がん研有明病院の乳腺内科部長である高野利実さんのご著書「がんとともに、自分らしく生きる」を読みました。

 

20数年間、がん医療の最前線で腫瘍内科医として多くのがん患者さんと向き合ってこられた高野さん。

この本では世間の耳目を集めるような最新の治療法が紹介されるわけでも、「患者よ、がんと闘うな」といった刺激的な言葉が出てくるわけでもありません。

 

がんになっても幸せをめざす、ということ、

がん治療とは一体なんのために行うのか、ということ、

医師として、またひとりの人間として学び、気づかれたことを、高野さんがこれまで関わられてきた患者さんとのエピソードを交えながら語られています。

 

その中でも高野さんが研修医時代に出会われたアメリカの医師パッチ・アダムスとのエピソードが心に響きました。

少し長くなりますが、高野さんのご著書より一部抜粋、ご紹介させて頂きます。

 

 

パッチ・アダムスーー1998年に公開されたロビン・ウィリアムス主演の映画のタイトルとして、ご存じの方が多いと思いますが、この映画で描かれた破天荒な医師パッチ・アダムスは、実在の人物で、私がもっとも尊敬する医師の一人です。

 

1945年生まれのパッチは、70歳を越えた今も、世界中をかけまわり、ピエロの扮装で病院を訪れる「ホスピタルクラウン」の活動や、講演活動などを精力的に行っています。

 

私は研修医のときに映画「パッチ・アダムス」を見て感動し、2000年に、本物のパッチと出会い、以来、手紙のやり取りをしたり、来日企画のお手伝いをしたりしています。

 

パッチは、「Health is based on happiness」(健康とは、幸せであるかどうかで決まる)と言っています。

 

「健康」とは何かと聞かれれば、多くの人は「病気でないこと」と答えますが、パッチは、その考え方を否定します。

 

健康というのは、病気であるかどうかとは関係なく、病気でなくても、その人が幸せでなければ、健康とは言えません。逆に、病気であっても、その人が幸せであれば、健康だとパッチは言います。

 

病気であろうとなかろうと、誰もが幸せになることができるし、それが本当の意味での健康だということです。

 

たとえ病気を治せないとしても、人を幸せにするために医療は存在するのであり、真の医療というのは、人を幸せにすることを通じて、真の健康をもたらします。

 

 

2002年、ある雑誌の企画で、パッチに単独インタビューする機会がありました。そのとき、日々の診療で感じていたことを聞いてみました。

 

「パッチ、日本では、病気自体が不幸だというイメージが根強いけど、治らない病気を抱える患者さんに、幸せを感じてもらうには、どうしたらいいだろう?」

 

パッチの答えは明快でした。

 

「まず、君自身が幸せになること。そして、誰もが幸せになれると心から信じることだよ。それから、同じ思いを持つ仲間と一緒に、楽しく、愛に満ちた、創造的な環境をつくればいい」

 

「がんの患者さんでも、幸せに過ごしている人はたくさんいる。そういう患者さんと語り合えば、何が彼らを幸せにしているか見えてくるはずだ」

 

「がんという病気は、考え方次第で、扉を開くものにもなりうるし、扉を閉ざすものにもなりうる。誰もが自分の意志で、幸せになることを選択できる。自分の命はあと何日しかないと数えるよりも、「今日も私は生きている」と毎日を祝福して生きたほうがいい」

 

「死は敗北ではない。医療に勝ち負けがあるとしたら、勝利とは、最後までその人を愛しぬくこと。『生きるのは悲惨だ。誰も私を愛してくれない』と嘆かれたとしたら、それは医療の敗北だろう」

 

このインタビューから10年以上たちますが、いまでも、私の心に深く刻まれている言葉です。(高野利実著 「がんとともに、自分らしく生きる」 )

 

いやぁ、ほんと素晴らしいですね、パッチ先生! これほど誠実さ、優しさに満ち溢れた言葉があるでしょうか。まさに愛の金言です。

 

そして、がんに罹患してから私もパッチ先生と同じようなことを思っていたことを知り、とても勇気を頂きました。

 

「がんとともに、自分らしく生きる」。今、病と共にある方やそのご家族、そして、医療に携われていらっしゃる方の光となるような良書だと思います。