母の腰椎椎体骨折での入院に面会に通っていた毎日。
母は医療療養病棟階の4人部屋を使わせて頂いていました。
外科部長の予告どおり、入院でかなり認知はひどくなったと感じました。
母はアルツハイマー型認知症でしたので、
レビー小体型のように幻覚や幻聴はなく、
また、前頭側頭型認知症のように、怒りの感情を抑えづらくなるタイプと違い、
過去の記憶が引き出せず、何もかもがぼや~となるようでした。
人の名前だけでなく、過去にあった出来事のほとんどを思い出せない。
日常生活では、今まで行っていた動作、
「咳をしてみて!」と促しても、咳をするのはどうすればよいのかわからないとか、
トイレの紙を使用後、便器に捨てるという行為が思い出せず、窓から捨ててしまうとか。。。
過去のデータが脳の記憶の『海馬』の委縮によって、預ける事も引き出す事も出来なくなる。
この時期の母は、まだトイレの紙をみてどう使えばよいかがわかる状態でしたが、
院内では、とにかく看護師さん達に
『ここはどこ?なんで私はここにいるの?』
を繰り返し質問していたようで、
その都度、看護師さんがやさしく教えてくださっていたようです。
ある日、病室に面会に行ったら、
看護師さんが書いてくれたと思えるメモがありました。
母が入院している2か月間、母のベッドの向い側には、次々患者さんが入れ替わりました。
入院されてきた方々は、母と同じく、なんらかのケガで入院されたと思いますが、
ケガや骨折だと、ほとんどが完治して退院できる。
なので、母の病棟は認知症の方が多いものの、フロアは明るい雰囲気がありました。
そんななか、面会に行くと、
向い側のベッドに昨日までいた方が退院されたのか、お姿はなく、
そこには別のご高齢女性が、苦しそうに背中を丸めたまま、ベッドに横たわっていました。
病名はわかりませんが、看護師さんが患者さんに
「今日の水は●●ミリ飲んだから、あとこのくらいしか飲めないので、我慢してね。ごめんね。」と伝えていました。
ケガや骨折の他に、思い持病を抱えていらっしゃるのかなぁと思っていました。
その患者さんのベッドの囲いのカーテンが開いているので、そこからお顔が見えるのですが、苦渋の表情でした。
そのうちに、その女性は、出にくい声を絞るように、
「だれかぁ~!
だれかぁ~!
だれかぁ~~~!」
を、何度も一呼吸置きながらの叫びが始まりました。
看護師さんがやってきて、
「苦しい?苦しいよね。もうちょっとだよ。がんばろうね。」と言って励ましては戻られるの繰り返し。
そのうち、また「だれかぁ~!だれかぁ~!」が始まるのです。
私には、その言葉の先が、
「誰か、助けて!
誰か、助けて!」
に聞こえてなりませんでした。
そのうち、叫び続けても、看護師はもう駆けつける事がなくなりました。
部屋と廊下に響き渡る叫び。
ベッドで動けないまま、必死で叫ばれているお姿と声。
恐怖に支配されているようで…。
耳に入っている間、それが辛すぎて、苦しすぎる。
多分ですが、
この容態でご家族も面会に駆けつけていらっしゃらないのだとすると、
ご家族のいらっしゃらない、お一人暮らしのご婦人なのかなと思えて…。
翌日の昼過ぎ、いつものように母に面会に行ったとき、
向かいのベッドがあったスペースは全て撤去され、何もないからっぽ空間になっていました。
綺麗に消毒・清掃されているのが一目で判る。。。
こんな風に撤去されているのは、初めて見ました。
その時、
『あのご婦人は、お亡くなりになったのだな…。』と思いました。
わずか1日の入院…。
私達夫婦も子なしですから、どちらかが先だった後、
いつか病院で、こんな最期を迎えるかもしれません。
悲しすぎて、苦しそうで、つらすぎる。
それでも、考えれば誰だって死ぬときは一人さ~!
…と思いながらも、家族が枕元に誰かがいてくれれば、安らかに息を引き取れるのかな…。
そんな事ないよな。老衰でもない限り、みんな苦しんで死んでく。
そんな時、傍に誰がいたって、苦しさに支配されて、手を握ってもらえて嬉しいどころじゃないかも。
そんな事を色々考えながら、ベッドに横になっている母を見ると、
いつのまにか大口を開けて、寝ておりました。ZZZZ・・・。
この人、幸せだ。。。
思わず笑みがこぼれてしまいました。
お亡くなりになったあの時のご婦人に、心からのご冥福をお祈り致します。
その日病院を出て駐車場にて見上げた空