関東で生まれてほぼ10年ごとに引越しをしてきた私には、
母の故郷である北海道が、心の故郷だと、勝手に思っています。
渡辺一史さんは、札幌在住のノンフィクション作家です。
大阪で育って、大学から北海道に来た渡辺さん。
北海道の自治体の市町村史や、観光ガイドなど、いろいろな媒体に文を書いて
いらっしゃいます。
単行本としては、長い作家生活の中で、2冊。
「こんな夜更けにバナナかよ」と、
「北の無人駅から」。
その2冊とも、ノンフィクションの世界で大きな賞をいくつも受賞されました。
「こんな夜更けにバナナかよ」は、24時間介護により札幌で生活している筋ジストロフィーの男性「鹿野さん」と、彼の生活を支えるボランティアの皆さんの日常を描いたものです。
鹿野さんと、ボランティアの皆さんの関係は、とおりいっぺんのきれいごとではすみません。タイトルの言葉は、夜更けに、バナナが食べたいと要求する鹿野さんについて、当番だったボランティアの青年が思ったことなのです。
ボランティアの皆さんが、それぞれの立場で、それぞれの思いを持って、鹿野さんと向き合います。また、鹿野さんも、自分の生活をすべて支えているボランティアの人たちに、正直な気持ちを投げかけます。
今でこそ、障害者自立支援法、障害者差別解消法ができはじめていますが、それは、鹿野さんやボランティアの方々のような皆さんの行動があったからこそとも思えます。
そして、障害ということにとらわれず、人と向き合うということ…自分が当事者だったら、どういうふうに向き合うのか…と、考えさせられるきっかけになりました。
「北の無人駅から」は、北海道に点在する、無人駅をスタートにして、その周辺に生活する北海道の人々を取材し、現実をつづったものです。
過疎化した町や村のこと、農業の持つ構造的な問題のこと、自然保護の在り方のこと…
北海道だけではなく、普遍的に、日本全国の姿が見えるようです。
農業の知識など、難しい本ですが、登場してくる人々の北海道弁が、母や祖母や伯母たちを思い出させてくれて、とても親しみがわきました。
また、並木博夫さんによる、北海道の風景写真が、本の内容と相まって、心に迫ってきます。
「北の無人駅から」にとても感銘を受けて、ファンレターを書きました。
また、2月の土曜日に北海道新聞文化センター主催の講演会があると知り、札幌まで行きました。
土曜の朝飛行機で行くつもりでしたが、関東は何年ぶりの大雪で、羽田発の飛行機は欠航になりそうでした。
あわてて、前日金曜日の昼に、東京から新青森までの新幹線と、その頃まだ走っていた、青森ー札幌間の夜行急行「はまなす」の座席車のきっぷをとり、金曜の夜に出かけました。
幸いにも、「はまなす」は定刻通り朝6時台には札幌に着き、小樽に足を延ばして、札幌の日帰りスパに入り、無事に講演会に間に合ったのです。
この間、北海道新幹線ができて、「はまなす」はなくなってしまいましたが、私の願いをかなえてくれたことは、これからもずっと覚えています。
渡辺さんは、黒いセーターとズボンが似合う、長めの髪が印象的な、とても穏やかな感じの方でした。けれど、大作(「北の無人駅から」は792頁あります)を上梓するまでに、幾多のご苦労をくぐり抜けてこられた、意志の強い方だという感じがしました。
持参した「北の無人駅から」にサインをしていただきました。これも、大事な宝物です。
また北海道へ行きたくなってしまいました。なかなか行けませんが…