ボーイングの問題が静かに悪化 737MAX以外にも暗雲
ボーイングは2019年の終わりを待ちきれないことだろう。今年は同社の歴史の中でも特に波乱の年だった。10月23日に発表された決算によると、737MAX型機の運航停止により生じた損失は100億ドル(約1兆1000億円)近くに上っている。

ボーイングは、同機の運航停止により影響を被った多くの航空会社から圧力を受けており、追加で50億ドル(約5400億円)の補償金を約束した。

私が8月にボーイングを取材した際、米航空会社ではMAX型機の運航再開スケジュール延期が相次いでいたが、それでも同社は今年中の運航再開を主張していた。一方の私は当時、同機は2020年まで運航できないだろうとみていた。

そしてボーイングはこのほど、737MAX型機の運航再開が来年1月になる見通しだと発表した。同社は進捗報告書で、「MAX型機の顧客航空会社への納入は、認可を経て12月に始まる可能性はある」とした上で、「私たちは現在、更新版の訓練要件の最終確認に向け取り組んでいる。これは、MAX型機が商用サービスを再開する前に完了される必要がある。商用サービスは1月の開始を想定している」と述べた。

ボーイングは、商用航空機部門の未来を737MAX型機、787ドリームライナー、そして次世代の777X型機に賭けていた。しかし、ボーイングが抱える問題はここにきて、非常に静かに、大きく悪化した。ドリームライナーは各航空会社に大きな成功をもたらしたが、ボーイングは先日の四半期決算発表で、同型機の月間生産量を14機から12機に減らすことを明らかにした。これはそれほど大きな数には見えないかもしれないが、現在生産中のモデルで最も大きな成功を収めているドリームライナーの減産を決めた理由として、ボーイングは「現在の国際貿易環境」を挙げている。

しかし、ボーイングの最新の発表の中で最も憂慮すべきなのは、777X型機に関する部分だろう。同機はエアバスのA350型機に対抗するモデルとしてだけでなく、A380型機、さらにはボーイング747型機などの4発ジェット旅客機の生産終了をもたらすモデルとなるべく開発されていた。777-9型機はエンジンの大型化により、400人以上の乗客を運ぶ最大の商用双発ジェット機となるはずだったが、開発は壁にぶち当たったようだ。

777Xの納入延期
ボーイングは第3四半期決算で、ドリームライナーの減産に加え、777X型機の納入を2020年夏から2021年に延期すると発表。同機をめぐっては、商用機としては世界最大のエンジン「GE9X」のほか、最近は貨物室ドアにも問題が生じたため、当初お披露目が予定されていたパリ航空ショーから4カ月以上もたつにもかかわらず、初飛行さえも行なえずにいる。


こうした遅れが、777X型機の最大の顧客であるエミレーツ航空とその機材入れ替え計画にどのように影響するかはまだ分からない。エミレーツ航空はこのモデルを150機発注している。またシンガポール航空は既に今週の発表で、同社への777X型機納入もまた1年遅れ、運航開始は2022年になることを明らかにした。

ボーイングにとってさらなる懸念材料として、ルフトハンザ航空が777X型機の正式発注をオプションに変えたこともある。これによりルフトハンザは、同機を一切購入しない選択肢も得る。

現在も続く737MAX型機の問題や、787型機の減産、777X開発の遅延といった問題を抱えるボーイング社の商用航空機部門には、楽観的になれるものがあまりない。しかし、同社は前代未聞の規模にも思える危機に陥り、利益は前年比95%減となったものの、それでもなんとか黒字を維持している。ボーイングの今年1~9月の利益は前年同期の70億ドル(約7600億円)から2億2900万ドル(約250億円)に減少した。

米ボーイング787、酸素系統に問題か 内部告発者が証言
米航空機大手ボーイング製「787ドリームライナー」について、客室が突然、減圧状態になると酸素がなくなる危険性があると、元従業員が内部告発した。


