旭化成建材データ偽装事件は冷静に考えよう | 岐路に立つ日本を考える

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 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。


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 旭化成建材による杭打ちデータ偽装について、冷静ではない議論がどんどん広がっているのではないかと懸念します。

 良いことかどうかは置いておいて、まずは事実をしっかりと整理して見るようにしたいものです。まず、こうしたデータ偽装は旭化成建材だけが極端な悪質企業であったから起こったというわけではどうやらないということを念頭において考えるべきです。つまり日本全国にはこうした偽装物件が溢れているわけです。しかしながら、東日本大震災において深刻な被害を受けた東北地方の太平洋岸において、津波襲来前に深刻な建物被害はほとんどなかったのではないでしょうか。少なくとも大型のマンションなどについて建物が倒壊するようなケースは見られませんでした。昭和56年の建築基準法改正以降に建築確認を受けて建てられた物件については、倒壊といった深刻な被害が生まれる可能性は、少なくとも東日本大震災クラスまでの地震であれば、ないと言ってよいでしょう。そしてその中にはくい打ちに関する偽装物件も恐らくは多数含まれているはずです。つまり杭打ち偽装物件についても、大地震の際に倒壊する可能性はほぼないということが東日本大震災によって証明されているともいえるわけです。

 考えてみれば当たり前で、今回支持層に達していない杭が見つかったとはいえ、杭は14メートル以上は打ち込まれているわけで、この杭が引き抜かれるような規模の地震は想定されないからです。パークシティLaLa横浜は地上12階建ての物件ですから、恐らく建物の高さは40メートル程度でしょう。高さ40メートルの建物に14メートルを超える杭が数十本打ち込まれていることを冷静に考えるべきです。傾きが発見された西棟だけでも52本の杭が打ち込まれているわけです。倒壊するような建物かどうかについては、杭と建物本体とのジョイントがしっかりとなされているか、建物本体にきちんとした鉄骨が入っているか、コンクリートを水でじゃぶじゃぶにして強度を弱めて工事されていないかどうかといった建物本体の質が決定的に重要なはずで、きちんとした杭が十分な長さで必要な数は打ち込まれているかぎり、そうした杭が支持層に達しているかどうかは、建物の倒壊には事実上影響していないでしょう。

 問題は、杭が支持層に達していなかったせいで、建物に2センチの沈降が生じている箇所があることです。建築の専門家に訊いてみますと、もし支持層に杭が達していれば沈降は1センチ以内に留まるはずだということでした。つまり建物に2センチの沈降が生じている箇所があるのは明らかに杭が支持層に達していなかったせいだといえるわけです。そしてこの沈降は今後もより拡大する可能性は否定できないようです。

 ただ現状では人間が知覚できるレベルの床面の傾きはありません。もちろん将来的にはどうなるかはわかりませんが、強烈な地震が急に襲ってきた場合に倒壊の恐れがないとすれば、当面の居住には現実的な心配はないというのが実際でしょう。

 住民が抱える問題の中には、欠陥住宅の中にしかもその事実を世の中に広く知られてしまった状態で今後も居住し続けなければならないという不快感に加えて、将来このマンションを売って引っ越ししたい時に困難が生じざるをえないという点でしょう。こうした点に対して住民側に沿った適切なソリューションを提供できればよいのではないかと思います。このマンションの騒動の余波を受けてデータ偽装が発覚した学校などについて建物そのものの安全性が疑われ、建て替えを求める声を無責任に煽るような報道をマスコミが行っているのはいかがなものかと思います。

 複雑な議論を避けるために、今回はこれで終わりにします。この問題は最低あと1回扱ってみようと思います。


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