不誠実なTPPへの争点ずらしを許すな! | 岐路に立つ日本を考える

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 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。


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 野田総理は、次の衆議院議員選挙で民主党のマニフェストにTPP参加を盛り込む考えであることを明らかにしました。これを選挙の争点にするとは明言しませんでしたが、自民党との対立軸にしたい意向をお持ちであるようです。

 ところで、これにはいくつか疑問がつきます。まず第一に、今回の衆議院議員選挙の位置づけを勝手に改めている点です。

 前回の衆議院議員選挙の際に、野田総理(当時民主党幹事長代理)は、有名な「シロアリ演説」を行っています。この「シロアリ演説」の文字興しをしたものと、動画をともに並べてみました。

 「私どもは、マニフェストみなさまにお配りをしております。魂を込めて今回はマニフェスト作りました。私たちの、このマニフェストの一丁目の一番地は、税金の無駄遣いは許さないということであります。徹底して天下りをなくす、そして渡りは認めない。こうした税金の無駄遣いを徹底することによって、お金を生み出していき、16兆8千億円、民主党のマニフェストを実現するには新たな予算が必要になります。私たちは、財源は見つけることができるんです。一般会計は80兆円ほど、特別会計合わせると207兆円。この特別会計には無駄がいっぱいあります。私はこの特別会計改革の責任者をやってまいりました。一般会計は黒い皮の財布です。1万円やカードが入っている。そのほかに21の特別な財布が、お尻のポケットや靴裏にいっぱい入っているんです。でも、21の特別会計、21の離れでは、私たちが調べた限りでは、すき焼き食べ放題、焼肉食べ放題、ビール飲み放題、焼酎飲み放題無駄遣いはいっぱいやってます。ここから16兆8千億円財源を作ることは十分可能であります。無駄な事業をやめて、本当に必要なところにお金を回していく。これが政権交代です。政策の優先順位を決めて、本当に必要なところにお金を流していく。予算をつけていく。これが民主党の考え方であります。財源はいっぱいあります。天下り法人に12兆円もお金を使ってる国です。シロアリを退治して働きアリの政治をたまには実現しようではありませんか。」



 「マニフェスト、イギリスで始まりました。ルールがあるんです。書いてあることは命懸けで実行する。書いてないことはやらないんです。それがルールです。書いてないことを平気でやる。これっておかしいと思いませんか。書いてあったことは四年間何にもやらないで、書いてないことは平気でやる。それはマニフェストを語る資格がないと、いうふうにぜひみなさん思っていただきたいと思います。その一丁目一番地、税金の無駄遣いは許さないということです。天下りを許さない、渡りは許さない。それを、徹底していきたいと思います。消費税1%分は、2兆5千億円です。12兆6千億円ということは、消費税5%ということです。消費税5%分のみなさんの税金に、天下り法人がぶら下がってる。シロアリがたかってるんです。それなのに、シロアリ退治しないで、今度は消費税引き上げるんですか?消費税の税収が20兆円になるなら、またシロアリがたかるかもしれません。鳩山さんが4年間消費税を引き上げないといったのは、そこがあるんです。シロアリを退治して、天下り法人をなくして、天下りをなくす。そこから始めなければ、消費税を引き上げる話はおかしいんです。徹底して税金の無駄遣いをなくしていく。それが民主党の考え方です。」



 この2つの演説(辻説法)を通じて、野田総理は、自分が特別会計の責任者をやっていて、16兆8千億円財源を作ることは十分可能であり、消費税を引き上げないことを明言しました。つまり、野田総理自身が、特別会計について詳細な分析を行って、そのカラクリについても十分解明できていて、だからこそそこにメスを入れることで必要な財源は十分に生み出せるのだと、国民に訴えていたわけです。

 ところが、実際にはそんなことは全くなく、必要な財源が生み出せなかったことは、皆さんもよくご存知の通りです。そのために、マニフェストに記載していたはずの政策が次々と崩れていっただけでなく、税と社会保障の一体改革法案において、特別会計改革では生み出せなかった財源の確保のために、選挙の時には否定していた消費税増税を打ち出すことになりました。

 11月10日に行われた「‪マニフェスト達成状況を‬報告する会」において、野田総理は「できなかったことを反省しながら、より現実感のある、より精度の高い、お約束の守れる、そういう内容のものというものを、しっかりこれからまた作り上げていきたい」と述べましたが、そのマニフェストの根っこからデタラメだったわけですから、「できたこともあれば、できなかったこともある」というレベルの話では当然ないはずです。

