
気持ちの整理がつかないうちに、目指す湊(みなと)中学校が近づいて来た。

震災当時、高さ4.5メートルの津波に襲われ、生徒ら4人が亡くなっている。


この春、修復工事を終えた。

羽「よろしくお願いします」

羽生の訪問はサプライズ。
先生たち以外には知らされていなかった。



生徒「きゃー!きゃー!!」

生徒「きゃー** ! ! きゃー**( 〃▽〃)!!」

突然現れた金メダリストに沸き返る生徒たち。


その興奮ぶりに、羽生自身も息を飲んだ。

羽「えー、初めまして羽生です。羽生結弦です」

「へへへ(笑)」

羽「オリンピックの前に寄せ書きという事で、たくさんの湊中のみんなからメッセージを頂きました」

羽「本当にありがとうございます」

羽「質問ある方いらっしゃいますか?」

ざわざわ ざわざわ
羽「ふふふふ」

生徒「あのー、ピストルポーズして貰えませんか?」
羽「ピストルポーズって何だ?」
生徒「スケートのやつです」

羽「(ポーズして)これ?」


羽「ジーパンなんだけど…」



生徒「きゃー! きゃー! きゃー!」

羽「笑」

わー! きゃーきゃー!

羽「そんな」

羽「そんなに興奮しないでいいでしょ」

羽「(笑)」




まさか、これほど生徒たちが喜んでくれるとは思っても見なかった。



復興には無力だと感じていた金メダルにも、意味があったのかも知れない。



胸の中で疼いていた後ろめたさは、少しだけ和らいだ。

羽「本当に大変な事ばっかりだと思うんですけども」

羽「そこに全部『ありがとう』って言えるくらい」

羽「感謝の気持ちを持っていれば、いつか絶対いい事があるなって」

羽「僕はそう信じています」

羽「じゃあ」



来て良かったと思う。

みんなに笑顔をプレゼント出来たから。

羽「こんなにも自分の演技で」

羽「自分の結果で元気になってくれる方がいるっていうのを」

羽「自分のスケートが、こんなにも人のためになってるんだなって改めて気づけたので」

羽「また良い結果を持って来れるようにしたいなって思いました」



深い悲しみと向き合った人々が、もしも自分に希望を重ねてくれるなら。



きっと復興の助けになるだろう。



その思いを込め、今夜一夜限りのアイスショー。
☆☆☆☆☆☆
『大変な事ばかりだと思うんですけど、そこに全部「ありがとう」って言えるくらい感謝の気持ちを持っていれば、いつか絶対いい事があるなって、僕はそう信じています』
大変な事ばっかりの羽生くんが言う、この言葉が胸に響きました。
生徒さんたちも、この先、羽生くんと過ごした時間と共にこの言葉を思い出してくれるでしょう。
こんなに自分の演技や、結果で喜んでくれると喜びを露にする羽生くん。
決して金メダルでなくとも、湊中学校のみんなは喜んでくれたでしょう。
けれど、金メダルだけが持つ力というものがあり、そこから拡がる希望というものも格段に違います。
自分たちが贈った旗に込められた思いに見事に応え、それを持ち帰ってくれた羽生くんは、被災地の生徒さんに差す希望の光でこそあれ、踏み込む「土足」などではあり得ない。
互いに癒し、癒される姿。
その姿を見て、ほっとした私でした。
( *´ω`* )