いしいしんじ『プラネタリウムのふたご』より
兄貴という手品師が出てくる。
兄貴には6本目の指があったらしいというウワサだ。
若い頃、ステージに立った兄貴は、何も知らなかった。
人前で手品を披露したのだが、全く隙のないその技に、お客はみんな引いたという。
兄貴は観客を連れて行くことなく、一人で、一人だけの高みに行ってしまったのだ。それ以来、兄貴は一回も一人で舞台に上がることはしなかった。
たった1匹の友達の犬が死んだその日、その直後、兄貴はたった一人でステージに立つことを、テオ座長に命令される。
テオ座長は兄貴に言う。
「いいかお前、今夜だけいっておくが、手品は、種を用いたごまかしなんかじゃない。現実から目をそらすことなどでは決してない。手品とは、現実を超え、あらたな世界を見いだすための技だ。この世へたしかに両足をふんばり、そのはるか高みへと飛び上がる。特別な技なのだ。いまのお前になら、ほんものの、正真正銘の手品ができる。お前は今夜、やってみせねばならん」
凍りついたような無表情を観客に向ける兄貴。
兄貴は手品を始めた。
右手から「ポコん」と白い玉を何個も取り出し、宙を舞う。
兄貴は微笑えみを見せた。
見えない糸を伝って、兄貴の笑みはただちにお客たちの胸にそれぞれへ飛び火した。
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テンペルとタットルという、プラネタリウムに捨てられていたふたごのお話。
テンペルは興行で街に来たサーカス団に魅了されて、そのまま街をでる。
タットルは街から未だに出られない郵便配達員。
育てのお父さんとプラネタリウムを運営し続けている。
目の見えない魔女のようなババに、手紙を届けるのが日課。タットルのために外国から来たと思わせる手紙を毎日書き続けているババ。
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これはいつか舞台でやりたい。
最初の空間作りはプラネタリウム。
暗転すると、プラネタリウムが始まって、観客席の中から、ふたごの赤ちゃんの泣き声が聞こえてくるの。
タットルのプラネタリウムの特別興行では、ブラックホールを抜けた「銀河」を表現する。
お客さん全員にシャボン玉吹いてもらって、優しい光当てて「銀河」に行ってもらう。
それで、照明さんとか音響さんに、機材が痛むって怒られて。そういうのも全部入れちゃう。
舞台の装置が回ると、空間は一変してサーカス小屋。
客席はどうやったらできるかな。
光の当て方かな。
三角屋根のテントで、赤と白のシマシマで、小屋が出来上がる。
眼帯をしたテオ座長や、銀髪の綺麗なテンペル、いつも色の眉毛を描いている妹やら、足のないうみがめ氏、6本指の手品師兄貴が出てくる。クマに馬、犬も。
きっと、楽しいと思うんだよ。
作りたい。
めっちゃお金かかるけど。
いつかね。
なかやまえりか