川口環境委員長解任に見る、日本の政治の危機 | 岐路に立つ日本を考える

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 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
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 参議院の環境委員長であった川口順子氏が、参議院の本会議で、民主党など野党の賛成多数で解任されました。日本の政治が酷い状況になっている格好の事例ではないかと思いました。

 今回の解任劇では、野党の対応が槍玉に上げられることが多いですが、私も野党の対応はとんでもないと思います。特に中国との関係強化を図り、習近平(当時副主席)と天皇陛下との会見をルールを破って実現した民主党が、何を言っているのかとも思います。民主党は尖閣諸島での中国漁船の衝突事件においても、海上保安庁の巡視船に衝突してきた漁船の船長を、中国側の要請に従って解放することまでやりました。中国側の要請に唯々諾々と原則をねじ曲げて譲歩を繰り返してきた民主党に、川口議員を攻撃する資格があるはずもありません。

 そもそも、川口氏は何のために中国に出掛け、滞在を延長したのでしょうか。この肝心な点についてあまり報道がないのは残念です。川口議員は「アジア平和・和解評議会」のメンバーとして、中国外交部の外郭団体である中華人民外交学会の招聘により、楊潔篪前外相及び王毅現外相との会談のため、中国を訪問しました。「アジア平和・和解評議会」というのは、22名の元元首、元外務大臣等が発起人となって設立した組織で、今回の招聘にもスラキアット元タイ外務大臣、アジズ元パキスタン首相、ケネディハーバード大学法学部教授、川口順子元外相ら7名が応じ、参加されていました。非公式とはいえ、かなり重要性の高い会談であることは、認めることができるものだと思います。そして、川口氏が予定通り24日に帰国した場合に、翌25日の会談では日本人が一人もいない状況の中で、中国側の主張が他のアジア諸国の重鎮らに一方的に示される可能性を川口氏が恐れたというのも、理由のないことではないとも思います。また、参議院規則では、委員長の代理を立てることが認められているわけですから、25日の委員会は代理による議事運営も可能だったはずです。委員長不在のために委員会が開けなくなったというのは、委員長の代理を立てることを野党側が拒否したからで、党利党略に基づくものでしかないと言われても、仕方ないものだと考えます。

 しかしながら、事件の経緯を見ていきますと、川口議員自体が中国によって嵌められた可能性が極めて高い上に、そのことに当の川口議員があまり気付いておられないように見えることにも、私は危機感を覚えます。

 中国側はこうした要人を招聘するにあたり、当然各人のスケジュールを確認してから日程を確定させたはずです。川口氏が参議院の環境委員長として苦しい日程にあることは、事前に十分に承知をしていたはずです。そうであるはずなのに、敢えてこの日程を中国側は設定してきたと考えるべきです。川口氏も当然ながら、訪中にあたって日程が厳しいことについては中国側に事前に話をしていたはずです。にも関わらず、中国側は川口氏が無理な日程で訪中していることを十分知りながら、敢えて川口氏が困ってしまう形で、楊潔篪前外相との会談を最終日にずらしてきたと考えるべきだと思います。お人好しの日本人を手玉に取るのは簡単だったでしょう。

 川口氏は「国会開会中における常任委員長及び特別委員長の海外渡航に関する申し合わせ」により、海外渡航は自粛するとされていることは当然よくご存知だったはずです。つまり今回の訪中自体もいわば例外として許可されたものであったわけです。滞在期限の24日までに楊潔篪前外相との会談を入れられないなら訪中しないと事前通告しておくこともできたでしょうし、そもそも要人の都合を考えずに日程を定める中国側の非礼に対して抗議を行い、日程の変更を要求することもできたはずです。しかしながら、川口氏が書かれた「中国渡航に関する経緯」を見ましても、そのような根回しや要求を事前に行っていた形跡は見られません。

 日本人の間では、相手との上下の立場など意識せずに、相手の都合に極力合わせるのが当然であるとの「常識」が成り立ちますが、外交においてこうした日本人的な常識を前提にして考えている段階ですでに間違いだと、私は思います。力の弱い者が力の強いものの決めたルールに従うのが当然だと考える人間ばかりを相手にしている自覚が、外務大臣経験者である川口氏にもなかったというのは、衝撃的な話でした。

 中国側は恐らく日本国内の野党側に対して、この川口議員の一件を自民党への打撃として利用できることを、何らかの形でメッセージとして送っていたのではないかと思います。中国は沖縄の領有権まで公然と主張し始め、今や与野党を問わずに日本の共通の敵として認識しなければならなくなったのは明らかなのに、その中国のこんな稚拙な分断工作にまんまと日本の政界全体が嵌ってしまうという情けない姿をさらけ出してしまいました。

 今回のこの解任劇については、与党も野党も、それぞれの立場に立った「正当性」を叫ぶだけで終わりにしないでもらわなければなりません。両方ともに中国に手玉に取られているということについて明確に自覚して、共通の敵にどう対峙するかという視点で、今回の事件をともに猛省するところに至らないと、日本のこの弱点を中国は突いてくるということが今後も続くでしょう。そしてそれが国益の棄損になによりもつながるのは言うまでもないと、私は考えます。

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