同社で品質管理エンジニアとして働いていたジョン・バーネット氏(57)は、工場の製造ラインで問題のある部品が故意に取り付けられていたと主張している。

ボーイングはバーネット氏の主張を否定し、同社のすべての航空機は最高水準の安全性と品質で製造されていると述べた。

ボーイングは現在、737マックス8型機の墜落事故が相次いだ問題で厳しい調査の目にさらされている。

バーネット氏はボーイングで32年働いた後、2017年3月に健康を理由に退職した。2010年からは、米サウスカロライナ州ノースチャールストンにある工場で品質管理を担当していた。

同工場は、787ドリームライナーを製造している2工場のうちのひとつ。同型機は長距離線向けで、世界各国で使用されている。導入直後は初期トラブルに見舞われたものの、さまざまな航空会社が採用し、ボーイングの収入源となっている。

しかしバーネット氏によると、新型機をより早く製造しようとした結果、工程も足早になり、安全性が損なわれたという。ボーイングはこの主張を否定し、「安全性、品質、そして誠実さがボーイングの価値基準の中核だ」と話している。

バーネット氏はBBCの取材に対し、2016年に非常用酸素系統の問題に気づいたと説明。非常用酸素系統は、航行中に客室与圧システムが故障した時にはたらき、乗客と乗員の命を守るもの。酸素マスクが天井から降りてきて、シリンダーを通して酸素を供給する。

このシステムがないと、機内にいる人はすぐに行動不能に陥る。上空3万5000フィート(約1万メートル)では、1分以内に気を失うという。上空4万フィートでは20秒に縮まる。失神後は脳にダメージを負い、死に至る可能性もある。

突然、減圧が起きることはまれだが、起きないわけではない。2018年4月には米サウスウエスト航空機の壊れたエンジンの破片が窓ガラスに当たって破損。窓側に座っていた乗客1人が重傷を負い、これが原因で亡くなったが、残りの乗員乗客は緊急時用の酸素マスクのおかげで助かった。

バーネット氏は、小さな破損のあったシステムを解体していたところ、いくつかの酸素ボンベが緊急時に作動しないことに気が付いた。バーネット氏はその後、ボーイングの研究開発(R&D)ユニットにこのシステムの試験を依頼した。

試験では破損のない「在庫から取り出したばかりの」酸素系統を使用し、機体に設置した時と同じ条件、同じ要領で作動するよう設定した。300基で試験を行ったところ、75基で酸素系統が作動しなかったという。故障率は25%だ。

しかし、バーネット氏がさらにこの件を追及しようとすると、ボーイングの経営陣らに阻まれたという。バーネット氏は2017年にアメリカの連邦航空局(FAA)に申し立てを行ったものの、問題を明らかにする動きはみられなかった。FAAは、ボーイングがこの問題に取り組んでいると示唆したため、バーネット氏の主張を裏付けることはできなかったと説明している。

一方、ボーイングはバーネット氏の主張を否定している。
ただ、2017年には「あるサプライヤーから供給された酸素ボンベの一部が正しく酸素を供給しないことが判明した。これらの酸素ボンベを航空機から除去したため、欠陥のある酸素ボンベは使用されていない。この問題について、このサプライヤーにも通告している」と認めている。

しかし、「航空機に設置されている乗客用の酸素系統は全て、正しく機能するかどうかを引き渡し前に複数回の試験でチェックしている。航空機に設置されるのは試験をくぐり抜けた設備だけだ」と強調した。

「また運航開始後も定期的にテストを行っている」
しかし、サウスカロライナの工場で浮上している疑惑は、酸素系統の問題だけではないという。バーネット氏によると、ボーイングでは機体の組立工程でひとつひとつの部品を追跡することになっているが、この手順にも落ち度があり、大量の欠陥部品が「紛失」しているという。

バーネット氏は、製造ラインではプレッシャーをかけられた作業員が、基準を満たしていない部品をごみ箱から持ってきて機体に取り付けることもあったと主張している。また、そうした事態の少なくとも1回について、経営陣の1人は把握しているという。

バーネット氏は、こうした事態は「同工場がスケジュールとコスト管理が厳しい」ため、時間短縮のために発生していると話した。

FAAは2017年、この件についてバーネット氏の申し立てを取り上げ、少なくとも53点の「不適格」部品の所在が分からず、行方不明になった可能性があると報告し、ボーイングに改善措置を指示した。

