなくて、俺になっちゃって。散歩、行けそうなんで思いっきりしてきますよ!』
よろしく頼まれると高そうなリードを預かった。


『解決したのか?』
『え?』
出ようと思ったところでジジイに何かを聞かれた。

『片割れもそうだが、お前もずいぶん顔に出ているが。』
高校生と年寄りに見抜かれてる俺って。
片割れって、王子のことか。
ははあ、王子め、ジジイと何か話したな。

『いやー、夏バテっすね!』
とか言ってはぐらかせる相手ではないのだ、このジジイは。


『解決していないのであれば、』

ムッツリと、ジジイが不機嫌な顔になる。

『お前が押し黙る必要があるのかもう一度考えてみるのだな。』

そして追い出される。


ヨーコと河川敷を走った。


ヨーコと笑って、転がって、走った。

顔を舐められて、腹を前足で踏まれ、汗と泥まみれになった。



『なあヨーコ、俺、押し黙ってたか?』

『黙ってたよな、』

『だからあいつも黙ってんだよな、』

『言えば、傷つけるって、思ってた。』

『言ってやれば、助けてやれる言葉もあったかもしれないな。』

『ヨーコ、俺さ』

『あいつの半分なんだよ、』

『片割れなんだ、』

『あいつの半分なんだよ、』

『あいつだってわかってるはずなんだ、』

『言っていいかな、ヨーコ』

『俺、あいつの体温忘れそうだよ』

『虫ヤロウが触んなくても、キスしなくても、あいつの時間取られてるんじゃ意味ねえよ、』

『ヨーコ、俺さ、』

『チャンミナがほんとにそばにいないと、ダメなんだ、』

『あいつのトモダチを傷つけても、俺、こいつのダンナだって、誇示したい』

『ダメかな、ヨーコ、』

『言っても言わなくても、俺ってあいつを追い詰めてんのかな、』

『わかんなくなってきた、』

『あいつは何にたいして、悩んでるんだろ』

『俺も何に悩んでんだろう?』

『なあヨーコ、ただ寂しいだけな簡単な問題なのに一週間も勿体なくねえ?』



ピュンと、ヨーコが鼻で鳴く。

明日は、七夕。


日が傾きかけてきた明るい夕方。
泥と汗まみれでドーベルマンと絡む俺。

『ジジイごめん、俺、マジで女々しい。』

『まだ、悩んでる。』




ーーあんまりチャンミンを縛りつけないでくださいねーー

ーーあいつそのうち窒息しちゃうかもしれないんで、ーー


羽音を思い出す。


だからお前は、暗い顔してんのか?
俺のせい?








思考が悪循環。




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