シオンさんの言葉に

僕は驚き、思わず尋ねた

 

「シオンさん   どうしてですか?

    あなたは奥さんのご実家の

    病院を継がれる筈じゃなかったのですか?」

 

以前出会った女性

奥さんのヒジュさん

彼女のあの上品で華やかな笑顔が浮かんだ

 

「ヒジュとは…別れた」

 

シオンさんは顔色ひとつ変えずに

僕の顔をじっと見つめ答えた

 

何故?  

どうして?

 

そう、問いかけたかったけど

院長が目の前にいるし

シオンさんの僕を見つめる視線の感じから 

今はその話に触れない方が

いいような気がした

 

僕は、返事に困って黙り込んだ

 

すると院長が

 

「君達が知り合いだったなら

   ちょうどいいじゃないか

     

   シム君   このユル君と一緒に

   プロジェクトに参加してほしい」

 

と、そう切り出した

 

確かに僕が希望をしていたその仕事は

やりがいがあると思い

学生時代からの目標でもあった

 

だけど

今このタイミングで

まさか実現するとは

夢にも思っていなかった

ましてや、

シオンさんと同行する事になるなんて…

 

僕の1番大切な人

ユノさんがこの事を知ったら

どんな風に思うだろう

 

「この手を離さない…」

 

僕を大切に愛してくれるあの人を

また、苦しめる事になる

 

でも、その反面

僕にある考えが浮かぶ

 

今、この時だからこそ

あの人と離れた方がいいのかも…

 

テミンと僕の板挟みに悩む

あの人の為に

僕ができる事は

自分からあの人と離ればいい

 

いろんな考えが渦巻いて

すぐに結論を出せそうにない

 

僕は院長の問いかけに対し

すぐに返事が出来ずにいた

 

「シム君   急な話で悪いが

   このプロジェクトは

   3か月後には立ち上がる

   それまでに打ち合わせ等を含めると

   あまり時間がない

   だから、出来るだけ早く

   返事が欲しい」

 

早急に返事をしろと言われても

僕の頭の中は真っ白で

何も考えられない

 

「わかりました

    でも、院長このお話を

    僕が断ったとしたら

    どうなるのですか?」

 

「君が強く参加を希望していたから

    断られる事は考えていなかったが

    何か事情がかわったのかね?」

 

院長は困った顔で僕を見た

 

 「すみません  

     少しだけ考える時間を下さい」

 

僕は頭を下げた

 

「わかった  

   でも、出来るだけ早く返事が欲しい」

 

院長も仕方がないという表情で

答えでくれた

 

そんな僕達の様子を

シオンさんは黙ってじっと見つめていた