それから、ユノさんは
入院して、たくさんの検査を受けた

そして、一か月後
テヨン先生の紹介で
アメリカで、専門の医師の
手術を受けることになった

僕は付き添って、一緒に渡米する
つもりだったのに、
ユノさんは頑なにそれを断った

僕の仕事の事を理由にしていたけど
本当は、ユノさんは結果が
怖いんだと思った


僕も、怖くてしかたないけど
そばについていたかった
だけど

「かならず、帰ってくるから
   この家で待っていてくれ…」

そう言ったユノさんの
気持ちを信じることにして
僕はここで、待つことに決めた

そして、手術までの
その時間を大切にしようと思った

退院した次の日

「チャンミン、海見に行かないか?」

ふと、思いついたように
ユノさんが言った

「夏になったら、一緒に行きたいと
   思ってた 
   今の季節じゃ、寒いかも
   しれないけど…
   行ってみないか?」

もちろん、僕は
ユノさんが行きたいと思う所なら
何処へでも、行きたい

「うん、行ってみようか?」

いつ、ユノさんの頭痛の発作が
起こるか、わからないから
僕達は、電車とバスを使って
海に向かった

海に近い、駅に降りた時
どこからか、潮の香りがした

風は少し冷たかったけど
ユノさんが、僕を庇うように
風上に立ってくれて
二人でバスを待った

こんなユノさんの優しさが
僕の胸を締め付けて
泣きそうになる
   
そんな僕の様子に気付いたのか
ユノさんが
僕の右手をぎゅっと握りしめて
自分のコートのボケットの中に
入れた

「風、冷たね
    寒くない?」

「手が…暖かいから、大丈夫」

「そう、なら良かった」

僕の顔を見て、にっこり笑う
ユノさん
僕もつられて、微笑んだ

「ほら、そうやって
   笑った顔をいっぱい見せて…
   アメリカに行くまで
   その笑顔をたくさん見ていたい」

ユノさんは、微笑みながら
僕をじっと見つめた

この時、僕は決めたんだ
この先、なにがあっても
ユノさんの前では
いつも、笑っていようと…

辛くても、悲しくても
かならず、微笑んでいようと…

それが、僕に出来る
精一杯のことなのだから…