ボーイングはこの点に関して、FAAから指示を受けて以降は「部品のトレーサビリティ-について、FAAの指摘点は完全に解決し、再発防止策も導入した」としている。一方、完成した機体に不適格な部品が使われている可能性については詳細を示していない。同社のノースチャールズトン工場の関係者は、そうした事態はありえないと話している。

バーネット氏は現在、問題を指摘したことでボーイングから名誉を傷つけられ、キャリアを阻害され、最終的には退職を余儀なくされたとして、同社を相手取って裁判を起こしている。

ボーイングはこれに対し、バーネット氏は長年、退職について計画しており、退職自体も自主的なものだったとしている。同社は、「ボーイングは、バーネット氏が望んで選んだ職務を続ける能力に、いかなるマイナスの影響も与えていない」と述べている。

また、従業員に対して問題提起や不服申し立ての手段を数多く用意していると説明。申し出た従業員を保護し、提起された問題が考慮されるための手続きもあるとしている。

その上で、「従業員には懸念事項を申し出るよう奨励している。その場合には徹底的に調査し全面的に解決する」と述べた。

しかし、ボーイングの製造工程に懸念を示した従業員はバーネット氏だけではない。たとえば今年3月にエチオピア航空の737マックス8型機が墜落した事件の後、FAAのホットラインにはボーイングの現職あるいは元従業員4人から問題提起があったという。

バーネット氏は、自分が提起した問題は、ボーイングの「スピードとコスト削減、販売機数が全て」という企業文化を反映していると話す。また、経営陣は「安全性のことは考えず、ただ計画どおり進んでいるかどうかを気にしている」と語った。

ボーイングの元エンジニア、アダム・ディクソン氏もこの考えに賛同している。ディクソン氏はかつて、ワシントン州レントンの工場で737マックス8型機の開発に携わっていた。

ディクソン氏はBBCの取材に対し、工場には「機体をどんどん製造しろという動き、生産水準をあげろという圧力があった」と話した。

「私のいた部署は常に、製造工程や品質について工場側と闘っていたが、上司は何の助けにもならなかった」

今年10月に行われたボーイングに対する公聴会で民主党のアルビオ・シラス下院議員は、737マックス8型機の製造ラインに関わっていた管理職員による電子メールを引用した。

それによると、この管理職員は、従業員が長期間にわたって非常にハイペースで仕事を行わなければならず、「疲れ果てている」と抗議している。

また、スケジュールの圧力が「従業員が故意に、あるいは無意識に、必要とされる工程を飛ばす文化を作り出しており」、品質に悪影響が出ていると指摘している。

その上でこの管理職員は、人生で初めて自分の家族にはボーイング機に乗ってほしくないと思ったとつづっている。

ボーイングは、航空機の安全性を保障するために、FAAと共に「厳格な検査プロセス」を導入すると説明。全ての機体が工場から搬出される前に「複数の安全性検査やテスト飛行」を受けるほか、多方面にわたる検査を受けると述べた。

また、安全性プロセスについての評価を外部委託したところ、「FAAの機体認可水準とボーイングの機体設計・エンジニアリングで求められる水準について、厳格に実施され、順守されている」という結果が出たという。その上で、この評価によって、「737マックスの設計と開発は、安全な機体を継続的に製造する工程に沿っていることが立証された」としている。

こうした評価の一方で、ボーイングは今年9月、安全構造にさまざまな変更を加えると発表した。これには「製品とサービスに関する安全組織」の新設も含まれている。

この組織は製品安全性についてあらゆる角度から評価を行い、「不必要な圧力や、出所不明の部品、従業員から挙げられた安全性に関する懸念などを調査」するという。

こうした中、バーネット氏はなお、製造に携わった機体の安全性に深い懸念を抱き続けている。

「私自身の経験や過去の飛行機事故を踏まえると、787型機で何か大きな事件が起こるのは時間の問題だと思っている」とバーネット氏は語った。

「この予想が間違っていることを祈っているが」