ペイオフ解禁にも見える、日本の自虐主義 | 岐路に立つ日本を考える

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 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。


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 今回はペイオフの問題を取り上げてみようと思います。

 ペイオフとは、金融機関が破綻した際に、預金者の預金の保護を1000万円までに限るとするものです。1000万円を超える預金については、全額返ってくるわけではなく、返済額は破綻した金融機関の状況に応じて決まるというものです。2002年から定期性預金で実施され、2005年には普通預金のような要求払預金も対象となりました。要するに、2002年段階では、仮に金融機関が破綻しても普通預金は全額保護されることになっていたのですが、2005年からは普通預金であっても、預金額1000万円までしか保護しないということになったわけです。実際、2010年に日本振興銀行が破綻した際にはペイオフが発動され、預金者の預金が完全には保護されないということが起こりました。

 なぜこんなペイオフなんてものを考えたかというと、不当に資金を集めようとする金融機関をなくすためだとされています。他の金融機関よりも高金利にすれば、資金を集めやすくなるわけですが、その分利ざやは小さくなり、経営は不安定化しますね。預金者が金利の高さにつられて危ない金融機関に資金を動かすということがないようにするためには、預金保護の限度額を設けておくのは合理的ではないか、というわけです。

 では、ペイオフが実施されてどんなことが起こったでしょうか。様々な動きがあったのですが、その一つには、簡単にはおろせない定期性の預金が落ち込み、いつでもおろせる要求払い預金(普通預金など)が増加するということがありました。以下のグラフを見て下さい。




 定期性の預金と要求払いの預金の残高が完全に入れ替わっている様が見て取れると思います。
(正確には、ペイオフ導入当初は、要求払い預金をペイオフの対象とせず、全額保護扱いのままとしたので、要求払い預金へのシフトが生まれたと考えた方がよいかもしれません。しかしその後、要求払い預金もペイオフの対象に変わっても、要求払預金優位は変わっていません。)

 こうした変化は、銀行の経営に大きな影響を与えていきます。簡単には引き出せない定期性の預金が減少し、いつでも引き出せる預金が増えていけば、それだけ銀行の経営が不安定化することを意味します。根も葉もない噂が広がっただけでも、預金引き出しが相次いで経営を行き詰まらせる可能性が出てきます。どこかの銀行が潰れた時に、似たような銀行も潰れるんじゃないかと考えて、急激な預金の移動が発生する可能性もあります。そもそも、いつでも引き出せる預金ばかりになれば、長期にわたる安定した貸出がしにくくなります。つまり、金融制度の安定化を大きく損なわせることになったわけです。

 基礎的な倫理観があまり発達していない段階では、こうしたペイオフのような処置をとることで倫理性の確保を図らざるをえないのは、ある種やむをえないところでしょう。ところが、基礎的な倫理観が発達している社会においては、こうしたルール自体が不必要であるどころか、却って有害だったりするということがあります。

 おかしなことをやっていないかどうかを役所が検査し、問題が大きくなる前に改善を図らせる旧来のやり方は、口を出される銀行の経営陣からすれば、役人が口うるさいと文句を言いたくなるところもあったでしょう。しかし、モラルハザードをなくして安定した金融システムを実現するという見地では、非常に優れたシステムだったともいえます。

 なぜ、こうした旧来の優れたシステムを次々と毀損していくような処置を、日本では採用するようになっているのでしょうか。単に市場原理に対する盲目的な信頼感によるものではないように、私は感じます。むしろその根底には、今までの甘い日本的なルールではダメなんだという自虐的な決めつけがあるように思います。遅れた日本のシステムを、最先端を走っているアメリカのシステムでリプレイスする必要があると、当然のように考えているのではないかと思うのです。日本にはびこっている自虐主義は、歴史だけに限定された話ではないように思えます。

 そして、そうした決めつけから、アメリカから提起されてくる新たなルールは、今後の時代を決めていくものであり、乗り遅れないでついていくべきだと考える向きがあるのではないか、そんなことを感じています。TPP推進派の人たちの考えにも、こういう考え方が伺えます。前回のブログで扱った甘利TPP担当大臣、前々回のブログで扱った菅官房長官にも、同様の思考が見られるのは、皆様もご確認いただけたところだと思います。

 私たちはこのような自虐主義から脱却すべきだと思われた方は、ブログランキングへの投票をお願いいたします。


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