昨シーズンでは、NHK杯、グランプリファイナルと2戦連続で300点越えの偉業を成し遂げ、グランプリファイナルの記録は「ギネス世界記録」にも登録された羽生選手。今シーズンは、史上初の4回転ループを成功させ、フリープログラムでは4種類の4回転ジャンプに挑むなど、さらなる進化を遂げています。グランプリファイナルでは史上初の4連覇を達成し、3月に開かれる世界選手権を目前に控えた今、進化し続ける羽生選手が考える「強さ」とはどのようなものでしょうか?インタビューでうかがいました。
環境の変化への強さこそが
本当の強さだと思う
僕が考える「強さ」というのは、実力だけではなく、気持ちの強さとも少し違っていて、本番の強さ……環境に対する強さだと思います。人間、誰だって環境が変われば緊張もするし、普段どおりのパフォーマンスができなくなります。どんなスポーツでもそうだと思うのですがフィギュアスケートも練習と同じ環境で試合があるわけではありません。そんな中で思ったような演技をできる人が本当に強い選手だと思います。例えば時差や飛行機の移動による体の感覚の違いだったり、試合のムードやリンクの氷の質感の違いなんかに影響されてしまうこともある。でも、そうした中でいつもの練習どおり、思ったとおりの演技ができる人、力を出し切れる人が本当に強い選手だと思うんです。そういう意味で、僕はまだまだだと思っています。環境の変化に影響されることなく完璧な演技ができる―それこそが、本当の意味での「強さ」なのだと思います。
どんな試合でも自分の力を
出し切れる選手になりたい
試合では一番気持ちを張り詰めて、ピークに合わせて力を出し切れる選手じゃなければならないダメと思うんですよね。それをとにかく目指したいなとは思っています。
僕がプルシェンコ選手に憧れている理由もそこにあります。小さい頃からずっと見ていましたが、彼はジャンプで前かがみになったりすることはあっても、絶対に転倒しないし、本当にミスをしません。試合で失敗したところをほとんど見たことがない。彼こそが絶対王者です。僕もプルシェンコ選手のように、どんな試合でもぶれずに自分の力を出し切れる選手になることを目指したいと思っています。
自分が「信じられるもの」を
どれだけ作れるかが今後の課題
様々な環境の中、例えばリンクによって氷の質感は違います。その条件の中でジャンプを跳ぶとき、どういうふうに跳ぶ感覚をつけるかというのは本当に経験になってきます。最終的には自分の感覚なので、誰かに教えてもらえるものでもなく、自分が信じられるかどうかです。自分が「信じられるもの」があればいい。ジャンプを跳ぶ前のその一瞬を注意して「跳べる」と信じていたら絶対に跳べるということが確かにあります。
僕は、いろんな選手やコーチのインタビューを聞くのが好きなんです。みんなその人だけの理論…なにかしらの「信じられるもの」があるんです。自分自身の「信じられるもの」は、精神的な変化や体調の変化によって変わっていくとは思います。でもその変化にいかに柔軟に対応して、これから先どれだけ自分が「信じられるもの」の経験を作っていくか。それが自分の課題だと思います。
負けず嫌いの究極系。
だからこそ前に進める
自分のことをすごく負けず嫌いだと思っています。僕はすべての試合で絶対に勝ちたいし、悔しい思いなんかしたくない。トレーニングをしている時でも、ジャンプが跳べない日なんかは自分に負けてる感があるので、すごく悔しくてしょうがない。もう負けず嫌いの究極系ですね。(笑)
僕の負けず嫌いって、ただ単純な試合の勝ち負けという訳でなくて、自分がミスをしたら、成長しきれてなかった自分自身に負けたって思います。この演技がしたいって決めたら、その演技じゃなきゃダメだと思ってしまう。それができたとしても、すごく頑固だから満足したことが今までほとんどありません。でも失敗や悔しい思いはある種の経験だと思います。失敗があるから反省ができたり、悔しさがバネになることもある。だから常に前に前にと進めるんだと思います。
フィギュアは多面性のある
スポーツ。伸び悩んでも、
他のことで進化できる
フィギュアはジャンプやスピン、ステップなど構成要素が多く、スケーティングの技術だけでなく表現力も求められます。フィギュアってものすごく多面性のあるスポーツなんです。何かひとつうまくいかないことがあったとしても、他を伸ばすことができる。例えば、ジャンプに伸び悩んだとしても、ステップやスピン、表現力を磨けばいいわけで、探そうと思えば成長できるところはいくらだってあります。自分で限界を決めない限り、どこまでも成長できる。この先、年齢を重ねてジャンプが跳べなくなったとしても、表現力はもっと磨かれているはずだから、違う意味でうまくなっているわけです。そう考えると、僕はまだまだ進化できる。だから、フィギュアスケートってすごくおもしろいなって思うんです。
支えてくれる全ての人たちが
一緒に戦ってくれるチームだと思う
フィギュアスケートというスポーツは、氷上でひとりでするものですが、大きな試合になればなるほど、ひとりの選手をサポートするメンバーが大勢います。氷上に辿り着くまでに体を作ってくれる人がいて、教えてくれるコーチがいて、チームの関係者の方たちがいる。そして、生活全般から試合にいたるまでのすべてを支えてくれる母がいて、会場でエールを送ってくれる観客の皆さんがいる。そのすべての人たちが同じ方向に向かって僕と一緒に戦ってくれている。チームで戦っているという感覚があるんです。自分はひとりではない、自分のために皆さんがいてくれると感じられるからこそ、集中できるし、頑張れる。自分を支えてくれる人たちがいることを本当にありがたいと思います。