思春期の子どもに反抗されて、
なぜか「私だけが壊れそう」になる。
それは、あなたの心が弱いからではありません。


第1章|職場で起きていること


◎守られる側から、「挟まれる側」へ

思春期の子どもを持つ母が直面する苦しさは、
家庭の問題だけで説明できるものではありません。

なぜならこの時期、
母の多くは職場でも、心理的なポジションが大きく変わる地点に立っているからです。

若い頃のように、
・教えてもらう立場
・守られる立場
・評価を待つ立場
でいることは、ほとんどありません。

代わりに求められるのは、
• 上からの期待と責任を引き受けること
• 下のミスや感情を「場に波立てず」処理すること
• 成果だけでなく、空気や関係性まで含めて管理すること

つまり母は、
仕事をする人から
仕事と人の両方を回す人へと移行しています。



◎感情を「持つ側」から、「受け止める側」へ

このポジションの変化で、
最も大きく変わるのは「感情の扱われ方」です。

下の立場にいるとき、
不安や不満は「聞いてもらえるもの」でした。

しかし挟まれる側になると、
感情は「処理するもの」になります。
• 部下の不安
• 後輩の愚痴
• 上司の苛立ち
• 組織の都合

それらを表に出さず、丸く収める役割を担う。

ここでは、
「私はどう感じているか」は二の次になります。

この段階で母は、
自分の感情を置く場所を一つ失うのです。



◎「ちゃんとしている人」ほど、負荷が集中する

特に負担が大きくなるのは、
• 真面目な人
• 責任感が強い人
• 空気を読める人
• 人の感情に敏感な人

です。

こうした資質は本来、強みです。
しかし挟まれるポジションでは、
強みがそのまま消耗源になります。


・自分が我慢すれば回る
・私が引き受けた方が早い
・ここで感情を出すべきではない

そうやって、
小さな自己抑制を何度も重ねていく。

この時点で母はすでに、
「耐える前提」で日常を回している状態に入っています。



◎問題は「忙しさ」ではなく、「立場の固定」

ここで重要なのは、
この苦しさが単なる多忙さや疲労ではない、
という点です。

本質は、
心理的に逃げ場のない立場が固定されることにあります。
• 感情を出せば「未熟」
• 弱音を吐けば「頼りない」
• 反論すれば「扱いにくい」

そう認識されるリスクを、
母自身が一番よく分かっている。

だからこそ、
感情は内側に押し込められます。



◎この状態で、家庭に戻ると何が起きるか

職場で一日、
感情を整え、抑え、飲み込み続けた母が、
家に戻ります。

そこで待っているのが、
思春期の子どもの
• 不機嫌
• 反抗
• 無視
• 棘のある言葉

です。

ここから先は、
「家庭の問題」として片付けられがちですが、
実際にはすでに、
職場で消耗しきった心の上に起きている出来事です。




第2章|家庭で起きていること


◎母が支えてきた“意味”が揺らぐ瞬間

思春期は、
子どもが親から心理的に離れていくプロセスです。

これは反抗心や性格の問題ではなく、
発達上、避けることのできない移行期です。

子どもはこの段階で、
「親の価値観をそのまま受け取る存在」から、
「自分の内側に基準をつくろうとする存在」へと変わっていきます。

そのため、
親、とりわけ母との距離は、
意図せず、しかし確実に調整され始めます。



◎母が体感するのは「成長」ではなく「拒絶」

発達の視点から見れば、
これは自立に向かう健全な動きです。

しかし、母の体感はまったく別です。

思春期の子どもは、距離を取るために、
あえて強い反応を使います。
• 否定する
• 反発する
• 無視する
• 棘のある言葉を投げる

これらは、
「離れたい」という衝動が、
まだ言葉として整理できない子どもが選ぶ、
最も分かりやすい距離の取り方です。

母にとっては、
これまで築いてきた関係そのものを
否定されたように感じられても無理はありません。



◎「感謝されない」ことが、なぜここまで辛いのか

幼少期の子育てでは、
