中国の反日暴動の背景 | 岐路に立つ日本を考える

岐路に立つ日本を考える

 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。

 「オスプレイ反対沖縄県民大会」の記事の続きを書くつもりでいたのですが、中国での反日暴動の激化があまりに激しいので、今回はこの反日暴動について、少し冷静に考えてみましょう。

 まずは、「おぞましい対中・対韓外交の推移」というブログ記事でも紹介した、8月28日付の時事通信の記事をもう一度見てみます。

(中国側は)既に日本政府に対して現状維持に向けた条件を策定。(中略)複数の中国政府筋によると、中国政府は尖閣諸島に関して、(1)上陸させない(2)(資源・環境)調査をしない(3)開発しない(建造物を設けない)-の3条件を内部決定した。

 ここでまず確認したいのは、日本の政府による国有化は、中国側が示したこうした条件に合致する形で進められているものだということです。民主党政権が中国政府の意のままに国有化を進めたというわけではないでしょうが、東京都が買う動きが強まる中で、日本政府が買って何もしないでくれることをむしろ望むというのが中国政府の姿勢だったと思われます。

 また、7月19日付の環球網(中国共産党の機関紙の人民日報系列紙の「環球時報」の電子版)には、中国海軍の元少将が「今の中国海軍は日本の海保、海自の実力に及ばない」と分析しているとの記事が出たという報道もありました。
  リンク先は環球網の記事を紹介した産経のニュース

 こうした記事から伺えるのは、中国政府(共産党)の側には、少なくとも少し前までは、尖閣諸島問題をあまり拡大させたくないとの意図があったものと思われます。これは決して日本に対して遠慮や配慮をしたのではありません。政府高官が相次いで国外逃亡するほど、国内の治安が悪化しており、反日デモが反政府デモに転化して、国家の崩壊に繋がる可能性を恐れているためです。

 例えば8月22日公開の新唐人テレビには、以下のような動画が出ています。


 ではなぜ今回過激化しそうな気配が濃厚だと事前にわかっていながら、反日デモが行われたのでしょうか。

 そのことを考える前に、中国ではいうまでもなく当局が認めない限りデモはできないことを確認しておきたいところです。「杜父魚文庫ブログ」に掲載されている宮崎正弘氏(著名な中国ウォッチャー)の「反日暴動異聞」という記事には、「チベット、ウィグル、内蒙古、寧夏回族自治区では反日デモが皆無」と記されており、反政府暴動に容易に発展しそうな地域では、今回もデモが許されていないことがわかります。
  リンク先は「杜父魚文庫ブログ」に掲載された「反日暴動異聞」の記事

 中国は第18回中国共産党大会が目前に迫っていますが、ここでひょっとしたら解党宣言もあるかもと噂されるほど治安が悪化しています。実際、現在毎日500件以上の暴動が各地で発生し、政府転覆を恐れた政府高官の逃亡も相次いでいます。おまけに中国の人民解放軍は七大軍区・三大艦隊で編成されていますが、「自力更生」の原則のもと、それぞれの軍区がほぼ独立した形になっています。要するに、それぞれがバラバラの軍隊であり、全体として一枚岩の統制が取れているわけでもないのです。何かをきっかけにして中国(中共体制)が崩れて分裂してしまう危険さえ、今や決して低いものではないのです。
  リンク先は「中国共産党が消える?」という題の私のブログ記事

 半年ほど前になりますが、中国の温家宝首相は、第11回全国人民代表大会第5次会議の政府業務報告の中で、中国共産党の人民解放軍に対する絶対的リードを強調するという、異例のコメントを行いました。人民解放軍がどのような位置づけであるのかということについて、中国国内で大きな見解の相違がないなら、温家宝首相の発言は意味不明です。人民解放軍の位置づけについて権力闘争が激しくなっているからこそ、このような発言が出てきたと考えるべきではないでしょうか。実際、2年前に梁光烈国防相から、人民解放軍を中国共産党の支配下から脱させて国軍化を図るべきだという見解が出されたことがありましたが、温家宝首相のコメントはこの見解を全面的に否定するものだといえます。様々な思惑がうごめく中で、人民解放軍をどうするかということにおいても中国国内では流動的になっていることを、この1件は象徴的に示しているように思います。

