ちょ・ちょ・ちょっとしたおはなし

 

ツバメが渡ってきた。

ミモザが咲き始めた。

眼鏡をかけた。

 

ツバメの首元は朱色ともオレンジとも言えない色をしていた。

つぶらな瞳だった。

 

眼鏡をかけたはずなのに、ミモザはかすんでる。

ミモザはいつも物語の世界にいるような気持ちにさせる。

なんでやろう。

 

時間の積み重ね。

また春がきた。

 

去年の春は何をしていたっけ。

一昨年の春は何をしていたっけ。

 

算数が苦手な女の子、いつも物語ばかり作っている女の子に、

わり算を教えていた。

毎日毎日同じことを言いつづけて、3年。

諦めなかった。

算数が全く好きじゃなかったのに、通い続けた彼女は勲章もの。

 

彼女は今年の春で5年生になる。

 

こないだ。

いつの間にかツバメが軒下に巣を作っていることを見つけた日。

ミモザを見て目をこすったその日。

 

彼女は一人でわり算を解いて、正解を叩き出した。

彼女は平気な顔をしていた。

 

ちょっと目を離したすきに、さっきまで寝転がっていた赤ちゃんが

急に座り立ちをしていた時の、お父さんの驚きに似ているのかもしれないな。

時間を積み重ねるってこういうことか。

 

私は。

というと、めっちゃ笑った。

年甲斐もなくめっちゃ笑ってたら、彼女に「うるさい」と、叱られた。

 

今度は彼女に、

私の苦手な理科を教えてもらおう。

何年後になるかな。

 

 

な・な・なかやまえりか