院長との話が終わり
僕はシオンさんと部屋を出た

部屋を出た途端 

「チャンミン…」

シオンさんから声をかけられた

「少し話がしたいんだが、時間あるか?」

僕もシオンさんにいろいろ聞きたい事があった

「わかりました」

僕とシオンさんはそのまま
病院の近くにある喫茶店へと向かった

これから話す事は
人に聞かれたくない
そう思ったから…


店内の一番奥の席に
2人で向き合って座った

「チャンミン… 
   君が躊躇うのは、彼の為か?」

シオンさんは、僕の目を静かに見つめた   

「君が看護師になると決めた時
   ずっと言っていたよな
   将来は、医療機関がなくて
   困っている村や島を回って
   その人達の手助けがしたいと…

   なのに、彼の為に
   自分の夢を諦めるのか?」

彼の言葉は、間違いじゃない…
僕は看護師を目指した時に
そう思って一生懸命に頑張った

だけど
僕には今大切な人がいる
ユノさんと離れることなんて考えられない
これが僕の本当の気持ち

「誰かの為じゃなくて
    今自分がここを離れたくないだけです」

「でもそれは
    あの人と出逢わなければ
    そんな事を思わなかったはずだ」

シオンの言葉に
僕は首を横に振った

「僕はユノさんと出逢えた事で
    孤独な人生から抜け出せた

    だから前にも言ったと思うけど
    あの人は僕にとって
    とても大切な宝物なんです」

「そんな事…」

そう一言告げると
急にシオンさんは
僕の手を握りしめた

「君の孤独を癒すのは
    僕では駄目なのか?」

僕を切なげに見つめ
手の指を絡めながら
震える声で告げられた

「貴方は大切な先輩だと
    僕はそう言いましたよね」

僕は握られた手を
振りほどきながら答えた

シオンさんの指先が
僕の手をもう一度捕らえた

「それは   わかっている
   だけど僕は君が忘れられない…」

シオンさんの気持ちは
嬉しいけれど
受け入れることは考えられない

「シオンさん…
   気持ちはありがたいと思います
   だけど僕はユノさんが好きなんです
   だからあの人と離れるなんて…」

「待って」

シオンさんが僕の言葉を遮る

「認めたくないないけど…
    君の気持はわかった
    
    でもね
    君に対する僕の気持ちとは別に
    純粋に仕事として
    君と一緒にプロジェクトに
    参加したいと思う

    だからチャンミン
    自分の将来の事として
    真剣に考えてくれないか?」

シオンさんの真剣な瞳
僕はあまりに真っ直ぐに見つめられて
それ以上は言葉を繋ぐ事が
出来なくなってしまった

「まだ   時間はある
    いい返事を待っているから」

シオンさんは
僕の髪にそっと触れると 
僕の前から立ち去った