 国家の基礎が崩れ始め、何らかのきっかけさえあれば国全体がバラバラに崩壊してしまう可能性すらある中で、中国の政府内部では様々な綱引きが行われているということについては、十分予測がつきます。今後の中国の方針が決定されることになる第18回中国共産党大会の目前だけに、その綱引きが大変な激しさで進められていることはほぼ間違いないところでしょう。

 ここで思い出したいのは、時期中国のトップが内定していながら、クリントン国務長官との会談すらキャンセルして2週間ほど雲隠れした習近平と、「どうしても抜けられない重要な会議があった」ということでAPECに遅刻した、現中国トップの胡錦濤です。習近平の雲隠れと胡錦濤のAPECの遅刻もこのような流動的な中国の動きの中に位置付けられるべきではないでしょうか。

 習近平の雲隠れの真相は私にはわかりません。人民解放軍らによって軟禁状態に置かれていたのかもしれませんし、身の危険を感じて自ら隠れていたのかもしれません。危ない動きを制止するのに必死だったのかもしれません。ただ、何らかの激しい綱引きが中国の権力者の間で行われ、その動きの中に習近平が置かれていたからこそ、クリントン国務長官との会談のドタキャンが起こったと考えないと、辻褄が合わないわけです。胡錦濤のAPECでの遅刻も、中国国内での激しい綱引きがあった証拠だといえます。

 ここで頭に置いておきたいのは、「指桑罵塊(しそうばかい)」という言葉です。桑はクワ科、塊(えんじゅ)はマメ科で、全然違う植物だそうですが、見かけはよく似ているのだそうです。「桑」を指差して責め立てるようにみせながら、実際には直接指さしてはいない「塊」に警告を与えるという意味です。これが中国流のやり方だということを、頭に置いておくべきです。

 これを念頭に置いて現在の中国の動きを見るとき「反日デモ」が単なる「指桑」である可能性は非常に高いわけです。即ち、反日デモを組織して、表面的には日本を叩いているように見せかけながら、実際には権力者内部の一部の勢力が、勢力図の変更を要求しているという絵です。

 先ほど紹介した宮崎正弘氏の記事には、「河北省喩州でも9月15日に反日抗議デモが組織化された。指導していたのは当地の交通警察支部隊の隊長だった」とか、「江蘇省常州市では「公共バスが無料、タクシーは全車営業停止」という通達があり、当局の指示通りの動員がみられたうえ、デモ隊の帰りのバスが十台ちかく、チャーターされて解散予定場所に待機していた」といった具体例を挙げながら、「いずれの地区でもデモは公安か或いは地元の共産主義青年同盟の幹部が指導し、用意された横断幕は揃って赤字に黄色文字、スローガンはほぼ統一されており、しかも、かならず毛沢東の肖像画を先頭に掲げている。琉球奪還という標語も共通している」との指摘が載っています。つまり、社会に不満を持った若者たちが多数参加しているのは事実としても、目下の反日デモは、国民が自発的に行ったものというよりは、共産党内の一部の派閥が主導しているものということがわかります。

 これを裏付ける動画も出ています。


 人民解放軍の黄林異少将が「外交交渉で解決できないのなら、小規模の軍事衝突も発生し得る」と主張するなど、武力衝突を厭わない発言もあり、独立色の強い中国の軍区の一部が今すぐ強硬路線をとる可能性もないわけではありません。少なくとも長期においては、中国は尖閣諸島のみならず沖縄までとる意識を持って戦略を練り上げているのは間違いないところです。「オスプレイ反対沖縄県民大会」においても、五星紅旗のうちわが数多く見られたことが様々なブログに載せられていますので、沖縄における中国勢の浸透については当然警戒は必要ですし、楽観は禁物です。国土防衛に関連する法整備は思い切って進め、中国の侵攻を阻むために打てる手は我が国は淡々と打っていくべきです。


