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タオルを李璃子に手渡したながら寺井は

「大丈夫ですか?濡れてませんか?」と残りのタオルを床にばら撒くように置きながら

床を凝視する。

「私は何も。それより」と言いかけた李璃子は、寺井と同じく倉庫へ向かった青年に向かって「タオル大丈夫そうですよー」と大きめな声で発したが、届かなかったようでそのまま姿が見えなくなった。

 

寺井はひたすら床の水溜まりに集中して拭き取る作業を繰り返している。

心配そうにその姿を見ている李璃子に

大丈夫よ、リリちゃん。そんなに気にしないで。またね」と幸恵はウィンクしながら数名のシニア女性の群衆へ吸い込まれるように行ってしまった。

 

水溜まりを拭き終えた寺井は屈んだ姿勢から立ち上がって

「これで大丈夫ですよ」と少し吊り目の目尻を無理やり下げながら笑顔になっている。

寺井との距離感が水溜まりで縮まったように李璃子はふわりと気持ちが柔らかくなったのを感じ、自然に李璃子も微笑んでいた。

 

「寺井さーん、タオル一枚しか見つかりませんでしたよ」

息を切らしながら戻ってきた青年の声が

李璃子と寺井の空気をかき消し覆いかぶさるように聞こえてきた。

 

「ああ、もう大丈夫だから。お疲れ」さらりと表情のない声の寺井の声が

李璃子の胸に突き刺さる。

 

(あれ、この人こんな声出すんだ)意外に思う李璃子に

「遅くなってすみませんでした、失礼します」と言って立ち去る青年には

左側の目尻に3つのほくろが縦に並んでいるのを李璃子は見逃さなかった。

 

オリオン座の三つ星みたい。

 

李璃子は目の前に夜空にたなびくオリオン座大星雲が浮かんで見えた気がした。

 

つづく