原発廃止でGDP46兆円マイナスか? | 岐路に立つ日本を考える

岐路に立つ日本を考える

 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。

将来のエネルギー供給のあり方について、国民の意見(パブリックコメント)を国家戦略室が広く求めるということが行われてきました。この時の国家戦略室が用意した資料自体のいかがわしさについては、以前のブログにも書いた通りです。
「エネルギーに関わる不可思議な政府の立場について」

あまりにいかがわしいために、私としてはシミュレーションさえも行われていないのではないかと勝手に考えていたのですが、国家戦略室のページを再度検証してみたところ、4つの機関の分析モデルが掲載されていることに気付きました。以前にはなかったと思うのですが、私の見落としだったのかもしれません。いずれにせよ、ややわかりにくいところではありますが、政府が4つの機関に依頼した分析モデルが見つかりました。そしてこの4つの研究機関のいずれのモデルでも、原発比率が下がるにつれて経済への悪影響が強まることを指摘しています。
「4つの研究機関のモデル」は リンク先のやや下の方

特に甚大な影響を盛り込んでいるのが、地球環境産業技術研究機構のモデルです。このモデルでは、原発ゼロシナリオについて、自然体ケース(とりわけ原発比率を引き下げようとしないケース)と比較して、「46兆円のGDPのマイナス」になるとの結論を導いています。(2020年ゼロシナリオの場合)

これは、原発の停止と「再生可能」エネルギーの増大によって、リーケージ効果(電気料金の上昇から、産業が海外に移転して空洞化すること)が起こることをシミュレーションに入れているためです。原発停止 → 電気料金上昇 → 産業の日本離れ → 46兆円のGDPのマイナス という流れです。

他の3つのモデルではこのリーケージ効果はシミュレーションに入れていませんが、それでも9兆円から18兆円のGDPのマイナスになるとの試算を出しています。

ところで、私たちはマスコミ等を通じてこのような情報に接することができたでしょうか。その上で脱原発を目指すかどうかについて考えるように伝えられていたでしょうか。原発廃止の意見を持っている人たちは「原発を止めたらちょっとは経済に悪影響もあるだろうけれども、危険性も考えるとやむを得ないのかな」というくらいの考えでしかなかったのではないでしょうか。GDPの1割近いマイナスが懸念されるということが、「ちょっとした経済への悪影響」のレベルに留まるものだとは、私には全く思えません。

GDPの棄損は国民の雇用と生活を直撃する「危険」なものです。「その危険性がある」ではなく、「間違いなく危険にさらす」ものであり、国民生活を破壊するものです。原発の「危険性」について、否定することはできませんが、それよりも100%起こる「危険」について目を向けるべきではないでしょうか。実際、橋本内閣での消費税増税によるデフレによって、自殺者が年間で1万人ほど増えたように、政策のミスが国民を間違いない「危険」に晒すことがあるということについて、私たちはもっと自覚的であるべきだと考えます。

もちろん、こうした危険を重々承知の上で、それでも原発を停止させるべきだという考えもあるでしょう。そこまで覚悟ができた上での原発反対というのも一つの見識ですし、それが国民の多数の見解であるならば、自分の意見と相違していても尊重しなければならないと思います。

ところが、現実の姿はそのような状況ではありません。現実の姿は、基礎データさえ歪んだ形でしか伝えられていない中で、特別なルートを持つ一部の人しかなかなか参加できない形で意見集約が行われ、その多数派の見解を「国民の声」として政策決定に深く関わらせていくというものです。このあり方は、あまりに歪んでいるのではないでしょうか。

そしてそうした為政者の恣意的なあり方を暴いて正していくことが第一の責務であるはずのマスコミが、その責務を全く果たそうとしていない現在のあり方は、あまりにおかしいのではないかと感じている次第です。