五星紅旗のうちわを持ってオスプレイ反対沖縄県民大会に参加している参加者たち

 しかしながら、国民の激情に逆らえずに人民解放軍が今すぐ過激な行動に出ざるをえなくなるというのは、実情とは違うのではないかと思います。そもそも、人民解放軍の中でもとりわけタカ派だということで知られる羅援少将でさえ、「武力解決の機は熟していない」とし、「戦略的力量が十分に積み重ねられるのを待ち、最終的に島を奪う」との方針を示しています。先にも一度紹介しましたが、鄭明・元少将は「今の中国海軍は日本の海保、海自の実力に及ばない」との分析をしているとの報道がありました。中国側から何らかの行動があるにせよ、人民解放軍と自衛隊が全面対決するような事態に持ち込む意志は、現段階では中国側には実はないと考えるべきだと思います。
  リンク先は「羅援少将の見解」について触れた記事
  リンク先は「中国海軍は日本の海保、海自の実力に及ばない」の記事

 反日暴動を煽ったために、反日において中国政府が引っ込みがつかなくなる可能性も否定できませんが、その流れに流された時に、自国の共産党体制の崩壊につながるリスクを犯すことになるということも着目ポイントになると思います。いくら弱腰の日本政府としましても、実力をもって奪いに来ているとすれば、中国人を逮捕しないということはできません。摩擦の中ではけが人や死者さえ出てくることまで想定しておかなくてはなりません。尖閣諸島を奪いに行って奪えず、逮捕者と死者やけが人を出しただけに終わるとすれば、過度に反日をたきつけてきたために、中国政府としては国内がもたない状況となります。

 ですから、日本が実効支配強化策を積み上げていったとしても、中国政府としては体制崩壊を心配して、なかなか手が出せない状況となると考えられます。日本の実効支配強化に対して、メンツをつぶされたと中国政府が感じ、一線を越える選択を行ったならば、現在の非人間的な中共政府を崩壊させることにつながる可能性も高いのです。腹はくくらないといけませんが、中国のいうことに右往左往せずに、淡々と実効支配強化策を繰り出していくとすれば、中国に対してだけでなく韓国に対しても、日本をなめるわけにはいかないという正しいメッセージを伝えることになるかと思います。

 最後はやや脱線したきらいもありますが、とにかく諸事実を丹念に確認していくと、「日本の尖閣諸島の国有化方針に中国の一般庶民が敏感に反応し、政府のコントロールが利かなくなっている」というマスコミの報道は、明らかにミスリーディングだと考えます。丹羽大使を襲撃した犯人も、激情にかられた一般国民だったと考えるよりも、ドイツ製高級車2台を用いての犯行であることから、政権側に近い立場の人間による指桑罵塊的行為だったと考える方が理に適っているでしょう。事実を追っていけば、進行している事態は、中国共産党・中国政府内部の権力闘争によって引き起こされているものだと考えるべきです。それなのに、愛国心に駆られた中国の一般国民の過激な行動の結果生じた事態であって、むしろ中国共産党と中国政府は被害者であり、国民の熱情に応えて過激な行動を認めざるえなくなっているかのように報道が行われるのは、もはやミスリーディングというレベルではないでしょう。なぜそこまでして中国共産党を性善的なものとして扱いたがるのか、理解できません。

 今回襲撃されている日本企業が、イオン・パナソニック・キャノン・トヨタなど、とりわけ親中で知られている企業が多いということも、マスコミの人たちには意識して見ておいてもらいたいところです。「同じ人間なのだから、話せばわかる」と思いたい気持ちは理解できますが、「相手が友好的な態度で出てきたら、こちらも友好的な態度で応えねばならない」とか、「相手が一歩引いたならば、こちらも一歩引いてやるのが礼儀だ」という日本的な心性は、まさに日本的な心性なのであって、世界の中ではむしろ例外だということを、これを機会にしっかりと学んでもらいたいところです。少なくとも、そうなのかもしれないと、従来の常識を疑う意識は持ってもらいたいと思います。

 とにかく、マスコミには、事実の積み重ねによって真相を明らかにする記事を書くように、その点ではまさに細心の注意を払うように、是非とも改めて頂きたいものです。マスコミ本来の使命に沿った記事が作られているのか、マスコミ人には反省を促したいところです。