 民主党がこうした公約違反をやったことだけでも大問題ですが、その政権公約集の根幹をなす特別会計問題の責任者であった野田総理自身が、この公約違反に手を染めたわけですから、その時点で解散・総選挙でこの問題について国民の信を問うというのが、最低限のマナーだったはずです。いや、もっと手厳しいことをいえば、この法案を通す前に解散・総選挙を当然行うべきだったはずです。

 新たな争点をTPPにしてこの問題から逃げ出そうという発想は、政治姿勢として、道理として、成り立つものではないはずです。

 第二に、TPP参加に向けて国民に対して行った約束を全く果たしていない点です。

 ちょうど一年前の2011年11月11日に、野田首相は首相官邸で記者会見を開き、「関係各国との協議を開始し、各国が我が国に求めるものについて更なる情報収集に努め、十分な国民的議論を経た上で、あくまで国益の視点に立って、TPPについての結論を得ていくことにしたい」と述べました。ところで、この1年間に、関係国との協議によって集めた情報をもとにして、十分な国民的な議論を喚起することを、野田総理は行っていたでしょうか。全くやっていないわけです。この段階で衆議院議員選挙の争点にするということ自体がそもそもおかしいのですが、それどころかTPP参加を解散前に決めてから国民に信を問うという方針まで出てきているのは、あまりにも民主主義を愚弄したものではないでしょうか。

 そもそもTPP参加か否かについて「情報収集に努め、十分な国民的議論を経た上で」決めるというのは、TPPの性格からして、もともとあり得ない話なのだということに、目を向けておくべきです。

 2011年12月22日に、日本共産党の機関紙「赤旗」は、以下の記事を載せました。

 現在、米国など9カ国が行っている環太平洋連携協定(TPP)交渉で、交渉内容を公表しない合意があり、交渉文書は協定発効後4年間秘匿されることが、ニュージーランドのTPP首席交渉官の発表で分かりました。
 ニュージーランド外務貿易省のマーク・シンクレアTPP首席交渉官は11月末、情報公開を求める労働組合や非政府組織(NGO)の声に押され、同省の公式サイトに情報を公開できない事情を説明する文書を発表しました。同文書は、交渉開始に当たって各国の提案や交渉文書を極秘扱いとする合意があることを明らかにし、文書の取り扱いを説明した書簡のひな型を添付しました。
 それによると、交渉文書や各国の提案、関連資料を入手できるのは、政府当局者のほかは、政府の国内協議に参加する者、文書の情報を検討する必要のある者または情報を知らされる必要のある者に限られます。また、文書を入手しても、許可された者以外に見せることはできません。
 さらに、これらの文書は、TPP発効後4年間秘匿されます。TPPが成立しなかった場合は、交渉の最後の会合から4年間秘匿されます。
 米国のNGO、「パブリック・シティズン(一般市民)」は、「これまでに公表された唯一の文書は、どんな文書も公表されないという説明の文書だ」と批判しました。

 ネットで検索しますと、2011年9月には米議会でこのTPPの不透明性が問題とされていることがわかりますし、同年10月にはニュージーランドでも問題として明らかになっています。つまり、野田総理が首相官邸で記者会見を開いた11月の段階では、TPPへの参加について、「各国が我が国に求めるものについて更なる情報収集に努め、十分な国民的議論を経た上で」決めることなどできないということは、当然わかっていたはずです。従って、こうした説明自体が国民に対する裏切りであるわけです。

 私はTPPには断固反対の立場ですが、賛成してもよいのではないかという考えの方も当然いてよいと思っています。ただ、交渉内容は、交渉の実務に当たる官僚と内閣の中枢にいるごく一部の政治家のみであって、国民はおろか、一般の国会議員さえ内容について知ることができないということを、正直に国民に説明すべきでしょう。

 こうしたことを見ていくと、民主党も野田総理も、口先だけで適当なことを言っているだけだと考えないわけにはいきません。

 TPPについて根本から偽りの説明を行いつつ、これを新たな争点にして、消費増税問題から逃げ出してしまおうとする野田総理の姿勢は、あまりにもひどいと思われる方は、クリックをお願いいたします。


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