円安によって倒産件数が急増しているかのような報道が多くのマスコミによって報じられています。例えば朝日新聞は以下のように報じました。
円安の影響による企業の倒産が、11月は42件にのぼり、3カ月連続で過去最多を更新したことが4日、帝国データバンクの調査でわかった。海外から調達する原材料や輸入製品の価格が上がり、中小企業の収益を圧迫しているためだ。
「円安倒産」は1~11月で計301件となり、前年同期の2・7倍に達する。業種別では、運輸業や繊維業、食料品などが目立つ。帝国データバンクは「年明け以降も、日銀の追加緩和の影響で円安が進んでいるため、関連の倒産が増えそうだ」とみる。
リンク先は朝日新聞の記事
この記事を読んで、皆さんはどのようなイメージを持たれたでしょうか。急激な円安に中小企業はみな収益を圧迫され、倒産件数が激増しているようなイメージを持たれる方が多いのではないかと思います。
ところが、この記事のもとネタを提供している帝国データバンクの「倒産集計」の「2014年11月報」を確認しますと、レポートの見出し部分に次のように書かれています。
倒産件数は671件、16ヵ月連続の前年同月比減少、今年最少を記録
負債総額は1100億2300万円、2000年以降で最小
リンク先は帝国データバンクのレポート
さらにレポートを読んでいきますと、「業種別に見ると、7業種中6業種で前年同月を下回り」、「9地域中6地域で前年同月比減少」となっていることがわかります。前年同月を上回った2地域の中で突出して増えている「東北」においては、「(株)DIOジャパンの関連会社10社が件数を押し上げた」との注釈が付けられていました。つまり、東北においては特殊な一時的な要因によって引き起こされたものによって件数が増加したに過ぎないということを説明してくれているわけです。
為替相場が円安に振れるにせよ、円高に振れるにせよ、そのことが有利に働く企業もあれば、不利に働く企業もあります。その中で不利に働く企業のことのみを取り上げて、あたかもそれが全体であるかのように報道するというのはいただけない話ではないでしょうか。円安倒産の増加を論じるならば、卸売業や製造業では前年同月比で60%程度も倒産件数が減っていることも併せて触れておくべきではないかと思います。
もちろん円安倒産について心配するのが間違いというわけではないでしょう。この悪影響を被っている関連業界を具体的に報じてくれているならば、その業界が価格改定に動くのに適切な根拠を提供してくれることになり、歪みを修正するのに重要な働きを示すことにはなると思います。帝国データバンクのレポートは、軽油などの負担が重くのしかかっている運輸業に円安が与える影響は、昨今の原油価格の引き下げがあってもなお大きいことを、実際に指摘しています。
しかしながら朝日新聞の記事にはこうした部分への言及もありませんでした。日本のことに関してはネガティブに報道することがジャーナリストの使命と思っているマスコミが多いことには本当に閉口します。
私たちはこうしたマスコミの報道を頭から信じないで、一次情報にできるかぎり触れるようにしていかないといけないということを、改めて感じた次第です。