今日も仕事が遅くなるので
家政婦のナミさんに
保育園の迎えを頼んだ

彼女は、赤ちゃんの頃から
ずっと、母親のように
テミンの世話をしてくれている

年齢も、ちょうど
俺の母親くらいの人で
テミンもよく懐いているから
俺は、本当に頼りにしていた


取引先と打ち合わせを済ませて
事務所に戻った時

「ユノさん ナミさんから
電話ですよ」

事務の女の子が
俺に声をかけた

ナミさんが
会社に電話してくる事は
滅多にない
何か有ったのかと思い
急いで、電話を取ると

「ユノさん!
テミンが怪我をして
今、病院に来ています」

ナミさんの慌てた声が
聞こえてきた

「テミンが怪我を?」

「保育園の帰りに
公園で遊んでいて
すべり台から飛び降りちゃって
腕を骨折したかもしれない…」

電話の向こうから
ナミさんの不安そうな声が聞こえた

「わかりました
すぐ、そちらに行きます!」

病院の場所を聞いて
電話を切ると
上司に事情を説明して
すぐに病院に向かった

会社の前でタクシーを拾い
慌てて乗り込んだ

車の中で
テミンの怪我の具合を心配した

タクシーを降りて
病院の受付で
外科の場所を尋ねると
すぐに、そこに向かった

外科の待合室に着くと
診察が終わったテミンとナミさん
それから…見覚えのある人物が
何かを話している…

「えっ⁈ なんでここに?」

思わず俺は声を出した
テミンとナミさんと
一緒に話しているのは

電車で見かけた
あの人だった…

一目見て、ずっと
忘れられなかった人…

俺は驚いて
その場に立ち尽くした

「パパ!」

俺に気づいたテミンが
大きな声で叫んだ

ナミさんとその人が
俺の方を見た

テミンを見ると
右腕にギブスを巻いていた

「僕、怪我しちゃった」

テミンが、腕のギブスを見せて
にこにこ笑っていた

テミンの様子を見て
俺は安堵のため息を吐いた

「ユノさん、すみません
私が少し目を離した間に
テミンがすべり台から
落ちてしまって…
私が気が動転していたら
この方が通り掛って
テミンを病院に運ぶのを
手伝ってくださって…」

ナミさんが
その人がここにいる理由を
教えてくれた

「すみません
ありがとうございました」

テミンを抱き上げながら
俺は、その人に頭を下げた

彼も俺を覚えていてくれたのか

「あなたは…電車でお会いしましたね」

そう言って、また
あの優しい微笑みを浮かべた

こんな偶然…

ずっと会いたかった人に
こんな所で会えるなんて…

俺は、その人の姿を
じっと見つめた

「あの…俺はチョン ユンホです
あなたは?」

「僕は シム チャンミンです」

「シムさん 本当に
あなたが居て下さって
助かりました」

もう一度、お礼を言って
俺は再び、彼の姿に
見惚れていた