ずっと昔、そのお店は、緩やかな坂の途中にありました。
階段を降りていくと、れんがと木の内装の、小さなスペースがありました。
地上部分は全面ガラス貼りになっていたので、地下でも、陽光は降り注いでいました。
そこには、はじめのころは、明るい女性の店員さんがいらして、
後になってからは、その方の旦那様がお店に立たれていました。
木の棚に置かれた、さまざまな雑貨たち。
お店の方達が、選び抜いたものでした。
ふだんづかいのグラス、調理道具、エプロン、ちょっとした置物…
今でも覚えているのは、小さなウサギが何羽か彫られた、ガラスのタンブラー。
Twice(トゥワイス)という雑貨屋さんの商品を買い付けて、お店に置いてあったのでした。
それから、木でできたミニチュアの椅子で、背もたれに小さな写真が入れられるようになっていて、座面は紺色の細かなギンガムチェックで、座面の下のねじを巻くと、オルゴールが鳴るもの。これは今でも実家にあると思います。
それから、白地に赤い糸で、キッチン雑貨を裾のところにだけ小さく刺繍したエプロン。お店の方に聞くと、渋谷にある「オ・タン・ジャディス」という手芸屋さんの商品とのこと。
そんなこんなで、よくお店に伺うたびに、お店の方ともお話するようになり、小さな雑貨を買うようになりました。
そのころ、SNSどころか、ネットすら普及していませんでした。おひげの旦那様がお店に立つようになってから、A4で1~2枚のフリーペーパーを手書き・コピーで作り始め、月に一度くらい郵送されてきました。なんという、のんびりした、良い時代だったことでしょう。
環境が変わって、いつの間にかお店にも伺えなくなり、ずいぶん経ってからそこを通ると、れんが壁はそのままで、おしゃれな美容室に変わっていました。
あのお店が、雑貨との出会いの場になってくれて、今があるんだなあと思います。
お店の人の「好き」が、私の「好き」と合っていたのも、とても幸せな出会いでした。
ぼんやりとしかわからなかった自分の好みを方向づけてくれた、大事なお店でした。