母は日常的に「肯定」を受け取ってきました。
• ママがいい
• 一緒がいい
• ありがとう
• だいすき

これらは言葉だけでなく、
視線、身体接触、反応の速さとして返ってきます。

母は知らず知らずのうちに、
それらを心の回復源として受け取っています。

しかし思春期に入ると、
このフィードバックが、ほぼ一斉に消えます。

感謝されないことそのものよりも、
「自分が役に立っている実感」が失われること
が、母を深く揺さぶります。



◎「可愛い反応」が消えるという喪失

多くの母が、
この時期に言葉にしにくい喪失感を抱えます。

それは、
「子どもが可愛くなくなった」という意味ではありません。
• 目を合わせてくれない
• 話しかけても反応が薄い
• 触れられるのを嫌がる

こうした変化は、
母の中にあった関係性の温度を一気に下げます。

母はここで、子どもを失うのではなく、
「自分が安心できる役割」を失うのです。




◎家庭に逃げ場がなかった母は、どこで耐えてきたのか

精神的にワンオペで子育てをしてきた母は、
家庭に「甘える」という選択肢を、最初から持っていません。

• 相談しても状況は変わらない  
• 期待すると余計に傷つく  
• 自分が動いた方が早い  

そう学習しながら、
母は家庭の中で感情を処理する回路を、静かに閉じてきました。

だからこそ母は、
「家庭がしんどくなった」とは感じません。

ずっと、しんどかったからです。



◎それでも母が折れずにいられた理由

では、なぜ母はここまで持ちこたえてきたのでしょうか。

それは、
家庭が楽だったからでも、
支えられていたからでもありません。

子どもが、
• 自分を必要としていた
• 自分の関与で成長していた
• 関係の手応えを返してくれていた

この実感が、
母の中に「耐える意味」を作っていたからです。


言い換えれば、
母は感情で支えられていたのではなく、
役割で自分を支えていたのです。



◎思春期は、「耐え方」が通用しなくなる時期

思春期に入ると、
この耐え方が一気に通用しなくなります。

子どもは、
母の手応えを返さなくなる。
必要とされている感じが消える。
関与すればするほど、拒まれる。

それでも母は、
これまでと同じように立ち続けようとします。

しかしここで、
母の内側に、ズレが生まれます。

「頑張る理由が、見えない」



◎家庭が元々しんどかった母ほど、揺らぎは深くなる

皮肉なことに、
家庭に逃げ場がなかった母ほど、
この揺らぎは深くなります。

なぜなら、
• 逃げる選択肢がない
• 弱音を吐く回路がない
• 誰かに預ける経験がない

その状態で、
「役割の意味」まで揺らぐからです。

家庭がしんどくなったのではありません。

しんどさを支えていた最後の理由が、消えるのです。



◎ここで母は、無自覚に限界線を越える

この段階で母は、
自分が限界に近づいていることに、
ほとんど気づきません。

なぜなら、
• 今までも耐えてきた
• これくらいで折れるわけがない
• 母なのだから

そう自分を押し続けてきたからです。

しかし心は、
すでに回復不能な状態に近づいています。

そしてここから、
世界の見え方が変わり始めます。




職場でも家庭でも、
母が「感情を置ける場所」を同時に失ったとき、
心の中では、ある変化が起き始めます。

それは、
世界が「敵だらけ」に見え始める、という変化です。


◎ここまで読んで、

もしここまで読んで、
「分かる。でも、まだ苦しい」
と感じているなら、それは当然です。

なぜなら今あなたは、
何が起きているかの入口に立っただけで、
なぜここまで追い込まれるのかまでは、
まだ見えていないからです。


この先では、
母が「敵だらけの世界」に閉じ込められていく過程と、
そこから自分を責めずに抜け出す視点を、
構造として解き明かしていきます。

苦しさを「自分の問題」に回収したままにしたくない方は、
このまま読み進めてください。

https://note.com/hapihapi7/n/n724d988eecbc