東北旅行の後半、山形県酒田市から南へ向かうとき日本海沿いの国道7号ではなく、同県鶴岡市の山中を走る国道345号を選んでみた。その途中、崖と谷に挟まれた細い道を通過。身の危険を感じて嫌な汗をかいた。国道だからと安心していたけれど、夜なら転落事故を起こしていたかも。予期せず迷い込んだ「酷道」。現実を思い知らされた。

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 つらかったのは鶴岡市関川から、同市小名部の平沢地区までの区間。南向きだった345号が日本海に向けて西に曲がるあたりから、距離にして6キロ余り、鼠ケ関川(ねずがせきがわ)沿いを走る。
 すぐにおかしいなと思った。車線が1本しかない。片側1車線ではなくて、たった1車線。進路を間違ったか。でも、停まってスマホで確認するとたしかに345号上に位置していた。
 全幅1.4メートル弱のジムニーでさえぎりぎりじゃないかと思うほど狭い。そういえばさっき、「ここから幅2.0m超通行禁止」という看板が立っていたな。
 右は崖が迫り、左に谷底。深い森の中、木漏れ日を頼りに進む。おおむね緩やかな下りになっていて、アップダウンは激しくないけれど、川の蛇行に合わせて左右のカーブを繰り返すので、先を見通せない。
 対向車が来たらどうするの。1台もすれ違わなかったけど。
 縁石や歩道はない。そもそも白線をほとんど見かけない。ガードレールもごく一部しかない。急カーブに立っているのは、紅白しま模様の杭のみ。頼りない。
 街灯もなかったはず。代わりに、あちこちに「落石注意」の看板が立っていた。
 そしてところどころで崖の樹木が途切れ、土がむき出しに。土砂崩れの跡だ。ブルーシートで覆ってあるところもある。
 こういった部分からは水が流れ、路面が濡れている。スリップしそう。

 念のため四駆に切り替えようかと思ったものの、切り替えには車外に出て前輪のつまみを回さないといけない。崖も谷も怖いので降りる気になれない。
 平沢地区に出て対面通行の道になったとき、生き延びた、と思った。そのうち両側に田んぼが広がってきた。抜けるような青空。さっきまでの山道が嘘のようだった。
 四駆に乗る人間の端くれとして、これまで「酷道」にあこがれていた。一度は四国に車で行って、「酷道ヨサク」と呼ばれる国道439号を走破してみたいと思っていた。
 いや、しかし。いきなり行ってたら、思いっきり後悔しただろうな。今回みたいな道だと引き返そうにも引き返せない。カーブだらけじゃ、バックなんて無理だし。
 ちなみに、危ない区間を避けて日本海側に抜けるには、主要地方道52号(山北関川線)や県道348号(温海川木野俣大岩川線)を通る手がある。僕は走ってないので、走りやすさは分かりませんが。
 345号の肩を持つとすれば、この区間以外は快適だった。山形県の田園地帯はのどかだし、新潟県に入ってからの日本海沿いは「笹川流れ」と呼ばれる名所。波に洗われた奇岩と沈む夕日がきれいだった。
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 ところで、平沢集落からちょっと進んだ小名部集落の南側に「日本国」というおめでたい名前の山がある。山形県と新潟県の県境に立ち、標高555メートル。先を急いでいたので、どれが日本国山なのか分からずじまいだった。残念。登山口があったので、その気ならば歩いて登れるもよう。
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 僕を悩ませた鼠ケ関川。やまがた観光情報センターのホームページによると、「おしん」のロケ地になっていた。ただし、朝ドラではなくて映画の方。おしんの母(上戸彩)が冬の川に入るシーンが撮影されたそうな。